選別 下
――走る。
ただ、それだけだった。
直人は誰もいない廊下を走り続けていた。
後ろから聞こえる足音。
増えていく気配。
さっきまで同じ教室にいたクラスメイトが、今は自分を探している。
「直人!」
大和の声が響く。
「こっち!」
直人は曲がり角を曲がる。
7人は古い特別棟へ向かった。
普段、ほとんど使われていない場所。
ここなら少しは時間を稼げる。
そう思った。
しかし。
スマホが鳴る。
――ピロン。
【残り時間:18分】
まだ18分。
でも。
直人にはもっと短く感じた。
「どうして……」
直人が呟く。
「どうして俺なんだ」
美月が立ち止まる。
「直人」
「俺が蓮を覚えてるから?」
直人は拳を握る。
「それだけで、こんな……」
言葉が止まる。
蓮。
その名前を口にした瞬間、胸が痛んだ。
忘れられた友達。
存在すらなかったことにされた人。
でも。
自分たちは覚えている。
だからこそ。
狙われている。
「直人」
大和が言う。
「今は考えるな」
「逃げるぞ」
その時だった。
――カツン。
廊下に足音が響いた。
7人全員が振り返る。
そこにいたのは。
「黒崎……」
黒崎恒一だった。
直人は警戒する。
「何しに来た」
黒崎はゆっくり歩いてくる。
「話をしに来た」
「信用できると思うか?」
黒崎は少し黙った。
「思わないだろうな」
「でも、俺も同じだ」
直人を見る。
「俺たち25人も、このゲームに利用されている」
直人は黙る。
「お前たちが嘘をついている可能性もある」
「でも」
黒崎はスマホを見る。
「ゲームが俺たちに求めているのは、協力じゃない」
「疑うことだ」
その言葉に、直人は反応した。
確かに。
このゲームは7人を探すだけではない。
人間関係を壊そうとしている。
その時。
全員のスマホが鳴った。
【特別ルール追加】
画面を見る。
【情報提供者には安全権を与える】
「……」
空気が凍る。
【安全権】
【一度だけ、自分への削除を無効化できます】
黒崎が顔を上げる。
「なるほどな」
「つまり……」
直人が呟く。
「仲間を売れば、自分が助かる」
最悪のルールだった。
その瞬間。
遠くから声が聞こえた。
「いたぞ!」
25人側だ。
直人たちは走り出す。
しかし。
別の方向からも足音がする。
挟まれた。
「こっち!」
突然、声がした。
佐伯悠斗だった。
25人側の男子。
「早く!」
直人たちは驚く。
「なんで……」
佐伯は叫ぶ。
「俺だって死にたくない!」
その言葉の意味を理解した瞬間。
佐伯のスマホが鳴った。
【情報提供者】
【佐伯悠斗】
全員が止まる。
「……え?」
佐伯の顔が青ざめる。
「違う……」
「俺は……」
しかし。
表示は変わらない。
【安全権獲得】
佐伯は震えた。
自分が。
仲間を売った。
その事実が、全員に知られた。
「ごめん……」
佐伯は呟いた。
「でも……怖かったんだ」
その瞬間。
機械音声が響く。
『情報提供者を確認』
『条件達成』
『対象を選択します』
直人の表情が変わる。
「待て」
「何をする気だ」
画面に文字が出る。
【削除対象】
【佐伯悠斗】
教室にいた全員が息を呑む。
「……俺?」
佐伯は笑った。
泣きそうな顔で。
「俺が……選ばれるのかよ」
次の瞬間。
画面が白く光った。
そして。
佐伯悠斗の姿は消えた。
誰も声を出せなかった。
初めてだった。
本当に。
人が消えた。
直人は震える手でスマホを見る。
【残り時間:05分】
その時。
「逃げろ!」
森川拓海が叫んだ。
直後。
廊下の奥から複数の足音。
25人側が来る。
森川が扉を閉める。
「森川!」
しかし。
間に合わなかった。
扉の向こうで大きな音が響く。
数秒後。
扉が開く。
森川は倒れていた。
「大丈夫か!」
黒崎が駆け寄る。
森川は苦しそうに笑う。
「……まだ、動ける」
スマホが鳴る。
【森川拓海】
【状態:負傷】
全員が理解した。
脱落ではない。
でも。
もう安全な場所なんてない。
その時。
最後の通知が届いた。
【SECOND GAME】
【終了】
直人は息を吐く。
終わった。
そう思った。
しかし。
次の瞬間。
【THIRD GAME】
【準備開始】
空気が変わる。
そして。
【次のゲーム】
【鬼ごっこ】
その文字が表示された。
全員が凍りつく。
最後に。
一つの表示。
【鬼を選出します】
直人は画面を見つめる。
「……鬼?」
その瞬間。
校舎の奥から。
誰かが歩いてくる音がした。
――カツン。
――カツン。
――カツン。
白い仮面の人物が。
ゆっくり姿を現した。




