アンデル公爵家でのお茶会(1)
王子からの手紙に困惑して返事に困っていたところへ、アンデル公爵家からお茶会の招待状が届いた。
大々的なものではなく、メルローサ嬢が個人的にアンリエッタと話をしたいのだという。
「私の殿下を取らないでとか、そういうことを言われちゃうのかしら」
兄伝手に聞こえてくる王宮の噂は、ロドニーとアンリエッタとの間に、アンデル公爵家が力で捻じ込んできたというものだった。
違うのに。
全く違うのに。
それどころか、アンデル公爵令嬢には望まぬ縁談を押し付けてしまったのではないかという後ろめたささえ感じていたのに。
それを否定するなら、エルネストとの関係も明かさなければならない。
当のアンデル公爵も、政治を弁えているのでわざわざ否定して回ることもしていない。
王宮で婚約者の王子に冷たくされ、味方の少ないメルローサ嬢に申し訳なく思う。
せめて自分は彼女の味方になりたい、そう伝えたい。
心配したエルネストが付き添おうかと尋ねたが、ロドニー王子がご一緒でないのなら自分一人の方が良いとアンリエッタが断った。
アンデル公爵家は広大な領地を持ち、しかも経営が良好なだけあって王都の邸は立派なものだった。
領地の父公爵に代わり、メルローサの兄であるセルジュがアンリエッタを出迎えた。
アンリエッタもメルローサも社交界にデビューする前なので、セルジュ含めてアンデル公爵家との交流は今までなかった。
領地の経営も互いに問題がなく、交流の必要性もなかったのだ。
セルジュは王都にいたのもあって、王族や貴族からも評判の良いアンリエッタの話だけは聞いたことがあった。
「お待ちしておりました、エゼルキナ侯爵令嬢。我が妹がご無理を申しまして御足労頂き、感謝いたします」
公爵家の方々には疎まれているかもと思い、戦々恐々としていたが、セルジュがにこやかに迎えてくれたのでほっとした。
「アンデル小公爵様にエゼルキナ侯爵家が一女、アンリエッタがご挨拶申し上げます。侯爵家の末席の私にもご丁寧な挨拶を頂き、痛み入ります」
王宮のマナー教師にも褒められたカーテシーと挨拶の口上に、セルジュも感銘を受けた。
執事の先導で客間に向かう途中で、セルジュがアンリエッタに話しかける。
「王宮で御父上と兄上にお会いしたことがあります。兄上とよく似ておられるとよく言われませんか」
確かにアンリエッタの兄のセドリックとは、顔立ちだけでなく淡いピンクゴールドの髪の色も、澄んだ空色の目も同じなので他人に見間違われることはないと言われる。
「はい、両親からはよくそのように言われます」
淡い赤毛の母と、シャンパンゴールドの髪色の父親との子供達で間違いない、と周囲にも知らしめるような色合いだ。
「エゼルキナ侯爵令嬢の話もよく耳にします。今も時々は王宮の図書室に出向かれておられるとか」
「まあ、そうなのですか。王宮図書室には貴重な歴史書や外国の書物が多くあるので、大変勉強になります」
アンリエッタには王宮に自由に立ち入る資格が与えられていたが、それでも図書室とそこから外に出られるテラスと庭くらいしか足を向けなかった。
「ならば私も王宮の図書室に通おうかな。そうすれば貴女に会える」
一瞬、何を言われたのかと、思わず足を止めてしまった。
「小公爵様、あの図書館では私より魅力的な本に沢山出会えます。もし本がお好きなのでしたら王太子殿下にご相談いただきましたら良いお返事がいただけるかと」
王宮図書室の実質の管理人は宰相であるアンリエッタの父侯爵。
出入りの許可を出すのは国王か王太子の裁可が必要だ。
逢瀬の機会を狙って図書室に出入りする貴族を追い落とそうとする者は、二重の監視下に置かれると暗にアンリエッタは牽制した。
王家の覚えもめでたい侯爵家の令嬢と、王子に愛されない公爵家の令嬢。
小公爵がアンリエッタの足を引っ張ろうとしても不思議ではない。
「良い情報をありがとうございます、エゼルキナ侯爵令嬢」
軽く笑ってセルジュは話を切り上げた。
この侯爵令嬢と縁ができれば保険ができる。
いざとなった時に王家とのパイプになる。
セルジュにも既に婚約者は居るが、人脈として残す価値がある。
どのみちバスティアン公爵令息との縁談も政略なのだろうから。




