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第三章 鉄と血と混沌

前回のあらすじ

 ドイツ国内ではラーガ・ヴァルター率いるドイツ労働者国民党が一党独裁を敷き始め、皇帝の権力を実質的に排除した。さらにドイツはこれだけにとどまらず民族保護を名目にオーストリアに侵攻し全地域を掌握。国名を「独墺帝国」へと改名した。さらにアジアでは日中戦争が発生し日本が国民党への配慮と主権維持のもと勝利を手にし、国民党は共産党との決戦を行った。その結果国民党が勝利することができたが共産党はモンゴルへ亡命し、満州国はいまだ治外法権の独裁国家になりつつある。一方日本では日中戦争の結果やソ連や独墺帝国の脅威から西側諸国への協調を進め民主化を進めている。

 そしてバルカン半島では、独墺帝国から逃亡してきた民族主義者によって独墺帝国の闇が暴かれようとしていた。

 1945年6月バルカン大同盟評議会から全世界に向けてとある表明があった。これは全世界同時放送であり、アメリカやイギリスはもちろん、ソ連や日本、日華共和国でも放送されこれを聞くものは皆その場で足を止め静かに聞いていた。内容は独墺帝国の実態についてであり、ルーマニア局局長が登壇し深呼吸して話し始めた。

 「全世界の多種多様な民族の、国の人よ。これから話すことはきっと信用できず、混乱するかもしれない。そして中にはその不信感で泣いたり、叫ぶ者もあらわれるだろう。だが、私が今から話すことは実際に独墺帝国から亡命してきた者が泣きながら、そしてかつての敵に頭を下げてまでこうして全世界に発信してほしいと懇願してきたのだ。だからこそ、我々は平和の中心を願いながらも戦争の危機を引き起こしてでもこの現実を全世界に伝えなければならない」

 その言葉に多くの民衆が疑問の声を出し、独墺帝国へのかつてからの不信も合わさり自然と周囲で予想や不安を口にしていた。そんな中でルーマニア局局長はもう一度深呼吸し、覚悟を決めたような表情で続きを話し始めた。

 「これから話すことは、独墺帝国から亡命してきたハンガリー人の話だ。彼はルーマニアに着くや否や我々に助けを求めてきた。内容はドイツ系民族以外の大規模な迫害だ。これだけならどの国でも歴史を見ればよくある話だろう。だが、あの国は次元が違った。魔女狩りのようにドイツ系以外の民族主義者を見つけてはその地で処刑し、さらに通報したもの民族と処刑した民族が同じならば報奨金を出すという狂気だ。その結果あの国では民族差別でただでさえ生きるのに必死なスラブ系民族などはわずかな金を求めてお互いに通報し間接的に殺しあってる。しかもそれを助長したのは1931年に首相に就任しその後総統になったラーガ・ヴァルターだそうだ。彼は皇帝の権力を実質的に掌握するだけでなく言葉巧みに民衆を動かし国内で巨大な民族階級制度を作成した。あの国ではドイツ系民族が頂点に立ち、それを他の多民族が少ない給料で奴隷のように働いている。さらに、大戦争時に英仏軍を打ち破った旧ロシア軍の多くはスラブ系民族であるという理由だけで大戦争にて大きく貢献したにもかかわらず処刑されたそうだ。あの国ではもはやドイツ系民族以外を人として扱っていない。彼もまた同じ民族に居場所を通報され、処刑一歩寸前で逃亡してきた。残念だが今頃彼の親族は処刑されているかもしれない。しかし、それが正当化されるということをここまでにしなければより多くの命が奪われることになる。我々は多くの難民を受け入れ、いざというときには多民族のために独墺帝国の魔の手から守る覚悟である」

 最後まで話し切ると局長は下を向き、誰が見てもわかるほどに汗を流していた。放送越しにもわかるほどの緊張感が彼の周囲には漂っており、少しの沈黙の後局長の勇姿をたたえるように拍手が巻き起こっていた。放送を見ていた世界各地では恐怖と驚きなどが蔓延し、各地で泣く声や怒りをあらわにしているものが多くいた。そしてトルコ「アンカラ」でも多くのものが唖然とする中で路地裏から見ていたある人物は小さくつぶやきながらとある場所に連絡していた。「これは少しまずいな。本国はなんていうんだろうか。こっちもそろそろ動いた方が良いかもな」そういうと無線を静かに取り出し応答していた。「こちらアンカラ。本国より指示願います。バルカンのせいで少し計画を早めにしないとかなり手遅れになるかもしれません」そう話すと無線の相手から応答があった。「こっちもあの放送のせいで手間取っているんだ。だが、もう時期かもしれない。総統閣下はバルカン大同盟に憤慨してすでにこちらでは再軍備し、ウィーンからエルター・ヴァイス将軍率いる部隊がバルカン戦線に集結し始めた。そちらの任務は変わらない。トルコを掌握し、バルカンを破壊しながらかつての盟友を蘇らせろ。以上」その後、アンカラに展開している独墺帝国のスパイは静かにアンカラの首相官邸に向けて移動を開始した。

 そしてこの放送があった翌日独墺帝国からも全世界向けの発信があり内容は「バルカン大同盟は事実無根の独立戦争を助長する極めて許されざる蛮行に走った。この行為をたいてい許すことはできないだろう。かの国には我が国から逃亡した全国民の移送を要求し、これを受託しない場合には我が国は武力を持って貴国らを破壊するだろう。全国民の発見から逮捕までの期限として5年の期限を与える。なお、この期限を過ぎても移送が完全に行われない場合には我が国は事前の通知をなしに侵攻を開始する」との表明を受けバルカン大同盟では全地域で世界で二度目の再軍備が行われ、どの国から見ても5年という期間は戦争までの猶予であるほかないとみていた。その間で民主連合はバルカン半島への経済、軍事支援として全面支援を行い、ソ連やモンゴルでは中東や北欧にまで影響力を高めることになった。

 そのように各地で対独墺帝国包囲網が形成されていく中で1946年5月、トルコにて大きな事件があった。それはアンカラから始まった大規模なクーデターである。多くの兵がオスマン帝国時代を経験し一瞬であっても戦勝国として国民から賞賛を受けた彼らを扇動した人物がいた。彼の名は「エルター・ヴァイス」彼は各地のトルコ軍に独墺帝国のようにもう一度大帝国に返り咲くべきだと声を上げトルコの首相官邸を包囲し、軍事独裁体制を確立した。この時幸運にもイスマイル・デミルバシュはアメリカ訪問中であり、アメリカに安全を保障されることとなった。彼は保護された建物の中でアメリカ大統領「トーマス・R・ケンドリック」と会談し、これをしたのが独墺帝国軍であること、そしてこれはバルカン大同盟を完全に包囲し民間人含め誰一人として逃がさないつもりであることを共有し、直ちに対策を立てるべく話し合いが始まった。しかし、その状態を崩すあたらな勢力が出現した。それはソ連である。彼らはトルコの軍事独裁を玉砕するために突如侵攻を開始した。表面上は軍部の独裁政府の破壊であるが彼らは中東への勢力圏の足掛かりにしようと攻撃を開始したのだ。ソ連将校らは「ここを侵攻することで独墺と戦うことになるのではないか」と心配しているが中東戦線将軍「アレクセイ・ヴォロノフ」は少し強めな口調で不安がる将校らを一喝した。「独墺帝国など所詮は少数民族を圧制にしかないと抑えられないほどの国だ。であればもし侵攻してきたとしてもきっとそれは民主主義者とも戦争に発展することを意味し、自国の崩壊を進めるだけであろう。ならば奴らはこんな辺境なんかでその寿命を縮めることはない」そういうと周りの将校は小さく納得の声を上げ各地の再度展開し始めた。

 そして本格的に始まった露土戦争ではかつての戦勝国であるトルコ軍と敗戦し軍縮を受けたソ連軍がぶつかることになり、独墺帝国はトルコに対し経済支援や将校の覇権を進め、戦局は大きく変化することがないまま一年が経過した。そして1947年7月、突如としてトルコの東から軍事侵攻が発生した。そう、「イラク」が攻撃を開始したのである。さらにイラク軍はトルコ軍の側面を突くように騎兵を用いた新党戦術を駆使し一部軍をソ連と共同で包囲する形になった。これを受けトルコ軍は多くの舞台が混乱状態になり、その混乱に乗じ独墺帝国軍将校がソ連軍に2名、イラク軍に1名の攻撃を受け戦死する事態になった。これを受け、エルター・ヴァイスはアンカラにて地図を見ながら少し頭を悩ませることになり、「イラクがトルコに攻撃する理由はなんだ...イラクはすでに共産主義に堕ちていたか?いや、そんなわけない。なら何が起きている...?」独り言を話ながらも一度体勢を立て直すように各地に指示を出した。しかし、前線では降伏や脱走が絶えず起こっており仮に立て直しても維持だけで精一杯であることはエルター地震でも把握していた。そんな中本国より無線が来ていた。エルターは少し手が震えながら無線を手に取り魚等を確認する。「ヴァイス将軍、現状はどうなっている?イラクが宣戦布告したということだが」無線の相手はラーガ総統であった。「総統閣下。申し訳ありません。こちらの不手際でこの戦争は厳しく...」言葉を続けようとしたところでラーガが遮って話した。「その戦争はこちらの敗北だな。其方にはその場で死んでもらっては困る。直ちに本国へ帰還しろ。トルコが敗北するのは屈辱だがいずれ取り戻す機会も生まれるだろう」そういうとエルターは返事を一言返した後、その翌日に飛行機でトルコを脱出した。その後、一部残った独墺帝国将校とトルコ軍は抵抗を続けるも4か月後の1947年11月トルコ軍事政権は降伏しイスマイル・デミルバシュが帰国することで再度「トルコ共和国」の建国が決定した。またこれに関与したソ連は表面上に軍事政権の玉砕としていたため大きく勢力を伸ばすことができず、国会から地中海の海峡の権利を手に入れることのみにとどまることになった。

 ソ土戦争が始まった1か月後イラク首都「バグダード」にてアメリカ諜報機関「CIA」とイラク政府が接触していた。お互い軽くあいさつした後CIAが少し食い気味に今回の要件について話し始めた。「今回ソヴィエト連邦がトルコに侵攻する際に掲げた軍部独裁の玉砕について依頼があってまいりました。」その言葉にイラク政府は少し顔を固くしてゆっくり話し始めた。「あなた方を迎い入れた時点でその話であることは把握していました。そしてその次に参戦してほしいということも。しかし、私たちはあなた方と協力することはできません。あなた方とは昔からの因縁があるだけでなくいまだに大部分の石油資本はイギリスが保持しています。もしその状況で協力すれば国民から見た時に売国奴としか映らないでしょう。」そう言い切るとイラク政府はCIAに帰るように諭し始めた。しかし、CIAもそう言われることを待っていたかのように対応した。「確かにイラク政府側の言うとおりに我々とは大きな亀裂があります。しかし、この提案をしたのはトルコ政府なのです」その言葉にイラク政府は一瞬驚くように体を震わせた。そして続けるように「この話は単に民主連合、共産主義、独墺帝国の冷戦ではなくなります。おそらくトルコがどちらかに支配されればその影響は次に中東全域に広がります。彼らはオスマン帝国や軍部玉砕を掲げていますがおそらくは中東進出への足掛かりを探しているのだと我々は踏んでいるのです。それはトルコ首相イスマイル・デミルバシュ氏も同様でした。そのため我々は民主連合での会談によってトルコ主導の新陣営を結成し、その際にイラク、イラン、アフガニスタン、元中東植民地が加入した際には全利権を放棄することにしました。」その話を聞くとイラク政府は顎に手を当て少し悩んだ後、少し頷いて話し始めた。「我々としてはアメリカなどに協力することは売国奴であるという認識は変わりません。しかし、共産主義と独墺帝国の勢力圏の拡大に巻き込まれるのは到底容認できない。さらにデミルバシュ氏の言っていることとあなた方の言う内容が真実ならばトルコ主導の陣営によって利権を取り戻したという建前を作ることができるでしょう。あなた方を信じましょう。しかし、この話を白紙した際にはこちらもそれ相応の対応を取ります。それでよろしいですね?」その言葉にCIAは頭を下げて一言感謝を述べた。そして1947年7月イラク軍はトルコに侵攻し前線では「トルコを返せ!」という声がイラク軍から高らかに響くことになった。そのように各地の勢力が混じって起きたソ土戦争はトルコの民主主義の復活とトルコ主導の新陣営「中東安定圏」の構築により終結した。これを受けてソ連は実質的な敗北だけにとどまらず中東進出が民主主義陣営に対する侵攻ということになり、ソ連上層部は南下政策を一時断念することになった。

 そして中東での戦争が終結してから数か月後の1948年5月、東アジアでも大きな動きがあった。日本総選挙によってついに黒田正義率いる民主党が勝利したのである。これを受け、日本は未完成ながらも民主主義に向けた政策が実施されることになり、さらに満州国に対してもあらゆる政策転換を始めた。これに満州国は強く反発し実質的な独立状態だけでなく朝鮮半島に軍を派遣し大陸支配を狙う動きになった。満州国の対応に日本政府は直ちに朝鮮総督府に国家非常事態を公表させ、民間人の避難や旧大日本帝国軍(新日本軍)が派遣され傀儡国家の軍と民主主義に変わった新国家の対立が始まった。さらに日華共和国では各地での共産主義クーデターの対応をしていく中で数が増えていることで次第に第二次国共戦争が近づいていることを実感することになった。


to be continued...

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