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第9話 師匠ならどうするか?

「どうしたらいい?どうしたら…?」


 僕は武器になりそうなものを必死で探した。

 しかし僕の荷物は夕飯の材料が入ったマイバックだけ。長ネギでサーベルと闘うのは厳しい。


 スマホはさっきサーベルで叩かれた時に落としてしまった。


 マリアちゃんのランドセルの中身も教科書と筆記用具だけか……。


「僕が外に出て時間を稼ぐ。マリアちゃんは助けが来るまでここに隠れてて。絶対に外に出ちゃだめだよ。じっとしてたら、きっとリサ師匠が助けに来てくれるから」


「一郎、あぶない。外に出ちゃだめ」


「大丈夫。これでも僕は貴族の端くれなんだよ。リサ師匠に教わった戦法で何とか戦ってみせるから!!」


 僕はマリアちゃんに微笑みかけると、ランドセルから一つだけ武器になりそうなものを借りて、藪から飛び出した。


「やめろっ、変態男!!僕が相手だ!」


 震える声で叫ぶと、マロードは藪を突き刺す手を止め、ゆっくり僕の方を振り返った。


「由緒正しき男爵家の正当な当主たる我になんと無礼な!黙って大人しくしてろ。そしたら見逃してやる!これは貴族の問題だ。庶民が口を挟むな!」


 激高した様子でサーベルを突き付けられて、思わず足がすくんだ。だけどここで逃げちゃだめだ。マリアちゃんを守らないと。


「僕は……庶民じゃない!マリアちゃ……ローザマリア陛下を守る貴族、準男爵・山口一郎だ!お前の悪事もここまでだ!!それ以上続けるようならこれを使わせてもらうぞ!」


 僕はマリアちゃんのランドセルから取った黄色い防犯ブザーを前に突き出した。


「それがどうした?こんな河川敷で防犯ブザーを鳴らしたところで誰も来てくれないぞ」


「違う。これはただの防犯ブザーじゃない。これを引くと、近くで待機しているリサ・ロッテンマイヤー侯爵が率いる護衛騎士団が1分と経たずここに駆けつけることになっている。そしたらお前はすぐに血祭にあげられるぞ!」


 ……僕が持っているのは、ただの学校指定の防犯ブザー。リサやその騎士団が駆け付けるなんてのも、もちろん僕のはったりだ。


 だけど効果があったのか、マロードが少したじろいだ様子を見せた。


「ここで引くなら、今日のところは見逃してやる。さっさと立ち去れ……」


 なんとか騙されてくれ……。防犯ブザーの紐を掴みながら必死で祈る。


 しかし、マロードは唇を醜く歪めた。


「庶民、いや準男爵様のくせに小賢しいことを……。

もし本当にそうなら、なぜすぐにその紐を引かない?なぜ俺を逃がそうとする?」


「いや、まあそれは初回特典というやつで……」


「笑止千万。はったりだろう?子ども騙しだな」


 ダメだったか……。僕は紐を持ったままガタガタ震えるしかできない。


「さあ、さっさとその紐を引いてみろ!引いたが最後、お前を串刺しにしてやるがな!さあ、やってみろ!」


 よしっ……紐を引いたらあいつに飛びかかろう。少しでも時間を稼いでマリアちゃんが逃げる時間を稼ごう!


 グッと紐を引いた。辺りに耳障りな警報音が鳴り響く。


「マリアちゃん、逃げて!」


「小僧、邪魔はさせないぞ!まずはお前からだ」


 マロードがサーベルを構え、僕の方に突きだそうとする姿が見えた。僕は身を固くしてそれを待ち受ける。身体に刺さったらそのサーベルを掴んでやる、マリアちゃんが逃げる時間を稼ぐために……。


「グワッ!!」


 目の前に迫っていたマロードの汚い顔が突然歪んだ。前歯も折れて吹き飛んでいる。どうやら横から飛んできた膝蹴りを頬に喰らったようだ。


「だ、誰だ。俺は、由緒正しき男爵マロード・ギョーヌだぞ、庶民の分際で高貴な顔を足蹴にするなど、不敬にも程があるぞ!」


「残念だったな!私は庶民じゃない!ロッテンマイヤー侯爵家の当主、リサ・ロッテンマイヤーだ!たかが男爵風情が、身分不相応にも、この侯爵の高貴な膝を味わうことができたのだ。感謝して欲しいくらいだな!」


 そこには、不敵な笑いをしながら、いつものように歌舞伎役者のような見栄を切るリサがいた。

 今日は鎌倉権五郎の暫だ!かっこいい!!


「ロ、ロッテンマイヤー侯爵だと……。4階級も上の上級貴族相手では、俺一人ではとても……。よしっ今日のところは引いてやる。命拾いしたな!!」


 マロードは背を向けて一目散に土手を駆け上がっていく。


「待てっ!!」


 そう叫ぶと、体が自然に動いた。土手の中腹でマロードに追い付き、その腰にしがみつく。


「は、離せ!小僧、準男爵ごときが何をするか!!今日のところは引いてやると言ってるんだぞ」


「い、いやだ!ここで逃がしたら、またマリアちゃんを拐わしに来るつもりだろう!逃がさないぞ!!」


 マロードは必死で逃げようとする。サーベルの柄でガンガンと頭を殴られた。だけど、この手を離すわけにはいかない。僕は必死で食らいつく。


 それでもガンガン殴られ、ずるずるとひきずられ、土手の上の道まで来てしまった時だった。


「おいっ!!誰だ!何をしている!」


 突然の誰何の後、懐中電灯のようなもので照らされた。


「あっ、部長、こいつ剣を持ってますよ!現行犯逮捕しましょう!」


 こうしてローデシアの男爵マロード・ギョーヌは神奈川県警に銃刀法違反で現行犯逮捕された。

 安心した僕はへたり込もうとし、足元をふらつかせ、そのまま土手を転げ落ちた。


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