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若葉のカムイ  作者: ☀シグ☀
第一章:東へ
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六十五話:はやくお昼になって!

 バジルの葉が大きくなってきました。


 ヨミちゃんに連れられて、また掲示板の前までもどってきた。


 帰ってきたヨミちゃんは服こそ綺麗だけれど、長い黒髪はぼわっとぐちゃぐちゃで、顔もお疲れな表情。

 まるで強い風を受け続けたあとみたい。


 ヨミちゃんを見るなりカウンターから出てきたヒト達。

 すぐにヨミちゃんになにか言われてもどっていっちゃったけれど、ヨミちゃんを心配していた。


 僕もヨミちゃんが心配。

 でも、ヨミちゃんは休む前に、僕になにか教えたいみたい。

 なんだろう。


「これ読める?」


 ヨミちゃんが指し示したのは、掲示板の一番下に貼られた紙。


“冒険者の基礎知識を知ろう。白の学舎にて、冒険者になったばかりの皆様に必要な知識と技術を教えます。給食給金昼休憩あり。詳しくは窓口のギルド職員に”


 読めるけれど、これがどうしたんだろう?


『読めるよ?』


「よかった。これが今日若葉が受けるクエストだから、お昼を過ぎたくらいに受けにきてね。その紙を取って、あの窓口に持っていけばいいから。ま、今日は私が教えるから、白の学舎に行くのは明日からだけど」


 そうなんだ! 楽しみだね!


『わかった!』


「んじゃ、またお昼にね〜」


 僕が返事をすると、ヨミちゃんはフヨフヨと階段の方へ、飛んで行っちゃった。


 お昼って、太陽が高く上がった頃でいいんだよね?

 それまでなにしていよう。

 とりあえず広場にもどって……あ。


 扉、開けないと。


 とりあえず扉の前まで行って、じっと見てみる。

 うーん、どうやって開けよう。


「どうしましたか?」


 声の方へふり向くと、青く短い髪が綺麗な男のヒトがいた。

 マットやアイシャが着ていた服。

 このヒトもこのお屋敷のヒトみたい。


 あ、そうだ!

 お願いしよう!


『広場に行きたくて! 扉を開けてほしいの!』


 男のヒトはすこしびっくりしたみたいに目を大きくしたけれど、すぐに「そうなんですね」と言って、出入り口の扉を開けてくれた。


 タタっと歩いて、外に出る。


 あ、お礼!


『ありがとう!』


「いえ、私共も気付かなくて申し訳ないです。今度入られる際は、ドアに一度触れて下さい。それで開くようにしますので」


 わ! すごい!


『うん! わかったよ! ありがとう!』


「では」


 扉がゆっくりと閉められる。


 今日は素敵なヒトに、新しくふたりも会えちゃった。

 いい日になるね!


 ぐーぐ、ぐーぐー


 あ! そろそろ朝ごはんだね!



□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □



『ごちそうさまでしたー!』


 広場の木の下でコロッケを食べて、一休み。


 それにしても、コロッケは秘密ってエルピが言っていたから、どうやって食べるかとっても悩んだ。

 すると口の中にグワッとコロッケが入ってきたから、びっくりしたし、息が出来なくなってたいへんだった。


 でも、あれならだれにも見られないで食べられるね。

 さすがエルピ!


 行き交うヒト達を眺めて、お昼を待つ。

 カンタラのヒトは、皮を使った服を上に着ていることが多い。

 頑丈そうだし、転んでもケガがすくなくなりそう。


 そういえば、にほん? だと、茶色や黒の髪のヒトが多かったけれど、カンタラは黄色い髪のヒトが多い。

 にほんの東か西に行ったところのヒト達も黄色い髪のヒトが多かったし、場所で違うだけなのかな?


 あ、桃色や青色髪のヒトは、あっちの世界で見たことがないかも。

 僕が見たことがないだけで、いたのかな?


 ……。


 うーん、どう?

 もうお昼になった?


 空を見上げても、太陽はまだ昇る途中。

 太陽って、思っていたよりもゆったりしていたんだね。


 蝶々さんもいないし、すこし退屈。


 ……あ。


 ふと、赤べえがやっていたことを思い出した。

 狼さん達に隠れて、ひとりでやっていたこと。

 僕が見つけちゃって、ふたりの内緒にしたこと。


 お屋敷に入る前もやったけれど……またやってみようかな。


 よいしょと地面に寝っ転がって、背中を下にする。

 枝葉越しの青い空がとっても素敵。

 この空を見ながら、体をよじって、地面に背中を擦りつける。


 うん! 気持ちいい!


 思えば、こうやって背中を地面に擦りつけるのは、生まれ変わってからだとこれで二回目だった気がする。

 森では狼さん達に毛づくろいし合っていたし。


 ぐねぐねと、さらに体を動かす。


 わ! わ!


 背中にあたる小さな石が、いい気持ち!


 生まれ変わる前の僕はとっても大きかったから、地面に背中を擦りつける時もたいへんだった。

 だって、体をよじることも一苦労だったもん。

 だから、  (・・)によく背中を掻いてもらって…………あれ?


 だれに背中を掻いてもらっていたんだっけ。


「……なにやっているの? ワカバ」


 声をかけられて、ハッと起き上がる。


『メラニー!』


「俺もいるぞ」


『テオ!』


 昨日と似た服を着たふたりがいた。



□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □



「あそこが美味しい果物を売っているお店で、その隣りが髪飾りを売っている所」


「そこの小道の突き当りを右に行くと、最近有名になった隠れ家レストラン。あの果物屋の左隣りの道を行くと、腕のいい鍛冶屋だ」


 メラニーとテオに連れられて、街をお散歩!

 とってもうれしい!


 メラニー達がかわりばんこに僕を案内してくれるみたいで、今日はメラニーとテオの番なんだって!


 僕がお屋敷に行くまでに通った道――西大通りを歩く。

 果物や髪飾りはとってもメラニーらしいし、レストランと鍛冶屋もテオらしい。


 鍛冶屋って、花火が上がったら叫ぶやつだよね。

 僕でも知っているんだ!


『かーじやー』


「え、それ、かぎや?」


 違ったみたい!?

 え、それに、メラニーも知っているんだね!

 すごい!


 いつものことなのか、ヒトの通りは多い。

 そして、チラッ、チラチラッと、視線も多い。


『ヒトがいっぱいだね』


「うん。西側は宿屋や家が多いからね。朝だし人通りが多くなるんだ」


「カンタラはこの西側から発展していったらしいからな」


 へー! そうなんだ!


 メラニーも知らなかったようで、テオに「そうなの?」と聞いていた。


 一つカンタラについて知れて、うれしいな。


 お店からひとりの女のヒトが出てくる。

 そのヒトは、僕達を見て目をまるくしたあと、ふにゃりと笑った。


「あらまメラニーちゃん。大きくなったわねー」


「あ! ビビアナおばちゃん!」


 メラニーが手をふる。


 ビビアナおばちゃん? の前で僕達は立ち止まった。


「おはようございます」


「あらテオちゃんも大きくなって……ちょっと、随分とカッコよくなったわねー。モテ始めたんじゃないかしら?」


「はは、全然ですよ」


 テオが頭をかきながら笑う。


「ふふ。その癖は早目になおした方がいいわね。それより……メラニーちゃん、がんば! よ!」


「え!? あ、あたしはテオのお姉ちゃんだから、そういうのはないです!」


「あらま……これは思ったよりも重症だったわ」


 ビビアナおばちゃんは、首をかしげて、ほっぺに手を添えた。

 眉も困ったように下がっている……けれど、あまり困っていない気がする。

 それよりも、気合いを入れている感じ?


 ふと、ビビアナおばちゃんが僕を見つけた。


「あら! 昨日来た子ね! 確か……アオバ!」


『若葉だよ!』


「そうそう!」


 わかっていなさそう!


「ワカバちゃん、昨日ぶりね」


 昨日ぶり?


 ビビアナおばちゃんの顔をじっと見る。

 うすい黄色の髪がくりんくりんと波打って……あ!


『ビルのお肉!』


 を見ていたヒト!


「そう! ちゃんと火、入っていたかしら」


『うん! おいしかったよ!』


「あらいいわね! 美味しいのは、とっても素敵なことだわ!」


 ビビアナおばちゃんは、手を合わせて、自分のことのようによろこんでくれた。

 そして、はっとなにかに気づいたように息を吸うと、さっきよりもすこし勢いよく手を合わせる。


 パンッと、軽く音が立った。


「メラニーちゃん、あの本、手に入ったらしいわよ。グレシアが伝えてって」


「え、本当ですか?」


 メラニーとビビアナおばちゃんが話し始める。

 メラニーは最初こそ半信半疑みたいな表情だったけれど、だんだんとうれしくなったのか、顔が綻んできている。

 メラニーがとってもうれしそうで、僕もなんだかうれしい。


「わかりました! 後で行きますね!」


「ええ。グレシアにもそう伝えておくわね」


「はい! じゃあ、そろそろ!」


「ワカバちゃんもまた来てね」


『うん!』


 メラニーは手をふって、僕は尻尾をふって、テオは頭を一度だけ縦にふって、歩きだす。


「ごめんねワカバ、ちょっと話し込んじゃった」


『ううん、大丈夫!』


「ふふ、ありがと」


 うれしさが隠し切れていないメラニー。

 足取りもなんだか踊っているみたい。


「よかったな」


「うん!」


『よかったね! メラニー!』


「うん! ありがとうワカバ!」


 それから、西門まで歩いて、引き返して、広場でメラニー達とわかれた。


 広場に帰るまでも、見覚えのない果物があったりして、おもしろかった。


 あ、そうそう。

 東の方は、畑や果樹園があるんだって。

 やっぱり、荒野の土と違うのかな。

 それに、雨は降るのかな。


 ま、行ってみればわかるよね!

 たのしみだなー!


 お店のお手伝いをしている男の子に怖がられて、泣かれちゃったのはびっくりした。

 目を合わせるなり、泣かれちゃったの。

 レンガの道の上に転がったり、ぴょんぴょん跳んだりしたら、笑ってくれたけれど、あれはびっくりしたなー。


 それを入れても……うん! とってもたのしかった!

 また――



 あ。



 お肉屋さんに行ってない!


 がっくーん。


 しょんぼり。


 ……まあいっか!


 また今度のおたのしみってことにしよう!


「――二番目の青(セカンド・ブルー)


 ポン! ポン!


 あ!


 お屋敷の方を見れば、朝と同じように、女のヒトが空へ右手を挙げていた。


『今のは朝のクエスト更新の合図だ。昼と夜にも更新があるんだが、一番多いのは朝だから狙い目なんだ』


 スコットの言葉を思い出す。

 朝の合図があるなら、お昼の合図もあるよね。

 ってことは……!


 やった! お昼になった!

 クエストを受けにいこう!


 スクッと立ち上がって――ぐっぐー。


 …………。


 先にお昼ごはんにしようっと!


 読んでいただきありがとうございます。

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