第23話 著作権は問題ないの?
その事件の始まりは、マリアちゃんがダイニングテーブルで宿題をしているのを横目見ながら、台所で皿洗いをしている時だった。
「ちょっと!!ないんだけど?私のパンツが!!」
シャワーを浴びると言いながら浴室へ入って行ったリサが血相を変えて戻って来た。
「知りませんよ。よく探したんですか?」
「昨日お風呂場で洗って浴室に干しておいたんだもん。それがなくなってる!」
「勘違いでしょ?またどこかに放り出して、隙間に入り込んだんだと思いますよ」
リサが物を失くすことは珍しくない。頭に載せた眼鏡を探すなんて古典的ムーブも週3くらいで見せられて、もはや食傷している。
でも、今日のリサは違った。確信があるようで、周りを探すでもなく、むしろ僕らの方に疑わしい視線を向けて来た。
「きっと盗まれた……。そして、犯人はこの中にいる!!」
突然の名探偵の誕生に、僕とマリアちゃんそして子猫のバロンの間に緊張が走った。
いや、バロンだけは「ミャ~ン」と言いながら体を伸ばしてるだけだけど。
「どういうことですか?」
僕はいったん皿洗いの手を止め、リサの指示に従ってダイニングテーブルの席に着いた。マリアちゃんも宿題の手を止め、不安そうな顔をしている。
「私が干しておいたパンツを盗んだ犯人がこの中にいるってことよ。そして、犯人はお前以外にいない!一郎!!」
リサが突然、人差し指を突き付けて来た。
「ええっ?なんでですか?」
「下着は浴室に干しておいた。外部からの侵入者が盗んだとは考え難い。陛下やバロンが私の下着を盗む動機はない。消去法で犯人は一郎の一択。この名探偵リサの目はごまかせないわよ!!」
得意げな顔で腰に手を当てるリサ。とうとう自分で名探偵なんて言い出したよ、おい。
「僕にも動機はありませんよ。それに消去法なんて推理が雑過ぎませんか?ご自身が勘違いしてるんじゃないですか?師匠は目が悪いから、お風呂場で眼鏡を外してパンツと黒いハンカチを取り違えるなんてこともありそうじゃないですか」
僕の反論に、名探偵リサは少し痛いところを突かれたという表情をした後、急にハッとして、それからクックックッ……と忍び笑いを始めた。
「語るに落ちたとはこのことだな、一郎……」
「いったいどういうことですか?」
「誰が黒いパンツだと言った?私はさっきからパンツとしか言ってないよ。なぜ一郎はそれが黒いと知っているの?」
「そ、それは、師匠は色違いの下着を7枚持っていて、曜日ごとに各色をローテしててるじゃないですか。昨日が火曜日だったから、ちょうど黒の順番だなと思っただけで……」
「なんでそんなことチェックしてるのよ!!そっちのが問題よ!まあそれはいいわ。これで一郎が私の下着に異常に執着していることも証明されたわね。犯人は一郎よ!!」
「待ってくださいよ。いくら僕でも師匠のパンツを盗んだりしませんよ。ねえ、マリアちゃ……」
振り向くと、マリアちゃんが僕を憐れむような、何とも言えない視線を向けていた。
「いちろう……自首しよ。わたしも佐那先生も、つみをつぐなうまでいつまでもまってる……」
「やめてよ!!違うから!!僕は犯人じゃない!」
「でも、一郎以外に動機があって、犯行が可能な人はいないのよ。真実はいつも一つ!!」
「当たり前のことを強く言って、強引に冤罪を生み出そうとしないでくださいよ……あれ……?」
何か大事なことを忘れている気がする。なんだっけ…?え~っと……。
「どうした一郎?もう言い訳の種も尽きたか?浜の真砂と五右衛門が 歌に残した盗人の 種は尽きねぇ七里ヶ浜!黙ってお縄に、つけ~い!!」
得意の歌舞伎風の見栄を切るリサを尻目に、僕は立ちあがり廊下に出た。
「なんだなんだ、逃げるつもりか?この弁天小僧!」
「違いますよ。僕、犯人わかっちゃったかもしれない!!」
そう言いながらドアをノックした。マリアちゃんの部屋のドアじゃない。その隣の部屋のドアを……。
「そこは開かずの間なんでしょ?まさかそこに犯人が隠れているとかバカなこと言って言い逃れるつもりじゃ……」
何度目かのノックの後、ドアが内側からガチャっと開き、その彼女が目をこすりながら出て来た。上はTシャツ、下はパンツ一丁。
「……どうしたのよ、一郎……」
「ああ、ごめん寝てるところを。黒いパンツ知らない?お風呂場に干しておいたらしいけど」
「ああ、これね。一郎が洗っといてくれたんだと思って履いたけど……」
彼女は指で自分のパンツを指さした後、ようやく僕だけじゃなく、僕の背後にリサとマリアちゃんがいることに気づいたようで、赤面してバタンッとドアを閉めた。
「ちょっと!!お客さん来てるなら言ってよ!パンイチで出ちゃったじゃないの!!」
「ごめ~ん……」
リビングに戻ろうと振り返ると、目を丸くしたリサとマリアちゃんが立っていた。
「あれ……だれ……?」
「ああ、僕の姉の山口愛美ですよ」
「もしかして……ずっとあの部屋に引きこもってたの?私たちが引っ越してきてからずっと……」
「まさか!!今年の1月に転勤になって、普段は大阪で暮らしてるんですけど、たまたま、さっき二人が留守だった時に帰って来て。あれ、姉のこと、言ってませんでしたか?」
僕の言葉に、リサとマリアちゃんは、まるで水に濡れた子犬のように激しくプルプルと首を横に振った。




