第41話 ここがローデシア?
多摩川水道橋の橋脚にぽっかりと空いた空洞に飛び込んだバロンとマリアちゃんを追いかけると、そこは暗く長い回廊になっていた。
手探りでしばらく歩き続けると先の方にまばゆい光が見えてきた。
その光から外に出ると、あまりの眩しさにしばし目がくらんだ。やがて目が慣れてくると、目の前に果てしない水面が広がっていることに気づいた。
キラキラと光る水面の向こう岸はぼやけて見えない。はるか遠くの水面には行きかう船影が小さく見える。一歩踏み出すと足元でざくっと砂が鳴る音がした。
「これは……海?」
「違うよ。みずうみ。ニオノ湖だよ」
いつの間にかマリアちゃんがバロンを抱いて横に立っていた。
「ローデシア王国は、大きなみずうみが真ん中にあって、そこを囲んだ陸に街がある」
「へぇ~、ローデシア王国って滋賀県みたいなんだ」
湖の左の端の方を見ると、建物らしき影が見えた。あのあたりに街があるのだろうか?
かたや、反対側の端は遠くに山脈の影。その手前には草原が広がっており、ぴょんぴょんと跳ねる動物の小さな影が見える。あれはカンガルーかな?
僕がいるのは白い砂浜の中央。
どことなく日本のような外国のような……初めて見るローデシア王国の光景はまったく見飽きない。
しばらく景色に見とれた後、やっと我に返った。
そう言えば僕たちはリサを探すためにここに来たんだった。
リサはどこにいる?それ以前にここはどこ?
スマホで位置情報を調べようとしたけど、当然のごとく圏外だった。
「マリアちゃん、ここってローデシア王国のどのあたりなの?どこに行けばリサ師匠に会えると思う?」
「わかんない……」
なるほど、マリアちゃんがローデシア王国にいたのはまだ小さかった頃なわけだし、土地勘がないのはしょうがないか……。
どうしようかな、う~ん……。
少し考え込んでいると、目の端の方に人影が映った。おっ、第一村人発見!
そうだ。近くにいる人をつかまえて聞いてみればいいんだ。僕はその人影の方に足を向けた。
中学生?高校生くらいの女子だろうか。ブレザーにスカートという制服みたいな服装。それを着崩して、赤い長い髪をラメが光るシュシュでまとめている。こんがり焼けた小麦色の肌をしていて、ぬいぐるみみたいな小物をいっぱいつけた鞄を持っている。
ギャル?黒ギャル?
ローデシア王国にもギャル女子高生っているんだな……。眼帯して足に包帯も巻いてるけど、あれはこの国のギャルの間で流行ってるおしゃれかなんかなんだろうか?
「ごめ~ん。ちょっと、いい?」
「はあ~っ?あんた誰?」
鋭い視線を向けられた。瞳が赤く光っている。怖い。佐那とは別の意味で怖い。
そういえば、日本でもギャルと話したことなんてなかった。
初めての経験にちょっと気後れしたけど、村人に話を聞かないと現実でもRPGでも先に進めない。勇気を出さないと。
「ごめん。僕は山口一郎。一応、ローデシア王国の準男爵です。このあたりをリサ・ロッテンマイヤー侯爵が通らなかった?昨日か、今朝あたりにこっちに来たと思うんだけど……」
そのギャル女子が眉間に皺を寄せた。視線も一層厳しくなった気がする。なんだろ?何か悪いこと言っちゃったかな?
「あっ、ごめんなさい。僕たちはリサを追いかけて、日本からこっちに来たばっかりで、彼女がどこに行ったかわかればって思ったんだけど、知らないんだったら……」
「はあっ?日本から来た?」
ギャル女子は目を剥くと、僕に正対しすっと腰を落とし、人差し指を天に向かって突き上げた。ただならぬ雰囲気に思わず後ずさる。
「我が名は、フィオレンティーナ・ド・ボーヴォワール辺境伯。建国以来の名門辺境伯家の当主にして、父祖伝来のこの地の守護を受け継ぎし者」
「あっ、そうなんだ。フィオレンティーナさん。はじめました。それで、もしリサって人を見たことがあれば……」
僕の言葉の途中で、彼女は天に向けた指を下ろし、僕の方へ向けた。
「雷の精霊よ!この不埒者に天罰の槍を落とせ」
えっ?不埒者?それって僕のこと?
ぞわっと嫌な予感がして、すぐさまその場を飛びのいた。すると彼女の指先、さっきまで僕がいた場所に雷が落ちた。
「ぐぇ~っ!!逃げろ~!!」
マリアちゃんを抱えて砂浜を走る。理由はよくわからないけど、とにかく攻撃されてるのは間違いない。
「待て!!不法入国者め!!」
いきなりとんでもない奴を引き当ててしまった!
後悔しながら、雷から逃げるため砂浜をジグザグに駆け抜け続けた。




