第15話 どうやって捻出しよう?
毎週土曜日、僕とマリアちゃんは空手道場に通うようになった。
また、あのジャイアンとスネ夫の2乗、合わせて4人分のいじめを受ける生活が始まるのかと憂鬱になったけど、悪いことばかりじゃない。
意外にもだいぶ家計が助かるようになったのだ。
「どうせ一郎のことだから、マリアちゃんにろくなもの食べさせてないんでしょ?しょうがないわね~。ちょっとうちで食事していきなさいよ!」
こうやって佐那にあらぬ育児放棄・児童虐待の疑いをかけられ、キッズクラスがある土曜日は岡崎家で食事をさせてもらえることになった。
これで食費がだいぶ助かる。ただ、岡崎家でご飯を食べる時は、リサがこれ幸いにと外に飲みに行くようになったから、トータルで得をしてるのかはよくわからない。
今日も今日とて、道場での稽古と掃除の後に、岡崎家の母屋に移って、岡崎家の皆様と一緒に食卓を囲んで夕食をご馳走になっているわけである。
「わ~っ、すご~い!!フライがたくさ~ん!豪華だ~!」
マリアちゃんが目を輝かせると、佐那のお母さんが嬉しそうに顔をほころばせた。
「たくさん食べてね。今日は佐那が作ってくれたのよ。一郎くんに食べさせてあげるんだ~って張り切ってこんなにたくさん作っちゃってね~」
「ち、違うし。そんなこと言ってないしっ!!これとか、これとか全部、スーパーで買って来たやつだし!そこのライフで特売だったから、つい買い過ぎちゃっただけだし」
佐那が顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
僕としては、作ってもらうよりも、わざわざ総菜を買って来てもらう方が恐縮するのだが……と思いながらも、感謝しながら箸をつける。
「あっ、このイカフライおいし~!!」
「えっ、ほんとっ?それ、切り込み入れて特製のたれに漬け込んだのが隠し味で……」
佐那の顔がぱっと明るくなり、急に饒舌になった。
「あれっ?じゃあ、やっぱり佐那が作ってくれたんじゃん?」
「ち、違うし!!別にあんたのために作ったわけじゃないんだからね!!」
またプイっと顔を背けてしまった。なんというか情緒不安定だな……。
後が怖いし、これ以上料理をいじるのは止めた方がいいかもしれない。
そんな空気を敏感に感じ取ったのか、道場主の岡崎先生が話題を変えてくれた。
「そういえば、一郎たちは夏合宿には来るのか?」
「ああ、はい……まだ入ったばかりだしどうしようかと……」
岡崎道場のキッズクラスでは、毎年8月に長野県の八ヶ岳で1週間の夏合宿を行っていて、僕も小学生の時に欠かさず参加していた。
「合宿、行きたい!龍太くんも行くんでしょ?」
マリアちゃんが隣に座ってエビフライを齧っている龍太くんの方に目を向けた。実は道場に誘ってくれたマリアちゃんの男友達、龍太くんは佐那の弟でもある。
「マリアにはまだ厳しいんじゃない?この俺だって去年は歯を食いしばってなんとか乗り切ったくらいだし。マリアみたいにひ弱じゃ初日でリタイアだな」
「え~っ、龍太くんがそこまで言うなら、行くのやめとこうかな~」
「……来るなとは言ってないし……来たければ来ればいいし……」
龍太くんが精一杯クールぶった口調で、少し顔を赤くしながらマリアちゃんから目を背けている。
あれっ、この感じ、誰かに似てるぞ……。
「じゃあこれ読んどいて。受け付けは来週までだから」
佐那が合宿のチラシを渡してくれた。ざっと上から目を通すと、ある項目に目が留まった。
「大丈夫かな…?」
「何よ、自信ないの?そういえば昔も、すぐにヒイヒイ悲鳴上げてたもんね。また情けないところ見せないでよ。まあ無理だろうけど」
「じゃあ、僕は行くのやめとこうかな……だって……」
「誰も来るななんて言ってないし!言っとくけど、小学生のマリアちゃんが参加するなら、保護者同伴が必要なんだからね。だから絶対に来てよ!」
顔を赤くしながら目を背ける佐那。さっきの龍太くんそっくりだ。
だけど、僕の懸念は別のところにあった。さっき目に入ったチラシの一項目がずっと僕の頭を占めている。
『参加費用:大人3万円、子ども2万円』
このお金、いったいどうやって捻出しよう……?




