第43話 どれだけ怖いの?
「う、うん……?ここどこ?」
「あっ、大丈夫?気分とか悪くない?」
僕の首トンで気を失ってから、ざっと30分くらい経っただろうか。
気絶したギャル女子を持て余し、砂浜に寝かせ、横で体育座りしながら待っていると、やっと目を覚ましてくれた。
「ひぃっ……!」
彼女は僕が側に座っていることに気づくや否や、スカートの裾を押さえて後ずさり、僕に向かって指を突きつけた。
「か、雷の精霊よ!この不埒物に怒りの天罰を……」
しかし彼女の声が虚空に響くだけで何も起こらない。彼女が気絶している間、精霊さんの審議により僕たちの味方もできないけど、僕の腕力にあっさり制圧されたギャル女子の言うことも聞けないということで話がまとまった……とマリアちゃんが言っていた。
「あっ、あう……あう……」
ようやく精霊の力が使えないことに気づいたのか、ギャル女子はガタガタと震え出した。
「えっ?どうしよ、これ詰みじゃね?えっ?あたし、こいつにやられるの?えっ?犯されちゃうの?それやべ~って!!」
「待って、そんなことしないから。それに小さい子どもがいるんだから、そういう話題に持ってくのやめてくれない?」
彼女は自分で自分の両肩に手を置き、身を守るように強く抱きしめた。その顔には明らかに絶望の色が浮かんでいる。
「……二日連続で不法入国者にやられたなんてことがバレたら、じいやにどんなお仕置きをされるか……マジやべ~ってそれ。こいつに犯られた方がまだマシじゃんか!!」
「だから、そういう下世話な話にするのやめてってば!!」
この黒ギャル女子、なんでそんなにじいやって人に怯えてるんだ?
いや、それよりもさっき聞き捨てならないことを言ったぞ。二日連続で不法入国者にやられたって言わなかったか?それって、もしかして……。
「ねえ、その昨日やられた不法入国者って、もしかしてリサ・ロッテンマイヤー侯爵のことじゃ?」
「ああっ、そうだよ~。あ~、クッソ!!上位貴族の侯爵ならまだしも、準男爵なんかに負けたなんて言ったら、じいや、絶対ブチギレだしっ!!もう殺せよ~、犯せよ~。好きにしろよ~!!あ~っ、もう怒られるくらいなら死にて~~~」
ギャル女子は仰向けになったまま、駄々っ子のように腕を足をジタバタした。
その勢いで巻き上げられた砂が空からパラパラ落ちて来る。
それにしても、僕に負けたのがそんなに不名誉なことなのか。それにこの怯えよう。じいやさんって、どれだけ怖い人なんだろう?
そうだ!!
「へぇ~、僕に負けたことが、じいやさんに知られるとそんなにまずいんだ?」
「そうだよっ!!じいやは、両親が亡くなった後のあ~しの師匠。昨日も、リサ侯爵に負けて鬼みたいに怒られたし、それで今日格下にやられたなんて言ったら、どうなっちゃうか……」
じいやに怒られる様を想像したのか、ギャル女子はまたガタガタ震え出した。
「じゃあさ、なかったことにすればいいじゃん」
「へっ?どういうこと?」
ギャル女子がきょとんとした顔をしながら体を起こす。
「僕たちはここを通らなかった。いや、君が気づかないうちに通り抜けていた。そうすれば、じいやさんに格下に負けたなんて気づかれないでしょ?」
僕がニヤリと笑い掛けると彼女はうつむいた。座りながらずいっと距離を詰める。
「いや、不法入国者を見逃したなんて知られたら、それこそ問題になっちゃうし……」
「大丈夫だよ。僕たちはリサを追いかけて、すぐにこの場から立ち去る。他に誰も見てないんだから、じいやさんにもバレっこないって……」
僕が彼女の肩を抱き、ずいっと顔を近づけると、彼女は無言で視線を逸らした。だけど瞳が揺れている。もう一押しだ。
「リサが通った道を教えてくれ。それで途中まで道案内してくれたら、僕たちはそのまま消える。君が不法入国者にやられた証拠はない。いい話だと思うけどな~」
僕がさらに顔を近づけると、彼女は潤んだ瞳で僕を見つめ返す。
よしっ、落ちた。そう確信した瞬間だった。
ファンファンッ!!とクルマのクラクションのような音が鳴り響いた。
「お嬢様、あまり遅いから心配してお迎えにきましたぞ……むっ?」
砂浜の端の松林のあたりに一台のワンボックスカー。その運転席からロマンスグレーで初老の男性がこちらを見ている。
サングラスをかけているけど、怪訝そうな表情をしていることは明らかだ。
その彼の視線の先には砂浜に座るギャル女子。それから、その肩を抱いた僕がいた……。




