閑話 リサの優雅な生活 ~神はサイコロを振らない~(2)
「やった!6の2ゾロだ!!」
「チッ……」
私に子の番が回ってきた。そして私は2連勝した。
しかも、それぞれ5000円張ってたから、これで一気に1万円増えたことになる。手元のお金は千円札が、ひいふうみい……50枚。
つまり5万円。合宿費用に届いた!
できれば、一郎の分も稼ぎたいけど、欲をかくと最後にすべて失ってしまうことは、お馬ちゃん達に身に染みるくらい何度も教えてもらった。賭け事は引き際が肝心。このあたりで帰ろう。
「……じゃあ、私はこのあたりで……」
しかし、立ち上がろうとした私の腕を、隣に座る清美さんが素早く掴んだ。
「だめよ~。全員交替で、各自親を最低2回やるのがルールよ。リサはまだ親をやってないでしょ~」
目を細めた仏様のような笑顔だったけど、有無を言わさない口調。私は勢いに押されて、反対側の親の席に座った。
「ククッ……さっきまではバカヅキしてたようだが、チンチロリンの醍醐味は親番だぜ……」
「ククッ……地獄を味わうといい」
「クククッ……」
一同が不気味に笑い出した。ニコニコドラッグのモットーは、『いつも明るく朗らかな笑顔』。みんな、アルバイト中は、モットー通りに爽やかな笑顔で接客してるのに……とても同じ人には見えない。
ま、まあいいわ。気を取り直そう。
親番は2回。確率的に2回に1回は勝つわけだから、少なくとも手元の5万円はそのまま持って帰れるはず‥‥‥。
「甘いわよ!!」
子番は紀子さん。立膝で座った彼女は千円札を10枚叩きつけた。それを見て、他の人も一斉に千円札を10枚ずつ前に出す。つまり、賭金は5万円。親の私が勝つと5万円貰える。だけど、負けると5万円払わないといけない大勝負になってしまった。
急に心臓が高鳴り始めた。顔をあげると、眼光鋭い紀子さんと目が合った。
「リサ、これがギャンブルの醍醐味ってやつよ」
紀子さんは唇の端を歪めながら、サイコロを振った……。
紀子さんが出した目は2、3、3。つまり3の2ゾロ。あまり強い役ではない。私は親だから同じ役でも勝ち。つまり3の2ゾロ以上出せば私の勝ち。そうすればあの5万円は全部私のもの!!
しかし、そう思った瞬間から手が震え始めた。
「……また役無しだな」
サイコロを2回振って、2回とも役ができなかった。サイコロを振れる回数は3回だけ。あと1回振って役ができなければ負けてしまう。そう思うとますます手が震えた。
「あっ……」
振っている途中で、サイコロが手から零れ落ち、ラーメン丼の外に出てしまった。
「ちょんぼだな……。じゃあ、しめて5万円、こちらに貰おうか!!」
紀子さんがふんだくるように、私の手元の5万円を奪い取った。
これで無一文。元の木阿弥……いや、マイナス1万円か……。
がっくりとうなだれ、そのまま立ち去ろうとすると、紀子さんが追い打ちをかけてきた。
「リサ、忘れてない?親番は2回ずつなんだよ。リサはまだ1回しかやってないでしょ」
「えっ……?でももう手持ちが……」
「次の給料日まで待ってあげるよ。トイチの利息でいいからさ。さあさあ、張るよ!!」
紀子さんは千円札を二枚出した。他の4人もそれに倣う。金額が控えめなのは、さすがにやり過ぎたと思ってくれているからだろうか?それでも負けると1万円取られてしまう。いや、10日に1割の利息もあるから……。苦しすぎる。
しかし、私はまた絶望を味わうことになる。子である紀子さんが出した役は、なんと6の3ゾロだったのだ。3ゾロは2ゾロよりも強い。
しかも6の3ゾロなんて、私にまだ勝ち目があるの?
「ほれっ、リサ、振りなよ」
紀子さんがサイコロを握らせてきた。もう勝ちを確信しているのだろうか?口元がニヤついている。
「笑ったな?……勝負がつく前に笑う奴は……最後に逆転されるって…教えてやる」
そう嘯き、念を込めながらサイコロを振る。しかし、ラーメン丼の中のサイコロを見て絶望した。まだ1個はコロコロと動いているけど、残りの2個の目は1、つまり1の2ゾロ?最弱じゃん……。
よりによってこんな時に……。
グッと唇を噛みしめ、下を見る。すると、わっと歓声が聞こえた。
「ウソでしょ……初めて見た」
その声に顔を上げ、ラーメン丼の中を覗き込んだ。1、1、1……すべてのサイコロの目が1だ。
「ピンゾロ……」
えっ?これってすごいの?
でも、紀子さんは6の3ゾロだから、それでも届かないか……?
「ピンゾロは最強。親が出したら問答無用で賭金の5倍を総取り……」
清美さんのつぶやきではっと我に返った。2000円×5倍×5人=5万円?一気に取り戻したってこと?
「や、やったぞ!!やった!ほら、一人1万円、出せ出せ~!!」
私は全員から1万円ずつふんだくり、それでも興奮冷めやらず、雄たけびを上げた。
「ちょ、ちょっと、リサ。静かに。ここ店内だし、大きな声を出すとまずいから……」
清美さんのたしなめる声の後、バンッと女子更衣室の扉が勢いよく開かれた。
「とうとう現場を押さえたぞ!!やっぱり神聖な店内で賭場を開いてやがったな~」
そこには普段は気弱そうな店長が、いつもとはうってかわって、鬼の首を取ったかのような顔をして立っていた。
「やべっ、逃げろ!!ずらかれっ!!」
そこからはしっちゃかめっちゃかだったけど、私は何とか店長の追跡から逃げのびた。もちろん勝ち金の5万円は大事に懐にしまってある。
これで一郎の鼻を明かすことができるぞ!!
あいつ、私が煎餅缶貯金をお馬ちゃんで0にしちゃった時、ため息ついて「やっぱりそうじゃないかと思いましたよ。もう師匠には期待しません」なんて言ってたからな。
この5万円を突き付けてその発言を撤回させてやる!!
前途に不安はあったけど、一郎の驚く顔を想像すると、家路を急ぐ足取りは軽くなった。




