第31話 ハーレム物?
「お腹いっぱ~い!わ~っ、外寒~い!!」
「一郎、何をもたもたしてるのよ、早く身を挺して陛下と私の風よけになりなさい!」
「え~っ、嫌ですよ~」
年末も近づき、木枯らしが吹く季節になって来た。
今日はリサの給料日。しかもクリスマス。そのお祝いにバイト代で僕たちにごちそうしてくれるのだとか。
マリアちゃんと僕だけではなく、佐那まで誘い、「なんでも遠慮なく好きな物食べなよ!!」と、いきった顔のリサに連れて来られたのは幹線道路沿いにある安さが売りのイタリアンレストラン。
リサの酒代を除けば、4人で5000円もかからなかったけど、何よりその気持ちが嬉しい。心の中でリサに感謝しながらレストランを出て、そのまま駅に向かって4人一緒に歩いていると佐那が僕の横に並び、脇を肘でつついた。
「ねえねえ、一郎。来年は高3だよね。進路決めた?」
「う~ん、どうしよっかなって悩んでる」
「な~に言ってんのよ。一郎の進路はローデシア王国の貴族って決まってるでしょ?高校を卒業したら修行に専念できるわね」
マリアちゃんと手を繋いで後ろを歩いているリサが口を挟んでくる。
「それ進路じゃないし。そもそも貴族じゃ食べてけないでしょ。師匠も貴族としての収入がゼロだから老人ホームで働いてるわけですし。現実的な進路としては、まずは大学進学するつもりです」
「えっ?どこの大学?やっぱり地元だよね?東大?早稲田?慶応?」
佐那が顔を近づけながらぐいぐいと身を寄せて来た。あまりの勢いに、もう少しで車道に押し出されそうだ。
「いや、そんな大学とても無理だから。それに関西の方の大学も考えてる。ほら、姉さんが大阪にいるから」
「え~っ、それは寂しくなるな~」
「さみし~」
今度は後ろを歩いているリサとマリアちゃんから声がかかった。
なるほど。確かに、僕が関西の大学に行くと、リサとマリアちゃんとも離れることになるわけだ。それは少し寂しいかも……。
「せっかく、新しい仕事にも慣れて来たのに、大阪でいい仕事見つかるかな~」
「この間、一郎のお姉さんが買ってきてくれた551の豚まんおいしかった」
「そういえば大阪はタコ焼きとかお好み焼きとか、ビールに合うおいしい食べ物がいっぱいあるな~。食い倒れの街、今から楽しみだな~」
「えっ?もしかして僕が大阪に引っ越したら、お二人も付いてくるつもりですか?」
僕が驚いて振り向くと、リサもマリアちゃんもきょとんとした表情をしていた。
「当たり前じゃん。一郎が引っ越したら、私たちどうやって生活したらいいのよ」
「いちろ~。ずっと一緒だよ~」
そうだったのか。そういうつもりだったのか……。へぇ~、そうなんだ~。
「へぇ~。ふ~ん。じゃあ、わたしも……関西の大学にしてあげても……いいわよ」
「やった~。佐那先生も一緒~。そしたら4人で一緒に暮らそ~」
「やったな一郎。これで家賃も半分になるぞ!その分食い倒れ、飲み倒れだ~!!」
みんな勝手なことを言って……。でも嬉しいな。
母さんが亡くなって、父さんもいなくなってから、ずっと視界が灰色がかって、どこか息苦しかった。
姉さんは一緒にいてくれたけど、それでも心から笑えることはあんまりなかった気がする。
あの頃は、まさかこんな賑やかな暮らしができるなんて夢にも思わなかった。ふふっ……。
「あっ、一郎、にやけてる~。なになに?この稀代の美少女空手家である佐那様と一緒の暮らしを想像したの?え~っ、なに期待しちゃってるの?やらし~」
「わたしもいる。バロンも」
「出来損ないのハーレム物ライトノベルの主人公でも、こんなに美女達に囲まれた生活できないぞ~。果報者だな!!じゃあ、その幸せに感謝して、あそこのコンビニで寝酒用のストロング買って来てよ!」
からかわれても、パシリにされても僕の頬の緩みはおさまらない。
そっかそっか~。そう思ってくれてたんだ~。
でも、そんな浮かれた気分の僕は気づいていなかった。この時、道路の向こうからエメラルドに光る瞳が僕たちを見つめていたことを……。




