第42話 口悪くない?
「不法入国者め!!逃がさないよ~!!」
ローデシア王国に入国して早々、僕は関門の守護者を名乗るギャル風女子と出会い、次々と落ちる雷に追いかけられる羽目になった。
マリアちゃんを小脇に抱えて砂浜を全力で駆け抜ける。
「マ、マリアちゃん……あれ何?どうして雷が?」
「あれは、雷の精霊の力」
「えっ、雷の精霊、なにそれ?」
「ローデシア王国の貴族の中には精霊と対話して、精霊を使役できる者がいる。あの子は辺境伯と言ってたからそれができる上位貴族みたい」
「ぎょえ~っ!!」
この雷が、あのギャル女子、実は辺境伯が使役した精霊の力であることはわかった。だからといって、何か対応できるわけではない。
ただひたすら逃げるしかない。
雷が落ちたところは砂浜が窪み、アリジゴクみたいになっている。こんなの喰らったら即死だ!!
ふと、雷が止まった。
息継ぎだろうか?ギャル女子が息を大きく吐き呼吸を整えている。
わずかなインターバルを生かさないと。
いったいどうしたら?
そうだ!!
「貴族が精霊を使役できるってことは、僕もできるんだよね。どうやったらできるの?」
「天に向かって名乗って、決めポーズ。いつもリサがやってるみたいに。それで精霊に命じればいい。だけど……」
「わかった、やってみる!!」
四の五の考えてる暇はない。やるしかない。
僕はギャル女子に向かってビシッと指を差した。
「我が名は、山口一郎準男爵!!リサ侯爵の弟子にして、貴族見習い中の者!!さあ、雷の精霊よ!!あの黒ギャル女子に雷を落とせ!!」
僕の反撃にギャルが一瞬ひるんだ表情を見せる。よし、いけるか。
「バーカ……」
うん?虚空に何か声が響いたぞ?
ギャル女子の声でも、マリアちゃんの声でもない。誰の声だ?
そう思った瞬間、また僕の足元に雷が落ちた。
「ぎょえ~っ!!どうして~?」
「精霊さん言ってた。『なんで準男爵なんて下級貴族の、しかも見習いの言うこと聞かないといけないんだよ、バーカ』だってさ」
小脇に抱えたマリアちゃんに冷静に突っ込まれる。
なるほど、貴族見習いでは不足というわけか。
それにしても、精霊さん、意外と口悪いな……。
必死に逃げていると、やがて雷が止まった。どうやら二度目の息継ぎのようだ。
いつの間にか落雷によりできた窪地、アリジゴクに囲まれている。もう逃げる場所はない。
ふいに、マリアちゃんが自分の足で立ち、とことこ歩いて天にその短い手を伸ばした。
「我が名はローザマリア・ローデシア。この国の国王だよ。雷の精霊さん、わたしの言うことを聞いて」
マリアちゃんの声が虚空に響いた。
それから、どこからともなく、ざわざわとざわめくような感じがして、それから僕の耳にもはっきりと聞こえた。
『審議します。少しお待ちください』と……。
なるほど、雷の精霊さんは辺境伯とマリアちゃんのどちらに味方するのか審議してるのか……。
頼む。あのギャル女子じゃなくて、マリアちゃんの言うことを聞いてくれ!!こっちは国王陛下なんだぞ……。
僕も手を合わせて雷の精霊さんに祈りをささげる。
ピーヒョロロ~と上空を旋回するトンビが鳴いている。それにざざっと打ち寄せる波以外に何の音もしない。
精霊さんの審議長いな~。まだかな~。
不意にギャル女子の方を見ると目が合った。
彼女も所在なさげにもじもじし、ヘヘッと愛想笑いを向けて来た。
うん、そうだよね。命を賭けた勝負の途中で、こんな変な間ができると気まずいよね……。わかるよ。
湖上から低い汽笛の音が聞こえた。いつの間にか上空のトンビもどこかへ行ってしまったようだ。
それにしても長いな~っ、て、あれっ?もしかして……。
僕はギャル女子の方におもむろ足を向け、ずんずんと近づいた。
「えっ、えっ~?お前どうした?まだ精霊さん審議中だよ。大人しく待ってなって。ま、待ってって、こっち来るなよ~」
ギャル女子が急に弱気な表情になり焦り出した。
やっぱりそうだ。
審議中ということは、あのギャルも精霊の力が使えない。だったら、腕力にものを言わせて制圧しちゃえばいいんじゃん!!
僕は彼女の前に立ち、すっと右手をあげる。
「えっ、やめろよ~。顔怖いよ~。大人しく待ってなよ~」
弱気な表情で苦笑いしながら後ずさる彼女の首に、トンッと軽く手刀を振り下ろす。
その一撃で気を失ったようで、彼女はガクッと腰を落とした。




