第2話 あなたはいったい何者ですか?
雨の日に会った不思議な女の子、マリアちゃんとは、意外にもその後すぐに再会することができた。
次の日、同じように学校帰りに買い物をして河川敷を歩いていると、橋のたもとで僕を待っていた彼女に出会ったからだ。
「い~ち~ろ~」
黒い子猫を抱きながら屈託ない笑顔で手を振ってくれるマリアちゃんに、思わず僕の表情も綻び、手を振り返そうとして……少しためらった。
マリアちゃんの隣に、眉間に皺を寄せながら、仏頂面で腕を組む怖そうな女の人がいる。
年のころは20代半ばくらいだろうか?
黒い艶のある長い髪にブラックスーツ。フレームのない細い眼鏡。キャリアウーマン風で見るからに仕事ができそうな彼女は、思わず目を奪われるくらいの美貌だけど、何とも表現しがたい覇気を放っている。
どうしよう?何か怒らせちゃったのかな?
このご時世だし、幼女に興味を持つ危ない奴だと警戒されてるんだろうか?
「あ、あの、マリアちゃんのご家族の方ですか?僕は昨日、偶然マリアちゃんとここで会って少しお話しただけで、決して怪しいものではないです……」
思わず口から零れ落ちた弁解に、その黒髪の彼女はクワッと目を見開き、一気に僕に詰め寄ってきた。
「無礼者!!貴様!ローザマリア陛下に対して、『マリアちゃん』などと呼びかけるなど何事か!貴様はまだ貴族見習いに過ぎないのだぞ!分をわきまえよ!!」」
耳をつんざくような一喝で縮み上がり、何も言えなくなった僕は、ヒェッと声をあげて思わず目をつぶった。
それからおそるおそる目を開けると、マリアちゃんがその女の人の服の裾を引っ張っている様子が見えた。
「リサ、一郎には、わたしから『マリアちゃん』って呼んでいいって許した。だから問題ない」
「失礼いたしました、陛下。一郎、陛下の恩情のおかげで命拾いしたな。次はないからね!!」
よかった~。助かった~って、あれっ?そもそも何で僕が一方的に怒られなきゃならないんだ?
それに陛下?命拾い?全然事情がつかめないぞ……。
「あの、すみません。陛下とか、貴族見習いとか、さっきから話が見えないのですが……」
おそるおそる尋ねると、またきっと鋭く睨まれた。
「なんですって!家臣としての自覚がないの?昨日、ローザマリア陛下から準男爵に叙爵され、陛下に忠誠を誓ったんじゃないの?」
家臣?叙爵?なにそれ?あれっ?もしかして……?
「確かに、昨日、その橋の下で王様と貴族ごっこをしたけど、あれって……」
「控えなさい!このお方は、偉大なるローデシア宗家第十二代目当主にして当代のローデシア王国の女王陛下であらせられるローザマリア・ローデシア様である。知らなかったとは、あ~、言わせないぞ~!」
いえ、まったく知りませんでした。ローデシア王国なんて国も聞いたことすらありません……なんて言える空気じゃないな、これは……。
この人、目が血走ってるし、決めポーズまでしてるし、下手なこと言ったら逆上させちゃうかもしれない。とりあえず黙って様子を見ることにしよう。
僕が黙ってうなずくと、彼女はニヤリと笑い、ビシッと親指で自分を指さした。
「そして、この私、栄えあるローデシア王国の上流貴族であるロッテンマイヤー家の第二十五代目当主にして、ローザマリア陛下の騎士団長。ローデシアのワラビーとして世に聞こえる、リサ・ロッテンマイヤー侯爵とは、ま~さ~に、私のことだ~!!」
物凄いドヤ顔!そして大見栄を切った歌舞伎役者みたいな決めポーズ!!
これは常人じゃない。間違いなく変な人だ。
「……とりあえず、わかりました。いえ、正直言えば全然わかりませんけど、とりあえずお名前はわかりました。リサさん。それで今日は僕にどんなご用事でしょうか……?」
「喜べ、山口一郎!陛下は、貴様の屋敷にご来駕されると仰せだ。言っておくけど、陛下を屋敷にお迎えするなど貴族にとってこの上ない栄誉。恐れ入ってさっさと貴様の陋屋へ案内せよ」
つまり、僕の家に遊びに来たいってこと?
え~っ……?
後に、冷静になって振り返った時、なんでこの時、走って逃げなかったんだろうと思わないこともなかった。そうすれば、この後、二人に巻き込まれて、しなくていい苦労をして、何度も生命の危機に脅かされることなんてなかっただろうに……。
ただ、この時の僕は情報量が多すぎて脳が疲れていたのだろうか?言うがままに二人を僕の家に案内してしまった。




