↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/60

第13話 なんで勝手に決めるの?

 どうやら僕が腰から崩れ落ちた理由は、佐那が僕の膝へ背後からローキックしたからのようだ。


 相変わらず呼吸をするようなペースで暴力を振るってくるな。


 少し辟易しながらよろよろと立ち上がると、小柄な佐那は腰を手に当て鋭い視線で僕を見上げた。


「勝手に逃げ出したこと、まだ謝ってもらってないんですけど~」


「逃げ出すって……。小学校を卒業したから、キッズクラスも卒業しただけだって」


「その後、ジュニアクラスに上がればよかったじゃん。それなのにわたしに何も言わずにいなくなっちゃって!礼儀ってものを知らないの~?野蛮人なの~?」


「いや、だって佐那は中学から私立に行っちゃったし、会う機会もなかったわけで……」


「ごちゃごちゃ言わないで!いずれにしてもそんな礼儀知らずの根性なしにうちの道場の敷居を跨がせるわけにはいかないから!」


 こりゃだめだな…。

 まったく話を聞いてくれないし、そもそも何言ってるのかよくわかんない。


 だけど佐那は道場主である岡崎先生の孫娘。彼女がこんな態度だったら、ここに通うのは無理か。仕方ない。


「すみません。おっしゃる通りですね。帰ります。失礼します」


 僕はマリアちゃんの手を引いて入口へ向かおうとした。


「ちょ、ちょっと待ってよ!誰も帰れなんて言ってないじゃない!なに?今日は新しい妹さん…?の付き添いで来たの?だったらちゃんと稽古を見て行きなさいよ!」


 佐那は焦った様子で僕の肩を掴んだ。

 どういうこと?あれだけ敷居を跨ぐなって言っておいて、帰れって意味じゃなかったの?わけわからん。


「いずれにしても、稽古が終わったらじ~っくり話を聞かせてもらうから!勝手に帰っちゃだめよ!」


 そう言い残すと、佐那はキッズクラスの生徒達の方へ向かった。


 キッズクラスの稽古内容は、僕が通っていた頃とほとんど同じ。


 みんなで正座して黙想し、準備運動、柔軟体操、突きや蹴りなどの型を習得するためのドリル、それから組手をして、最後にまた黙想で終わる。


 まだ小学生だから、組手では突きや蹴りに力を入れないソフトスパー。相手の体にかろうじて触れるくらいのソフトタッチにとどめている。


 僕が通っていたころも同じだった。だけど、その頃の佐那は、僕との組手の時だけ、いつも先生や他の指導者の目を盗んで、全力で突いたり蹴ったりしてきた。


 やめてって言っても、「男でしょ~、情けないな~」と笑いながら言うだけでやめてくれなかった。


 そういえば、その時の笑い方は、さっきの佐那のニヤついたような顔とまったく同じだった。それに気づくと急にお腹が痛くなってきた。


「ちゃんとわたしの雄姿を見てた?ところで何か気づくことない?」


 稽古終わりの黙想を終えた佐那が、またニヤつきながら近寄ってきた。自分の腰のあたりを指さしている。


「黒帯になったんだ、すごいね!」


「まあね~」と、まんざらでもない表情の佐那。


 しかし、これには素直に関心してしまう。この道場の流派では、黒帯を取得するためには厳しい本部審査を経なければいけない。しかもその一段階前の茶帯から黒帯に昇段できるのは10人に1人と言われている。高校2年生の女子が黒帯を取得するなんて、極めて稀なことのはずだ。


「まあ、そのせいで。土曜日はこうやってお祖父ちゃんの代わりに、キッズクラスの指導をする羽目になってるんだけどね。そういえば一郎は何帯だっけ?」


「一応、茶帯まで行ったけど……」


「へ~っ、意外!すっごい弱かったから、ずっと白帯のままだと思ってた~。でもまあ、キッズクラスの茶帯でしょ。根性なしの一郎が続けてても、わたしみたいに黒帯になるのは難しかったかもね~」


「ああ、うん。そうだよね。すごいよね。佐那は進学校に通ってて勉強も大変だろうし」


「フフッ、まあね~。一郎じゃ無理だろうね~。どうせ毎日だらだらとゲームとかやってるだけなんでしょ?だったら、わたしが空手とか、勉強とか教えてあげようか?そしたら、今よりはちょっとぐらいマシになれるかも……」


 腰に手を当て、得意満面な顔でまくし立てていた佐那の顔が、急に強張った。僕の背後を見て怯えている。


 振り返るとリサが鬼のような形相で佐那を睨みつけていた。


「一郎をバカにするのはそこまでにしてもらおうか?」


「な、なによ…?一郎くんの新しい継母さん?言っとくけど、わたしは一郎くんのことを思ってこう言ってるのよ。昔からいつも無気力で覇気がなくて、だから、こうやってわたしが引っ張ってあげないと……」


「一郎は立派な貴族だ。いざとなれば自分の体を張って王を守ろうとする気概もある。勝手に決めつけて侮辱するのはやめてもらおうか!」


 リサの強い言葉に佐那は一瞬ひるんだ。だけど気の強い佐那はすぐにリサを睨み返した。


「なによ!一郎は、いつも逃げ腰で、空手からも、わたしからも勝手に逃げて……。体を張って誰かを守るなんてできるはずない!」


「じゃあ、試してみるか?一郎、このお嬢さんと組手をしてわからせてやるといい!」


 僕がまったく関係しないところで、なぜか佐那と組手をすることが勝手に決められてしまった。


 なんで?今日は厄日なんだろうか…?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。