第25話 なぜすぐに酒を飲むのか?
「……つまり、一郎が説明したとおり、そこの女の子がローデシア王国の女王で、あなたはそれを護衛する貴族だってのは、事実なのね。まだ納得できないことも多いけど、それはわかった」
ダイニングテーブルに座って、リサとマリアちゃんからこれまでの経緯を聞いた姉さんは、ようやく納得して落ち着いてくれたようだ。
姉さんは黙って立ち上がり、冷蔵庫からビールを2缶取ってきた。
「リサさんも飲む?」
「はい、いただきます!!」
リサが両手で缶ビールとグラスを受け取る。
「一郎、あたしのストックのビール冷やしといてくれたんだ。まさか勝手に盗み飲んでないわよね?まあ、数は揃ってるから大丈夫だと思うけど」
僕はほっと胸をなでおろす。実は姉さんが買っておいたビールのストックは、リサがガパガパと勝手に飲んだせいで既に無くなっていた。
だけど、それが姉さんにバレるとただでは済まないので、リサが飲むたびにこまめに買い足しておいたのだ。
家計は苦しかったけど、買っといてよかった。買った端からまたリサにガパガパ飲まれてたけど……。
「あっ、おつまみ用意しますね、お姉さん」
リサは慣れた様子で戸棚から唐辛子煎餅とかカルパスとかサキイカを取り出し、テーブルに並べた。ちなみにそれも僕が買っておいたものだ。
リサと姉さんは、まるでタイミングを合わせたかのように同時にプシッとプルタブを開けた。
「じゃあリサさん、じっくり腹を割って話そうじゃないか」
「はい。夜通し飲みましょう」
二人それぞれとの付き合いが長いからわかる。あれは夜通し飲むつもりだぞ。
ちなみに明日も平日で学校がある。僕たちは早く寝た方がいい。
グビグビと飲み始めた二人を横目にマリアちゃんを部屋へ送り、リビングに布団を敷く。
ただ、リビングに敷いた布団と、二人が山賊のように酒盛りをするダイニングテーブルは目と鼻の先。だから、二人の酔っ払いの話は布団に入った後も嫌でも耳に入ってくる。
「いちろ~、寝ちゃった~?」
布団に入った後、姉さんが呼びかけてきた。
こんなうるさい環境で寝れるわけないだろがっ!!と思ったけど、そう答えるときっと、おつまみを作らされたり、色々用事を言い付けられるに違いない。だから狸寝入りを決め込むことにした。
「……寝ちゃったか。ねぇ、リサさん。一郎が普段どんなか教えてくれない?」
「はい。年の割にしっかりしてると思いますよ。生活もきちんとしてますし、家事もしてくれるし、何より責任感があって……」
「そ~なんだよね。あれでも小学生の頃までは甘えん坊で弱虫で情けなかったのよ。でもさ、小学6年生の秋に、一郎の母親、私にとっては継母なんだけど、その人が急に亡くなっちゃって。それなのに父親が何を思ったのか、一郎とあたしを置いて外国へ放浪に出かけて、そのまま帰って来なくなって……」
「うわっ、ひどっ!!」
「そうなのよ。きっと外国で新しい女でも見つけたんじゃないかな?そんなだらしない奴だからさ。そんで、それからずっとあたしと一郎の二人暮らし。一郎、ああ見えて苦労してるんだ。だからしっかりしてるように見えるのよ。でも、まだ16歳。だから一郎をいつも心配してるのよ」
目を閉じながら姉さんの話を聞いていると、少し目頭が熱くなってきた。
母さんが亡くなった時、姉さんは大学4年生。翌年に就職したけど、今年の1月までずっとこの家に残って僕の面倒を見てくれてたんだったな……。
「一人で家事もできますし、問題ありませんよ」
「違う。あたしが心配してるのは、一郎の女関係よ。だらしない父親の血を引いてるのか、ちょくちょく片鱗を見せることがあって、いろんな女の子に無責任にちょっかいかけてはあっちへフラフラ、こっちへフラフラ……。それでもこれまでは同年代が相手だったから目をつぶってきたけど、今はどうなの?リサは被害に遭ってない?」
「あ~、そういえば偶然を装って胸を触られたことあったような……」
「え~っ?ラッキースケベ的な?あいつ、本当にラノベみたいな生活してんじゃん。しょうがないな~」
「それから、空手道場で、道場主の孫娘さんと組手したんですけど、その時も相手の胸ばっかりつっつき回して泣かせちゃって」
「えぇっ……、道場主の孫娘って、岡崎道場の佐那ちゃんだよね……あいつ、なんてことを……今度菓子折り持って謝りに行かないと……」
姉さんがドン引きしてる。ちょっと、何てこと言ってくれてるんですか!!そもそも佐那の胸を集中攻撃したのだって、リサの言う通りにしただけだし!!
文句を言ってやりたいが、ここで言うと寝たふりをして話を聞いていたことがバレてしまう。黙って布団の中で身悶えるしかない。
「そういうエッチなとこもありますけど……でも、私は一郎のこと、すごいと思ってますよ。成り行きで貴族にされたのに、逃げ出さず、いざという時は体を張って陛下をお守りして。こないだなんかもバスに刺客が乗り込んできたのに……逃げずに機転を利かせて難を逃れて。私も頼りにしてるんです」
「そうだよね、そういえば昔さ、父親とあたしがケンカした時……」
話が落ち着いてきたからだろうか。リサの声を聞きながら、なぜか急に眠気が襲って来て、そのままコテンと眠りに落ちてしまった。
次に目を開けた時、窓の外はもう明るかった。
「あれっ?姉さんは?」
「始発で大阪帰ったよ~」
声の方に目を遣るとリサがまだ一人でビールを飲んでいる。しかもテーブル上だけじゃなく、床一面にビールの空き缶、それにワインの空きボトル。
二人でどんだけ飲んだんだ!?
「帰る前に、姉さんに一言挨拶したかったな……」
「ああ、伝言預かってるよ。私には一郎をよろしくお願いします、一郎には『これからもリサを師匠として崇めて、リサが言うことには何でも従いなさい』ってさ」
「ホントですか?師匠が勝手にでっち上げたんじゃないですか?」
「なによ!さっそくお姉さまの言いつけに反するの?……まあ、いいわ。それにしても弟思いのお姉さんで、仲が良くて、うらやましい……」
リサはそう言うと、ビールをあおり、それから遠い目をした。




