第45話 矛盾してない?
お風呂をいただいた後、案内されたのは長机が置かれた会議室のような部屋だった。
窓はないけど、奥の壁に映像モニターが掛けられ、左側の壁に地図が貼ってある。
「いちろ~……」
先にお風呂に入ったマリアちゃんが待っていた。何か不安そうな、それでいて何か話したそうな顔をしている。
「マリアちゃん、どうしたの……」
「おっ待たせ~!!お客さん用のお風呂、広かったっしょ~」
僕の言葉を遮るように、フィオが部屋に入ってきた。フィオもお風呂に入ったみたいでホカホカ湯気が出ている。
「さっそくだけど一応約束だからさ、教えたげるよ。リサ侯爵がどっち行ったんか。言っとくけど、じいやには内緒だかんね」
フィオは僕たちの返事を待たず、壁際の方にすたすたと歩く。
マイペースだな~とは思ったけど、正直言えば話が早くてありがたい。リサの行き先はどうせ聞かなければいけないのだ。
「えっと~、今あたしたちがいるのが、ここね。ロングビーチ。ちょうどニオノ湖の一番北側。そんでリサ侯爵は、ここにいた。そっからニオノ湖の東側の街道を、ずっと南に向かって走ってった。たぶん王都に行ったんじゃね」
フィオは壁に掛かった地図を指で示しながら教えてくれた。
地図によると、ニオノ湖は琵琶湖みたいに南北に縦長で、その岸沿いに街道があり、街道の途中には各貴族の所領とか、宿場町が点在していて、ずっと南下した街道の終わり、湖の南の端の辺りに王都があるらしい。
「リサ師匠はいつここを通ったの?あと、その前に黒ずくめの3人組が通らなかった?」
「3人組は知んないけど、リサ侯爵が通ったのは昨日の夜遅くかな~。あ~しが眠れなくて、コンビニでも行こって思って外出たら、街道沿いを北からすごい勢いで走って来てさ~。そんで止まれって言ったら、『リサ侯爵だ、王都まで行く。押し通る』っていきなり顔面にグーパンで一発ダウン。そんでこんな怪我負わされちゃってさ~。ちょっと、あり得なくな~い?」
フィオが左目の眼帯と足の包帯を指さす。あれリサのせいだったんだ。
ごめんなさい、と関係ないのに頭を下げる。
「それじゃあ、だいぶ先へ行っちゃったのかな?王都までどのくらい?」
「え~っ?普通に3日はかかるよ。それに今、東岸は精霊派の貴族の領地が集まってるからさ、すんなり通してもらえないと思うよ。リサ侯爵は科学派でしょ?」
「科学派?精霊派?」
また知らない単語が出てきたぞ。怪訝な顔をすると、優しいフィオはすぐに気づいて補足してくれた。
「科学派ってのは、開明派とも呼ばれてっけど、要は外の世界と仲良くして、便利なものを色々取り入れようって考えの人たち。そんで精霊派ってのは、外の世界の技術とか全部否定して、昔からの精霊の加護を大切にして自然とともに生きようって、そんな考えの人」
「へ~っ、じゃあもしかして内乱があったっていうのもそれが原因?」
「そうそう、よく知ってんね!もともと、歴史的に科学派と精霊派の対立があって、開国したり鎖国したり繰り返してたんだけどさ、前の王様が科学派に振り切っちゃってさ~。娘を外の世界に留学に出すとか、果ては外の世界と正式に国交を結ぶとか言い出しちゃって。そんで精霊派の貴族たちが反乱を起こした感じ~」
心配になり振り返ると、マリアちゃんが青い顔をして俯いていた。今の話が本当なら内乱の原因の一つはマリアちゃんが留学に出たことなのかもしれない。
「それで、フィオはやっぱり科学派なの?」
「はっ?」
フィオが目を剥いて僕を睨みつけた。
「いや、どう見ても自然とともに生きるなんて感じじゃないし……」
「ちょっと、心外なんですけど~。さっきのあ~しの精霊使いっぷり、見たっしょ?バリバリの精霊派なんですけど~。ひどくね?」
フィオがぷんすか怒っている。科学派と言われたのがよほど心外だったようだ。でも、そんなギャルみたいな格好してて、自然を愛するとかとても信じられないんだけど。
「外の世界じゃ、機械を動かすために油を燃やしまくって夏とかむっちゃ暑いんでしょ?空気とかも鬼汚いらしいじゃん?そんで精霊の声も聞こえなくなっちゃったって。そこまでして便利に暮らしたい?信じらんな~い。まっとうな人間は精霊の声を聞いて自然に生きるのが一番だし~」
よほど怒らせてしまったのだろうか?
軽蔑するような視線で煽ってくる。ただ、そこまで言われて黙ってるほど、僕は大人しくない。
「ちょっと待って。フィオだって外の世界の科学の恩恵受けてるじゃん。発言と行動に矛盾があるって」
「はっ?なに言ってんの?んなわけないじゃん」
「ウソだ。だってここまで乗って来たクルマだって、エアコンだって……。それにその服だって化繊じゃ……」
そこまで言ったところで、肩にポンと手を置かれたことに気づいた。
「さあさあ、みなさん。お風呂上がりのコーラですよ。氷の精霊の力で冷やしたからキンキンです」
じいやさんが微笑みながらビンのコーラとコップを配る。
「それから、ヤマグチ様はちょっとこちらによろしいですかな……?」
じいやさんの目は細く微笑んでいたけど、有無を言わさぬ迫力があり、僕はうなずくしかできなかった。




