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第47話 まずいことをしてしまったか?

「スマホの代わりに必要な物……というと元の世界に戻るための依り代をくれるってことですか?」


「あ~ごめん。時空の精霊の依り代はうちにもないんだわ~」


「じゃあだめじゃんか」


「違うんだって。ここに依り代はないけど、それが手に入れられる方法があるって言いたかったんだって」


 フィオが焦った様子で僕の腕にしがみついて引っ張る。

 必死だな、おい。必死さに免じて話だけは聞いてあげよう。


「あんたたち、リサ侯爵を追いかけてるんでしょ?そんでリサ侯爵は依り代持ってるはずでしょ?日本から来たんだから」


「たしかに、そうですね……じゃあ追いかけないと!」


 居ても立ってもいられない、急いで部屋を飛び出そうとする僕の腕をフィオが引っ張る。


「待ってよ。リサ侯爵が通ったんは昨日の夜だよ。しかもすごい勢いで突っ走って行ったから走っても追いつくのは無理だって。でも、あたしが力を貸してあげたら……どうかな?」


「そうか……さっきのクルマでリサ師匠を追いかけてくれるとか?」


「あ~、ごめん。それダメなんだわ。なんか辺境伯領の外じゃ、クルマとか使っちゃダメってじいやに厳しく言われててさ……なんでかイミフだけど」


 フィオが目を逸らしながら、毛先を指でクルクルする。


 どうして……?あっ、そうか。領民ぐるみでフィオを、クルマとか電化製品とかが精霊の力で動いてるって騙してるから、領地の外に出てそれがバレるとマズいってことか……。じゃあダメじゃん。


「落ち込まないでよ。あーしが考えてたのは別のアイデア。これ見てよ」


 フィオが壁の地図を指さした。


「リサ侯爵は、こう湖岸沿いに南の王都の方へ向かってんじゃん。だったら王都に先回りして待ってればいいんじゃね?」


「いや、それができないから困ってるんでしょうが」


 フィオは肩をすくめ、チッチッチと指を振った。


「陸を行けば追いつくのは無理だろうね。だけど、湖の上ならどうかな?」


 リサは地図上の湖の上から下へシュッと指を動かした。


「あ―しが持ってるヨットあげるよ。そしたら王都まで1日で行けるし。すまほと交換でどうよ?」


 あ~、なるほど。たしかに……。

 でも、スマホ渡しちゃうのはセキュリティリスクが……、う~ん。


 腕組みをしながら考えていると、またフィオが手を合わせて頭を下げた。てへっと笑いながら舌も出している。


「頼むって。交換が嫌ならレンタルでいいからさ~。王都から戻ってきたら、すまほ返すから~」


 う~ん……。それでもスマホ渡すのは嫌だな~と考え込んでいると、マリアちゃんの姿が目に入った。もう涙が尽きたのか泣いてはいないけど、俯いて物凄く落ち込んでいる……。


「わかった。スマホを貸すよ……」


「えっ?ホント?」


「だけど、もう一つ条件がある。マリアちゃんが大切にしてる子猫のバロンを探しておいてほしい」


 僕がそう告げると、マリアちゃんがやっと顔をあげた。


「おっけ~。領民総出で探せばお安い御用だって~。じゃあすまほ貸してね~」


 フィオは喜色満面で僕の手からスマホを奪い取り、パスコードを聞き出すと、さっそく画面を操作し始めた。「松太郎さまからDM来てるかな~」とかつぶやきながら。


「いちろ~……ごめん」


マリアちゃんが僕のズボンの裾を引っ張り申し訳なさそうな顔をしている。


「大丈夫。リサ師匠と、それからバロンを見つけることのが大事だからね」


そう言ってマリアちゃんの頭を撫でていると、扉が開き、ちょうどじいやさんがケータリングらしきパックを運んできた。

「さあさあ、みなさん、お夕食の時間ですよ……。んっ?」


 じいやさんが目を見開きフィオの手元を凝視している。そのままお寿司が入ったパックを取り落としそうになったので、僕が慌ててキャッチ。


「それは……スマホ……忌まわしき呪具……お嬢さま、どこで見つけたのですか?それをじいやに渡しなさい!!」


「あ~、だめ~。言っとくけどこれダーリンに借りたやつだから。前みたいに湖に投げたりしたらダメだかんね~」


 必死の形相のじいやを、フィオがひらりとかわす。しかもその間、まったくスマホの操作を中断しない。


「お嬢様!!お忘れですか?いつぞや当家の財政を破綻させかけたことを……」


「わ~ってるって。もうそんなことしないって。今だってちょっと推しに連絡しただけだし~」


「なんですって!スマホを見せなさい!!」


「やだね~っ」


 もしかしたらこの家に大変な紛争の種をもたらしてしまったかもしれない……。わちゃわちゃとやり取りをするフィオとじいやの様子を見ながら少し後悔した。


◇


 フィオの家に泊めてもらった翌朝、僕たちはヨットハーバーで約束のヨットに対面した。


「ヤマグチ様、出航の準備が整いました。食料や着替えもキャビンに入れておきましたので……」


 憮然とした表情のじいや。フィオにスマホを貸し与えたことをまだ少し怒ってるらしい。


 フィオはというと、少し離れたところで僕が貸したスマホを使って通話をしている。どうやらヨットハーバーにも、Wi-Fiの精霊さんは飛んでいるらしい。


「はっ?いや、そんな奴、知らね~し」


 誰と話しているか知らないけど、やけに声がでかい。興奮しているようだ。


「ああダーリンのこと?なんか今、忙しいみたい」


 フィオがチラッと僕を見た。もしかして僕宛の電話では?慌ててフィオの方に向かう。


「あ~し?フィオだけど。えっ?関係?いや、行きずりっていうか。昨日、砂浜で出会って、そんで昨日はうちに泊まったって感じ」


 おいおい、いったい何を話している?


「さ~ね~。しばらくそっちには戻んないと思うよ。じゃね」


 そう言ってフィオは通話を切った。


「誰からだったの?僕宛じゃない?」


「あ~、なんだっけ……たしかサナとか言ってたような。いきなり喧嘩腰にまくしたてて来たからびっくりしちゃった〜」


 さっと血の気が引いた。慌ててスマホを取り上げて佐那に通話をかけ返すけど出てくれない。『さっきのは誤解だから』とメッセを送っても既読すらつかない。


「あ~あ……なんてことに……」


 肩を落とす僕に、「どんま~い」と軽い調子で肩を叩くフィオ。 


「ほら、もたもたしてたら今日中に王都に着けないよ……」


 フィオに背中を押されながらヨットに乗り込む。マリアちゃんも既に乗り込んだようだ。


「それではよい航海を。ヤマグチ様、なるべく早くお戻りください。そして一刻も早くお嬢さまから、スマホを取り戻してください。そうしないとわが家は……」


 じいやの沈痛な顔を見ていると、自分が大変なことをしでかした気持ちになってくる。


「じゃあね~。これサービス。風の精霊よ、その力を見せるがいい」


 フィオの一言で突風が吹き、ヨットが一気に進んだ。手を振るフィオとじいやの姿がドンドン小さくなる。


 その足元に小さな黒い影が見えた。


「マリアちゃん!あれ見て!!」


「あっ、バロンだ!!」


 バロンらしき小さな影は、フィオに抱き上げられた。前足を動かし。僕らに手を振ってくれているように見える。


「よかったね。じゃあ、早くリサ師匠に追いついて、この街に戻って、それからバロンと再会しようね」


「うんっ!!ば~ろ~ん!!すぐ帰るから待っててね~~!!」


 マリアちゃんは顔をほころばせ、岸が見えなくなるまでずっと手を振っていた。


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