断絶
【次のゲームを開始します】
その文字が表示された瞬間だった。
――パッ。
教室の電気が、突然消えた。
「……え?」
誰かの声が聞こえる。
暗闇。
さっきまで普通だった教室が、一瞬で静まり返った。
「何これ……」
「停電?」
「違う……」
直人はスマホの画面を見つめた。
画面には、さっきと同じ文字。
【次のゲームを開始します】
そして。
――ブツッ。
教室の前にあるモニターが点いた。
真っ黒な画面。
その中央に、白い文字が浮かび上がる。
【SECOND GAME】
【MEMORY】
直人は息を呑んだ。
「……ゲーム?」
その瞬間。
教室中のスマホが、一斉に鳴った。
――ピロン。
全員が画面を見る。
【参加者:32名】
【記憶保持者:7名】
【記憶消失者:25名】
直人は、7人の方を見る。
美月。
大和。
凛。
悠真。
結衣。
翔。
そして、自分。
7人。
全員が蓮を覚えている。
直人は画面を見つめた。
すると、次の文字が表示される。
【MISSION】
【この中に存在しない人物が一人います】
教室がざわついた。
「……存在しない人物?」
「どういうこと?」
直人は嫌な予感がした。
そして。
次の文字が表示された。
【その人物の名前を答えてください】
直人の心臓が跳ねる。
まさか。
そんなはずはない。
直人は画面を見つめた。
【制限時間:10分】
――10:00
カウントダウンが始まった。
「おい」
声がした。
直人が振り返る。
25人側の一人。
黒崎が立っていた。
黒崎恒一。
クラスの中でも、特に冷静な人物だった。
「これ……どういう意味だ?」
直人は答えない。
黒崎は続ける。
「『存在しない人物』って言ったよな」
「……ああ」
「じゃあ」
黒崎は7人を見る。
「お前らが言ってる『蓮』って奴のことじゃないのか?」
教室が静かになった。
直人の手が止まる。
「……」
「違うのか?」
直人は黒崎を見る。
「蓮は存在した」
「証拠は?」
直人は言葉を失った。
「……何?」
「だから、証拠だよ」
黒崎が一歩近づく。
「昨日からお前ら7人は、ずっと同じ話をしてる」
「『蓮はいた』」
「『蓮を覚えている』」
「でもさ」
黒崎は教室を見渡した。
「俺たち25人は、誰も覚えてない」
「……」
「写真は?」
直人はスマホを取り出した。
「ある」
そう言って、写真フォルダを開く。
蓮と撮った写真。
確かにあった。
昨日までは。
直人は一枚の写真を開いた。
「これだ」
7人が画面を覗き込む。
直人。
大和。
美月。
結衣。
そして――
誰もいない。
「……え?」
直人の顔が固まる。
蓮がいない。
直人は別の写真を開く。
また、いない。
「おかしい……」
動画を開く。
再生する。
笑い声。
話し声。
直人たちの声。
でも。
蓮の声だけがない。
直人はスマホを握りしめた。
「……なんでだよ」
黒崎が言った。
「名簿は?」
直人は走って教室の後ろにある名簿を見る。
ページをめくる。
そこには、クラス全員の名前が並んでいる。
でも。
神谷蓮。
その名前だけがない。
「……」
直人の顔から血の気が引いた。
黒崎が静かに言う。
「な?」
「そんな奴、最初からいなかったんだよ」
「……違う」
直人が呟く。
「いた」
「俺たち7人は覚えてる」
「7人全員で口裏を合わせてるだけじゃないのか?」
その瞬間。
「ふざけんな!」
大和が叫んだ。
25人が一斉に振り返る。
「俺たちが嘘ついて何になるんだよ!」
黒崎は冷静に答えた。
「知らねえよ」
「でも、俺たちには関係ない」
「存在しない人間の話をされても困るんだよ」
「……関係ない?」
直人が口を開いた。
黒崎を見る。
「お前らが忘れただけだろ」
「忘れたんじゃない」
黒崎が言い返す。
「最初から、そんな奴はいなかった」
「……」
直人の拳が震える。
「俺は見た」
「話した」
「一緒に笑った」
「一緒に帰った」
「昨日だって――」
直人の言葉が止まった。
昨日。
蓮が最後に言った言葉。
『当たり前だろ』
明日も学校に来る。
そう言った。
なのに。
来なかった。
直人の目に涙が浮かぶ。
「……蓮は」
「確かに、ここにいた」
美月が立ち上がった。
「私も覚えてる」
大和も続く。
「俺も」
凛。
「私も」
悠真。
「俺も」
結衣。
「私も」
そして翔。
「俺も」
7人が並んだ。
25人は黙っている。
黒崎だけが、7人を見ていた。
そのとき。
――ピロン。
全員のスマホが鳴った。
直人が画面を見る。
【残り時間:05:32】
時間がない。
黒崎が言った。
「決めろ」
「存在しない人物の名前を」
直人は画面を見る。
7人は知っている。
答えは一つ。
直人が入力画面を開く。
そして。
ゆっくりと文字を打ち込む。
【神谷蓮】
送信。
美月も。
大和も。
凛も。
悠真も。
結衣も。
翔も。
全員が同じ名前を入力した。
――神谷蓮。
一方。
25人も入力する。
全員が同じ名前を入力した。
――神谷蓮。
画面に表示される。
【7名:神谷蓮】
【25名:神谷蓮】
直人は息を呑む。
「……全員、同じ答え?」
黒崎が呟く。
「当然だろ」
「その名前しか知らないんだからな」
直人は違和感を覚えた。
何かがおかしい。
その瞬間。
モニターに文字が表示された。
【回答を確認しました】
全員が画面を見る。
【正解判定を開始します】
直人の心臓が跳ねた。
7人と25人。
全員が同じ答えを出した。
でも。
もし。
もしも。
このゲームの答えが――
蓮だったら。
直人は拳を握りしめた。
「……蓮」
モニターの画面が暗くなる。
そして。
【ANSWER】
白い文字が浮かび上がった。
直人は息を止めた。
次の瞬間。
画面に表示されたのは――
【正解】
その一文字だった。
教室中に、機械音声が響く。
『正解者を確認しました』
直人は目を見開いた。
「……え?」
そして。
『次のステージへ移行します』
画面が切り替わる。
【SECOND GAME】
【STAGE 2】
【開始】
直人は思った。
このゲームは。
蓮を消すためのゲームじゃない。
蓮を――
**思い出させるためのゲームなのかもしれない。**
その瞬間。
教室のドアが、ゆっくりと開いた。
ーーそこには誰もいない学校があった。
その時全員のスマホに通知が届いた




