第18話 唐突過ぎませんか?
合宿最終日、もうこの日は貸切バスに分乗して家に帰るだけである。僕の隣の窓際の席は佐那。バスに乗るなり話があると言われて引っ張られた。
通路を挟んだ反対側の窓際の席にはマリアちゃん。通路側にはリサ。
その後ろの席は龍太くんで、時折、マリアちゃんに切なげな視線を送っている。悲しい……。
ただ、連日の合宿の疲れがあったのか、バスが高速道路に乗るとすぐに、マリアちゃんも龍太くんも、すやすやと寝息を立て始めた。その隣でリサはビールを片手に柿の種をポリポリと食べている。この人はどこへ行っても自分のペースを崩さないな……。
反対側の隣の席の佐那は……というと、話があると言ったくせにずっと黙っている。しかも、いつもみたいな怒った様子の仏頂面じゃなく、何か恥じらいのようなものも感じる。よほど言いにくいことを言おうとしているんだろうか?
「あのねっ、一郎!」
ようやく佐那が意を決したように口を開いた。僕も思わず居住まいを正す。
「合宿……来てくれてありがとうね。手伝ってくれて助かったよ」
「う、うん。こちらこそマリアちゃんのために骨を折ってくれてありがとう」
そこでまた佐那が口をつぐみ、また沈黙が訪れた。
これで終わり?
これだけ言うために隣に座らせたの?
佐那は、小学生の頃はノンデリで、言い過ぎることもあったくらいなのに、高校生になってだいぶ変わったのかな?
そんなことを思っていると、バスが休憩のためにサービスエリアに入った。
リサが「う~っ、ビール飲み過ぎたな~トイレトイレ……」とおっさんみたいなことを言いながらバスを降りていく。
僕も飲みものでも買ってこようかなと思って席を立とうとすると、佐那にTシャツの裾をつままれた。
「あ、あのさ……」
振り返ると佐那が顔を紅潮させながら、視線をあらぬ方向に逸らしている。僕は勢いに押されて、そのまま腰を下ろした。
「……夏休み、もうすぐ終わっちゃうね」
「うん。そろそろ宿題もやっておかないとね。佐那は私立の進学校だから勉強大変でしょ?」
「そうそう、もう空手との両立が難しくて……って、今はそれはいいのよ。夏休みの最終日、8月31日に多摩川花火大会があるでしょ?それに……行かない……?」
「えっ、花火?佐那と?」
「あっ、あ~っ、ほら一郎のことだから、どうせ友達もいなくて、夏休みもだらだら死んだように過ごしてるんでしょ?二度とない高2の夏休みに思い出の一つもないなんて?かわいそうだし?優しい私が付き合ってあげようってこと。感謝して欲しいくらいよ!!」
佐那が目を逸らしたまま早口でまくし立てる。でも、佐那の話も、もっともだ。もうちょっと夏休みの思い出があった方がいいかもしれない。
「ありがとう。じゃあ、マリアちゃんとリサ師匠にも後で話しておくから4人で……」
「ちょっと!!なんでその二人が付いてくることになってるのよ!」
佐那が目を剝きながら睨みつけて来た。
「マリアちゃんも夏休みだし、思い出なら小学生の彼女の方が必要かなって……」
「ダメダメ!!花火大会の時は、すごい人混みだし、あんなところに小さい子なんか連れて行けないって!!常識で考えなよ!!」
そうなの?小学生の頃にお母さんに連れてってもらった覚えがあるけど、あれって非常識だったのかな?
「わかった。じゃあ、佐那と僕で一緒に行こうか?」
「う、うん!!あっ、もうしょうがないな~。付き合ってあげるか~」
言葉とは裏腹に、頬を緩めて口元をほころばせる佐那。
さて、話も終わったし、飲み物でも買いに行くかと、改めて腰をあげようとすると、プシュ―と扉が閉まる音がして、バスがゆっくりと動き出した。
あれっ?リサがまだ戻ってきてないぞ?運転手さんに教えてあげないと、と思い運転席の方を見ると、その横に目を血走らせた巨漢が立っていた。
タンクトップに短パンで毛むくじゃらの肌を晒し、その右手には銀色に光る得物……鉈か?
「我が名はマクシミリアン・フーシェ子爵!このバスは俺が乗っ取った!!命が惜しければ、大人しくローザマリア殿下を差し出せ!!」
まさかここで第2の刺客が……。しかも頼みのリサはトイレでいない。
いったいどうしたら?
僕は騒然とするバスの中で、まだ眠るマリアちゃんを横目に、頭をフル回転させてどうすべきか考えた。




