第27話 見分け方は?
「ちょっと、こんなところでなにやってるんですか!!」
「えっ、なに?突然?」
喫茶店に入り一直線に向かってくる僕を見て彼女はスプーンを持ったまま目を丸くした。構わず僕は向かいの椅子に座る。
「今日は、大事な話し合いがあるんですよね。それなのに、どうしてこんなに緊張感がないんですか?」
リサは、一応、一張羅のスーツを着て来たようだ。 だけど口元にパフェのクリームがついていて、かえって間抜けに見える。
「た、たしかにこの後、大事な話し合いはあるけど……どうしてそれを?それに別に君には関係ないでしょ?」
「関係ありますよ!!僕もマリアちゃんを守る同じ貴族ですよ。それなのに、自分だけこんな高そうなスペシャルパフェなんか食べちゃって……あっ、2500円もするじゃないですか!!もったいない!」
僕がジロリと睨みつけると、彼女はたじろぎ、ようやくスプーンを置いた。
なんだこの贅沢なパフェ?でかい夕張メロンとか入ってるし。僕もメロンは大好物だけど、毎月の家計が苦しいからずっと我慢してるのに……。
僕はパフェの器に残った手つかずのメロンに手を伸ばし、怒りに任せてかぶりついた。
「あっ、それ、最後に食べようと思って楽しみに取っておいたのに!!」
「いいじゃないですか少しくらい分けてくれたって。僕に隠れて自分だけこんな高いパフェなんか食べてるんだし!!」
「ちょっと待って、私の稼ぎでいくらのパフェを食べたって、私の勝手でしょ。君にそんな文句を言われる筋合いなんてないわ」
「ありますよ!!こんなことにお金を費やすんだったら、居候を決め込まないで、少しは食費を家に入れてください!師匠のビール代だってバカにならないんですよ!!そんな生活態度だから、後見人として相応しくないって言われちゃうんじゃ……うん?」
目の前のリサに説教をしていると、背後に誰かが立っている気配を感じた。しかも、この気配……というか覇気は覚えがある……。
「一郎、ここで何をしてるんだ?」
おそるおそるギギッと振り返ると、そこには腕組みをしながら怖い顔で僕を見下ろすリサがいた。
えっ?あれっ?どういうこと?視線を向かいの席に移すと、当惑顔でスーツを着たリサの顔。振り返ると怒った顔で僕を見下ろすTシャツとデニム姿のリサ……。
どういうこと?リサが二人いる!?
◇
「改めまして……弁護士の中野島里奈と言います。一応、リサの双子の姉にあたります」
表情を引き締めたリサ、ではなく里奈さんから名刺を受け取る。
「うちの弟子が勘違いしてすまなかった。謝罪する」
僕の隣に座ったリサは、謝罪の言葉とは裏腹に、腕組みをしたままふんぞり返っている。しかもテーブルの下では僕の脛を尖った靴でガンガン蹴り上げている。
「すみませんでした。楽しみにしてたメロン食べちゃって……」
「ああ、いいのよ。驚いちゃっただけ……すみませ~ん」
里奈さんは手を上げて店員さんを呼び、先ほどのスペシャルパフェをもう一つ注文した。
「さっきメロン食べ損ねちゃったから。でも、全部は食べきれないから、メロン以外は一郎くんが食べてくれる?それでさっきのことは水に流すから」
「いいんですか!?あ、痛っ!!」
里奈さんの申出に喜びの声をあげると、すかさずリサから蹴りが飛んできた。
「うちの弟子を食べ物で釣ろうってか?相変わらずの金持ちムーブだな。実家が太い奴はやることが違うな~」
「あら、実家じゃなくて私の稼ぎで払うのよ。それに食べ物で釣ろうなんてさもしい考え、まったく思いつきもしなかったわ~。さすがリサ。お里が知れるわね~」
鋭く睨みつけるリサに、目を細めた何とも言えない迫力の笑顔で返す里奈さん。まるで背景に雷が落ちているかのように緊張が走る。
「……あの、里奈さんって、リサ師匠のお姉さんなんですよね……それなのに実家は違うんですか?」
「私は、10年くらい前に養子に出されたの。父の友人夫婦に子どもがいないからって望まれてね。中野島家って知ってる?鉄道事業とかの会社を経営しているけど」
思わず目を剥いた。この地域の住民が知らないはずがない。中野島家と言えば、あの小田宿電鉄グループの創業家で大株主。ということは里奈さんは大富豪のご令嬢?
驚く僕の様子を見て、リサがケッと吐き捨てる。
「まっ、里奈がロッテンマイヤー家に残っても家を継ぐことはできなかったろうし、冷や飯食いをさせるのは忍びないって父の恩情だよ」
「あら~っ、そうだったかしら?ろくに勉強もできず、礼儀も知らない乱暴者のリサを外に出したらロッテンマイヤー家の恥になってしまうからってお父様から聞いたけど~」
また睨み合うリサと里奈さん。もしかして、この二人って仲が悪いのか?
「言いがかり付けないで!!私は、立派にロッテンマイヤー家を継いで、貴族としての重責を果たして陛下をお守りしてるのよ。お金持ちの養父母に、なに不自由なく育てられた苦労知らずの里奈にはわかんないだろうけどさ」
「何の苦労もしないで弁護士にはなれないわよ~。それに、何?さっき一郎くんが言ってたけど、リサ、居候してるのに家に食費も入れず、酒代もその子に払わせてるんでしょ~?そんな年端もゆかない高校生に、おんぶに抱っこに肩車で寄生しているリサの方がよっぽど苦労知らずじゃないかしら~?」
「なんだとこらっ!!お前に私の苦労の何がわかるんだ!!」
リサがテーブルを叩き立ち上がった。里奈さんは余裕を持った表情で微笑み返す。
「調べはついてるのよ。山田さんの家を追い出されて、高校生の彼の家に転がりこんで生活の面倒をみさせて、しかも陛下を狙う刺客が現れた時なんか、2回ともその場にいなかったんでしょ~?そんなんで陛下の後見人の役割を果たせてるって言えるの~?」
図星を突かれたのか、たじろぐリサ。それを見て里奈さんはさらに微笑みながら畳みかける。
「私だったら、セキュリティのしっかりしたマンションを用意して、警備の人も雇って24時間陛下をお守りできるわよ。一郎くんにだって苦労なんかかけさせないわ。そっちの方がいいわよね~」
里奈さんが目を細めて笑いかけてきた。同時に師匠の殺し屋のような視線も感じる。僕は板挟みに苦しみ、パフェを片付けるのに集中するしかない。
「よしっ、じゃあ勝負しようじゃないか!!どちらが後見人にふさわしいのか、貴族らしく決闘で勝負だ」
「いいわよ~」
リサからの挑戦を、里奈さんは余裕のある笑みであっさり受け入れた。もしかして里奈さん、こう見えて腕っぷしに自信があるとか?
「だけど、野蛮人じゃないんだから殴り合いなんてできないわ。ここは文明人らしく、裁判で決着をつけましょ!!次会う時は裁判所かしらね」
里奈さんはそう言うと、素早く伝票を取ってレジの方へ向かった。
「師匠……これってもしかして……」
「ああ、一番避けたかった事態になってしまった……」
僕とリサは、喫茶店のドアが鳴らす鈴の音を聞きながら、呆然と里奈さんの背中を見送った。




