第24話 どっちが強い?
部屋の中でドスン、バタンと大きな音がして、しばらく待たされた後、またドアが開いた。
「はい…これ…」
姉さんから脱いだ黒いパンツを受け取る。どうやら別の下着に履き替えたようだ。さらに上にくすんだ緑色のスウェットを着込んでいる。
「ありがとうございます……」
僕が受け取ろうとすると、渡さずそのままグイッと顔を近づけて来た。
「……ちょっと、この二人のこと聞いてないんだけど?あいつの後妻と連れ子?いつからこんなことなってんの?相変わらずあいつは女にだらしない……。」
姉さんはヒソヒソ声で話したけど、ちゃんと聞こえていたようだ。背中越しに厳しい視線を感じる。
「違いますよ、リサ師匠とマリアちゃんは、父さんの後妻と連れ子じゃありませんよ。実は……」
僕は姉さんに対して、これまでの経緯をかくかくしかじかと説明した。
「なるほど、そういうわけね。納得」
「そうなんですよ……」
すぐ納得してくれてよかった。ほっと胸を撫でおろそうとした瞬間だった。
「……なんて、言うと思ったか、ボケ~ッ!!はぁ?二人が異国の王様と貴族で?一郎も貴族に叙爵され?そんでこんな年上美女と幼女と一緒にハーレム生活?そんな話あるわけないやろが~!出来損ないの同人ライトノベルか!!」
「えっ?大阪弁?ノリツッコミ?」
「そら大阪仕込みのノリツッコミも出るわっ!!久しぶりに帰って来られたと思ったら、かわいい弟が一人暮らしをいいことにこんな滅茶苦茶な退廃生活してたらな!!」
「そんな、滅茶苦茶なんて……」
「あれやろ、どうせ、あの年増のシングルマザーに、底なしの旺盛な性欲につけこまれて、たらしこまれて豊満な肉体に溺れて、なし崩しで家に上がり込まれたとかやろ!!やっぱりあいつの血を引いてるな~。信じてたのに、あたしの目がなくなったらすぐに箍が外れていきなりそんな上級編の堕落をしてるなんて~!?」
姉さんが顔を真っ赤にし、どんどん興奮し、勝手な想像をまくし立て始めた。
しまった。説明を失敗したか……。姉さんの中では、僕がシングルマザーであるリサと同棲して、その連れ子と一緒に爛れた退廃生活をしてるって、日活ロマンポルノみたいなストーリーが出来上がってる。
どうしよう……?
「……ちょっと待って。私はローデシア王国のリサ・ロッテンマイヤー。ローザマリア陛下の騎士団長にして、ロッテンマイヤー侯爵家の当主……」
「あんたもあんたよ。何で急にそんな変なポーズでトンチキなこと言い出すの?口裏を合わせてるってこと?いい大人なのに、こんな年端もいかない子どもをたらしこんで、家にも上がり込んで!!恥ずかしくないの!!」
困惑顔で見栄を切って介入しようとしたリサに対し、姉さんが嚙みついた。これにはリサも表情を一変させる。
「な、なんだって?私が一郎をたらしこんで、この家に上がり込んだ?ヒモみたいに言うな!貴族を侮辱するな~!!」
細部は違うけど、リサの食費とか酒代とか僕が出しているわけだから、そんなにヒモと変わらないのでは……?とも思ったけど、そんなツッコミを入れてる余裕はない。
リサと姉さんは、昭和のヤンキーみたいに顔を近づけて睨み合っている。
このままだとつかみ合いのケンカが始まってしまう。言うまでもなくリサは強いが、姉さんだって空手三段で、大学時代に空手の女子中量級で全国優勝したほどの猛者。この二人が正面からぶつかったら、周りにいる僕たちもただでは済まない。
マリアちゃんとバロンを安全な場所に避難させないと、と思い彼女らの姿を探して息を飲んだ。マリアちゃんは戦場の中心地。睨み合う二人の間に立っていたのだ。
「リサ、それからお姉さま。ちゃんと話そ。わたしからきちんと説明するから」
マリアちゃんの、あどけないけど、しっかりした様子に気勢を削がれたのだろうか。
睨み合って一触即発になっていたリサと姉さんは振り上げた拳を下ろし、座って話をすることになった。




