アンデル公爵家でのお茶会(2)
客間では、先にメルローサが待っていた。
「ようこそ、エゼルキナ侯爵令嬢。よくおいでくださいました」
笑顔で迎えてくれたものの、少し元気がなさそうな顔色で、アンリエッタは少し心配になった。
「お招きいただきありがとうございます。私もアンデル公爵令嬢にはお会いしたいと思っておりました」
挨拶を交わすと、侍女がメルローサの向かいの席にアンリエッタを案内した。
「私も一緒にお茶を頂いてもいいだろうか。折角エゼルキナ侯爵令嬢がいらっしゃっているのだから、こんな機会は滅多にないと思ってね」
え、とアンリエッタが振り返る。
「お兄様、初対面の令嬢に対して失礼ですわ。本日は私との約束なのですよ」
「王宮でも評判の才媛とお近付きになりたいと思っただけだよ」
「余計に質が悪いです。私の信用を損なうような真似はお控えくださいませ」
本気で怒り始めたメルローサに、はいはい、と退散するセルジュ。
「申し訳ございませんエゼルキナ侯爵令嬢。兄が失礼な事を申しました」
「いえ…何やら王宮の図書室にご興味を持たれていたようですのでここに来る間にその話をしていたのです」
それを聞いてメルローサは目を見開いて呆れ、その後嘆息した。
「王宮図書室なんて、そんなものを兄が家族に話していたことなんて一度もありませんでしたわ」
「あら、そうなのですか」
どうせアンリエッタと話す取っ掛かりが欲しかっただけなのだろう。
「でも未来の国政を動かす者といたしましては、図書室は大変勉強になる場ですので、良い事ではないのでしょうか」
セルジュの思惑を知ってか知らずか、アンリエッタはころころと笑って返した。
(流石ですわ)
アンリエッタの切り返しに、メルローサは感心した。
毒気を当ててもするりと躱してしまう。
侍女の淹れてくれたお茶は、オーソドックスながらもふくよかな香りがしていた。
「お茶のお味はいかがかしら。うちの領で採れたものです。エゼルキナ侯爵令嬢のお好みがよくわからなかったので、余り癖のないものを選びました」
「まあ、ありがとうございます。公爵領でお茶が採れるのですね。素晴らしいお味です」
お茶を口に含んで香りを楽しむ。
「もしも他のお茶も試してみたいと思われるのでしたら、是非お召し上がりください」
侍女に合図をすると、3つのティーポットを乗せたティーワゴンを運んできた。
香りが混ざらないように、冷めないようにティーコゼーが被せられている。
その中で、ラベンダーの香りが仄かに香るお茶を選んだ。
相手が苦手かもしれないものを避けて供する姿勢に、アンリエッタは好ましいと思えた。
暫くは領地の産物などの当たり障りのない話題が続いた。
「お茶を気に入っていただけて良かったです。実は、ずっとエゼルキナ侯爵令嬢とお話をしてみたいと思っておりました」
メルローサがおずおずと本題を差し出してきた。
「そうですか。それは光栄なことです」
実は私もそうでした、とは言えない。
第一王子の寵を得ているアンリエッタがそう言えば、嫌味にも取られてしまう。
「もうすぐ第一王子殿下の御生誕日です。何を贈れば喜ばれるのか、是非とも侯爵令嬢の御助言をいただきたく思いまして」
「そうですね。確か来月でしたね」
過去にもロドニーに生誕祝いを贈ったことがある。
それらは何れもロドニーから所望されたものだった。
最初はミシャルガ語の子供向けの絵本。
アンリエッタと同じことができるようになりたいと。
次は侯爵家の庭に咲く花の押し花の栞。
アンリエッタが見ているものと同じものを見られるようにと。
その次はアンリエッタが刺繍したハンカチ。
ピンクゴールドの生地に施されたアンリエッタの手作業。
(む、難しいわ…だってロドニー様の喜ぶものの傾向が一方向しかないんだもの)




