追跡
――カツン。
――カツン。
――カツン。
足音だけが、静かな校舎に響いていた。
全員が動けなかった。
目の前に立っている。
白い仮面の人物。
表情は見えない。
声も聞こえない。
ただ。
そこにいるだけで。
全員に恐怖を与えていた。
「……何だよ、あれ」
石田が震えた声で言う。
誰も答えない。
答えられない。
なぜなら。
あれが何なのか。
誰も知らないからだ。
その時。
白い仮面の人物が、ゆっくりとスマホを取り出した。
画面が全員に見える。
【THIRD GAME】
【追跡】
直人は息を呑んだ。
続いて、ルールが表示される。
【制限時間:60分】
【逃走者は校舎内から脱出地点を目指してください】
【鬼は逃走者を追跡します】
【鬼に捕まった場合】
【感染状態になります】
「感染……?」
大和が呟く。
すると、機械音声が響いた。
『感染率が100%に到達した場合』
『対象者はゲームから除外されます』
空気が凍る。
除外。
その言葉の意味は。
全員がもう知っていた。
消える。
佐伯のように。
その瞬間。
画面が切り替わった。
【第一ターゲット】
【朝霧直人】
直人の顔から血の気が引く。
「また……俺かよ」
白い仮面が。
ゆっくり直人を見る。
視線は感じない。
なのに。
狙われていることだけは分かった。
「走れ!」
大和が叫んだ。
その声で全員が動き出す。
廊下へ飛び出す。
階段を下りる。
ただ逃げる。
それしかなかった。
「直人!」
美月が隣を走る。
「大丈夫?」
「大丈夫なわけないだろ」
直人は息を切らしながら答える。
「また俺が狙われてる」
「でも」
美月は言った。
「蓮のことを覚えているのは、直人だけじゃない」
直人は黙った。
そうだ。
7人全員が覚えている。
なのに。
なぜ自分だけ。
その答えは。
まだ分からなかった。
その時。
後ろから音がした。
――カツン。
一歩。
――カツン。
また一歩。
鬼は走っていない。
歩いているだけ。
なのに。
距離が縮まっている。
「……嘘だろ」
大和が振り返る。
「なんで……」
鬼は、まだ遠い。
なのに。
次の瞬間。
鬼は目の前にいた。
「!?」
直人は反射的に横へ飛ぶ。
白い仮面の手が空を切る。
あと少し。
触れられていた。
「速すぎる……」
黒崎が呟く。
黒崎も逃げながら鬼を見る。
「普通の人間じゃない」
その言葉に。
全員が黙る。
鬼は何も言わない。
ただ。
追い続ける。
直人だけを。
その時。
スマホが鳴った。
【残り時間:52:00】
【感染者:0名】
まだ誰も捕まっていない。
でも。
直人は分かっていた。
このままでは終わらない。
鬼は。
必ず誰かを捕まえる。
そして。
次にスマホが鳴った。
【警告】
【鬼は対象を変更できます】
直人の足が止まる。
「……対象を変更?」
画面を見る。
【条件】
【逃走者同士の裏切り】
【成立時、鬼は新たな標的を選択します】
直人は息を呑む。
まただ。
このゲームは。
ただ逃げるだけじゃない。
人間同士を疑わせる。
それが目的だ。
白い仮面の鬼が。
廊下の奥に立っている。
直人を見ている。
そして。
校内放送が響いた。
『追跡を開始します』




