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第22話 これはもしや?

「うわ~っ、人でいっぱいだ~」


「座るとこないね~」


 コンビニで買い物を済ませ、河川敷まで行くと、既に立錐の余地もないくらい人が集まっていた。

 ここに来る前は土手とか石段の途中に座って観ようかと思ってたけど、とてもそんな場所を見つけられそうにない。


「ちょ、ちょっと!!待って。一郎、助けて~」


 佐那が人ごみに揉まれながら流されていく。

 佐那は小柄だから、すぐに姿が見えなくなっちゃう。そしたらはぐれて見つけられなくなってしまう。


 非常時だし仕方ない!


「ふ、ふぇっ?」


 思いっきり手を伸ばすと、佐那の手を掴むことができた。それでも油断すると、また人混みに流されてしまうかもしれない。しっかりと佐那の手を握りしめる。


「痛い、痛いから!」


「あっ、ごめん。力が入り過ぎちゃった!」


 慌てて手を離そうとすると、今度は佐那の方から手を握ってきた。


「言っとくけど、これは、はぐれないようにするためなんだから……グェッ!!」


 言っているそばから佐那が、大学生男子が持っている巨大なスポーツバッグに圧し潰された。もうこれ以上ここにいるのは危険かもしれない。


 佐那の手を引いて河川敷の土手を離れ住宅街まで戻ると、やっと人混みから抜け出すことができた。


「やっぱり佐那の言う通りだったね。この人混みの中に小さな子を連れて来るのは非常識だったか」


「わたし、小さな子じゃないし!!でも……確かにあの人混みに戻るのは無理ね。かといって、ここからじゃよく花火が見えないし……」


 佐那が少ししょんぼりしている。だけど、小柄な上に浴衣で戦闘能力が制限された佐那を連れて河川敷に戻るのも危険だ。どうしよう?


 そういえば僕が子どもの頃、母さんに花火大会に連れて来てもらった時はどうしたっけ……?

 あんな混雑した河川敷じゃなくて、もっと落ち着いたところでゆっくり花火を観た記憶があるんだけど……。


「そうだ!ちょっと歩くけど、近くに座って花火が観られそうなところを思いついたんだけど、大丈夫そう?」


 僕がそう伝えると佐那は僕の手を握ったまま、黙ってうなずいた。


◇


「えっ?本当にこんなところから花火が観えるの?」


 僕が連れて来たのは河川敷から少し離れた住宅街にある小さな児童公園だった。


「うん。小さい頃、お母さんと一緒にここから花火を観たんだ。間違いない。ここだったと思う」


 この公園はマンションに囲まれている。

 しかも誰もいない。本当に今でもここから花火が観えるんだろうか?


 僕は不安に思いながらも、佐那と一緒にブランコの前の鉄パイプに座った。


 そして、それを待っていたかのように花火の音が鳴り響いた。


「あっ、すごい!ちゃんと見える!すごい!!」


 佐那が歓声を上げた。公園の隣が神社で高い建物がないから、奇跡的に花火が観えるようだ。

 知らなかった。だからこそ誰もいない穴場になっているのだろう。


 昔と変わってなくてよかった。

 ホッとしながら花火をぼんやりと見上げていると、右肩にゴツンと頭が当たったような感触があった。


 んっ?頭突き?なんで?

 そう思って横目で見ると、佐那が僕の肩に頭を預けていた。

 しかも、さっきから手を繋いだままだ。うっかりしていた。

 とはいえ、急にパッと手を離すわけにもいかないので、なすがままにする。


「……ねえ。小学6年生の時も合宿の最後に、一緒に花火大会行こうって約束したの覚えてる?どうしてあの時、花火大会に来てくれなかったの?」


 佐那の口調は、柔らかだったけど、少し責めるような、拗ねたような響きがあった。


 そんな約束しただろうか?でも、小学6年生の夏休みと言えば、本当に約束していても行けなかったはずだ。だって……。


「小学6年生の8月は……お母さんが急に倒れて入院しちゃったんだ……」


 佐那がビクッと震えて体を固くした。だんだん思い出してきた。

 あの小学6年生の夏から秋のことを……。


「結局、お母さんは秋に亡くなって。そしたらお父さんが急に外国に行くとか言い出して、すぐに家から出て行っちゃって……そこからは姉さんと二人暮らしになったから……そういった事情で空手道場にも通えなくなったんだ」


 佐那が僕の手を強く握った。頭上ではずっと花火が夜空を彩り続けている。


「……ごめん。そんな事情も知らずに、根性なしとか情けないとか言っちゃって……」


「僕こそ、佐那にちゃんと説明するべきだったと思う。ごめん」


 佐那は何も言わなかった。僕も何も言えない。ただ花火の音が響いていた。


 急に右腕に佐那の体温を感じた。いつの間にか身を寄せてきている。


「佐那……」


 佐那は黙ったままだ。ただ、瞳を閉じて僕の方に顔を向けている。


 こ、これは寝てしまった……わけはないよね。

 さすがの僕もどういう意味かわかるよ。衣里と付き合ってた時に経験あるし……。


 僕は息を飲み、佐那の肩に手を置いた。

 その時だった。


「……あの、佐那?佐那?」


「恥ずかしいから早くしてよ……」


 僕は構わず佐那の肩を揺さぶる。


「……どうしたのよ?こんな時まで根性なしなの?」


「いや、そうじゃなくて……見られてるんだって。ほら、あそこ!!」


 僕が指を差すと、神社のあたりでガサッと茂みが動く音がした。


「出てきてください!もうわかってますよ!覇気がダダ洩れです!」


 僕の一言に、リサ、マリアちゃん、それからマリアちゃんに抱かれたバロンが茂みの陰から姿を現した。


「や、やあ~。こんなとこで会うなんて奇遇だね~」


「い、いちろ~だ~。ぐうぜ~ん」


「そんなわけないでしょ!!さっきコンビニの前で聞こえた鳴き声もバロンの声ですよね。後を付けて来たんですか?」


 僕が追及すると、リサとマリアちゃんは揃って視線を逸らし、口笛を吹く真似をした。


「あ、えっと、あ~っ、そうだ。一郎を狙った刺客が来るんじゃないかって……」


「僕を狙うわけないじゃないですか!むしろマリアちゃんを連れて来る方が危ないでしょうが!それにマリアちゃんも、明日から学校なのに、こんな遅くまで!!すぐに帰るよ!!」


 結局、花火大会は途中だったけど、ここで帰ることになった。佐那を家まで送った後、リサ、マリアちゃんと並んで家まで歩いた。


 だけど、あのままリサ達に気づかず雰囲気に流されていたらどうなっていったんだろうと考えると、その日は全然寝付けなかった。


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