第37話 どうやって見分けてるの?
この日、僕は駅前のファミレスで、ジャンと向かい合っていた。
「本当に、本当にリサがここに来るんだね!」
ジャンはそわそわ体を揺らしたり、髪を触ったりして、せわしない。
「はい。間違いなくここに来ますから、ちょっと落ち着いてください」
そう。僕はジャンの攻勢に押し負け、このファミレスでリサに会わせる約束をしてしまった。
約束の時間は午後3時。今は3時05分。少し遅れているけど、絶対に来てくれるはず。だって約束してくれたから……。
「いらっしゃいませ~」
店員さんの声に振り向くと、ちょうど店に入ってくる彼女の姿が見えた。
向こうもこっちに気づいたようで、「お待たせ~」と言いながら笑顔でこちらに近づいて来る。
「ありがとうございます。こっちに座ってください。僕はこっちに移りますから……」
僕たちがいたのはソファのボックス席。僕はジャンの隣に移り、向かいの席を空ける。彼女はニコニコと上機嫌な様子でコートを脱いで、そこに座った。
「ジャン、久しぶりだね。いつからこっちに来てたの?」
彼女の暖かい笑顔とは対照的に、ジャンの顔は凍り付いている。緊張してるのだろうか?
「12月の終わりくらいに来られたんですよね、たしか」
沈黙に耐え切れず、僕が助け舟を出すと、ジャンは小さくうなずいた。
「一郎くんに聞いたわよ。公爵の使者として、陛下と私を連れ戻しに来たんでしょ?でも、ごめん。私たちは戻れない」
彼女がテーブルに手をついて頭を下げる。ジャンは呆然としたまま、「それはいいんだ……」と小さくつぶやいた。
「せっかく会えたんだし、少しお話しようか。パフェ頼んでいい?たしかイチゴパフェのフェアをやってたはず……」
「じゃあ僕は邪魔者なんで、お暇しますね。あとは若い二人で……」
そっと立ち上がろうとした時、ジャンにガッと腕を掴まれた。
「えっ、え~っ?どうしたんですか、ジャンさん。久しぶりだから心細いんですか?でも、せっかく婚約者のリサ師匠に会えたんですし、二人きりでお話した方が……」
笑ってごまかそうとした僕に対し、ジャンはくわっと目を見開いた。
「ボーイ……冗談が過ぎるよ。彼女はリサじゃない、リナだ!!いくら双子とはいえ、この僕が愛しい婚約者を見間違うはずがないだろう!!」
「っつ……!!」
「あ~あ、わかっちゃったか…!!久しぶりだから、いけると思ったけど、昔からジャンは、リサに一途だからね〜」
あきれたような顔で肩をすくめるのは、リサ……ではなく里奈さんだ。
ジャンの必死さにほだされ、ジャンと会ってくれるようリサに何度もお願いしたけど、リサは頑として聞かなかった。
困り果てた僕が相談したのが……リサの双子の姉である里奈さんである。里奈さんは、ただ双子というだけではない。1年近くリサと一緒に暮らしている僕ですら、教えてもらわなければ区別がつかないくらい外見はそっくりだ。
そんな里奈さんから、リサの代わりにジャンに会ってもいいと提案され、僕はそれに飛びついた。絶対にリサと見分けがつかないと思って……。
………卑怯と言うなかれ、姑息と言うなかれ。
おそらくジャンは国へ帰ったら処刑されてしまうだろう。せめて最後にリサに一目でも会いたいという希望を叶えてあげたい。
だけど、あのリサの頑固な性格からしたら、どれだけ粘っても首を縦に振らないだろう。だったら、せめて里奈さんにリサのフリをしてもらい、夢を見てもらおうと思っただけだ。
しかし、そんなの考えは甘かったようだ……。
「ボーイ、僕の純真な想いをもてあそんでからかおうなんて、君がそんなひどい奴とは思わなかったよ」
「ごめんなさい」
ジャンは顔をプイっと背け、アイスコーヒーのストローを強く噛んだ。完全に怒らせてしまったようだ……。
「まあまあ、ジャン。リサがジャンに会いたくないって言ってるのは一郎くんの言うとおりなのよ。それに私も久しぶりにジャンに会いたくて、一郎に頼み込んだの。ごめんね」
ニコニコと微笑む里奈さん。僕をかばってくれてる!優しい~!!リサとはえらい違い。
里奈さんが取り成してくれたからだろうか。ジャンはまだ憮然とはしていたけど、こちらの方を向いてくれた。
「ところで……。一郎くんに聞いたけど、あなた、ローデシア王国に戻るつもりなの?それって……危ないわよ」
「……わかってる。でも帰るしかない。だから一目でもリサに会いたかった……」
「わかってない!ローデシア王国に帰らないでここに残ればいいじゃない!!」
里奈さんは手を伸ばし、ジャンの手の上に添えた。
「ここで私の家に住めばいい。ちゃんと暮らせるように私が支えてあげる。だから帰らないで。あなたには死なないでほしい。私と一緒に生きて……」
「………」
無言のまま黙っているジャンを見つめる里奈さん。その目は赤く、潤んでいる。
「………だめだ。僕は戻らないといけない」
「どうしてっ!?お願い。せめて一度くらい私のお願いを聞いて……」
ジャンはゆっくりと手を引いて、里奈さんの手を離した。
「リサが……貴族としての生き方を教えてくれたリサだったら……そうするからだ。国には、母も、妹も、じいやも、僕を待っていてくれている。リサだったら、彼らを見捨てて、一人だけこっちでのうのうと生きるなんて絶対にしない」
ジャンはそう言うと、僕の方を振り返った。
「君にも迷惑をかけたね。無理を言って悪かった。もうリサのことはあきらめることにするよ……」
そう言ってジャンは力なく笑った。




