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The Best Youth 〜君と一緒に〜  作者: ダークキング


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30/33

バレンタイン、交差する恋心

「おはよう」

「お、おはよう」

みょうあわてた様子の直美。

「どうしたんだ?」

「え?」

「なんかあわてて準備してきた感じだけど、寝坊でもしたのか?」

「そ、そんなことないよ」

「ならいいけどさ」

三学期が始まって一ヶ月ちょっと。今日は二月十四日。世間はバレンタインデーで騒いでいるが、俺にはあまり関係のない話だ。

「光ちゃん?」

「どうした?」

「携帯鳴ってる」

「あ」

どうやらメールが来ていたらしい。学校に着く前に気付けてよかった。

――今日寝坊したから先に行ってて。 麻衣子


――了解。遅刻するなよ。      光司

「誰から?」

「麻衣子。寝坊したらしい」

「大変だね」

「遅刻しなきゃいいけどな」

「そうだね」

――ピロン

「またか」

「みたいだね」

――寝坊しちゃったから先に行ってて 成美


――OK。遅刻するなよ。      光司

「成美も寝坊だってさ」

「二人とも!?」

「みたいだな」

「珍しいね」

「確かにな」

「でも……しょうがないかもね」

「なんでだ?」

「……ちょっと考えれば分かると思うよ?」

「だいたい見当けんとうついた」

「ならいいや」

直美の言いたいことはすぐに分かった。どうせチョコでも作って夜更よふかししてたんだろう。

……とはいえ、それで寝坊するのはどうかと思うけどな。

「はぁ……はぁ……」

「ギ、ギリギリ……」

「せ、セーフ……」

二人とも、始業ギリギリで教室にすべり込んできた。息は完全に上がっている。

「間に合ったな」

「う、うん……」

「な、なんとか……」

「夜遅くまで起きてたのか?」

「ちょっとね……」

「いろいろあってさ……」

「まぁ、理由は聞かないけどな」

「そろそろ先生来るよ」

「そ、そうだね」

「席つかないと……」

なんにせよ、二人とも間に合ってよかった。


「光司君」

「何だ?」

放課後、帰ろうとしたところで麻衣子に呼び止められた。

「ちょっと屋上に来てくれない?」

「屋上?別にいいけど」

「ありがと」

こんな寒い日に屋上とは珍しい。少し首をかしげながらも、俺は麻衣子の後を追った。

「……直美」

「え? 沙樹?」

一方その頃、教室を出たところで、直美が沙樹に声をかけられていた。

「田辺君へのチョコ、渡しそびれたって感じね」

「う、うん……」

図星ずぼしだったようだ。言葉にまる直美に、沙樹は少しだけ意味深いみしんに続ける。

「麻衣子に連れて行かれたってことは、あの子も渡すつもりなんじゃない?」

「でも、友達だし……普通に渡すだけかもしれないよ?」

「ただ渡すだけで屋上は使わないでしょ?」

「それは……」

「直美も気づいてるんじゃない?」

「え?」

「麻衣子が告白するかもしれないってこと」

核心かくしんを突かれ、直美は言葉を失った。

「……直美が後悔こうかいしない選択をすればいいと思うよ」

「う、うん、ありがとう……」

それだけ言うと、沙樹は部活へ向かっていった。

その頃、俺は麻衣子と屋上に来ていた。

「で、用って何だ?」

「ちょっと待ってね」

そう言った直後、

「成美」

「え?」

物陰ものかげから成美が姿を現した。

「光司、今日が何の日か分かる?」

「バレンタインデーだろ?」

「そう」

「それでね……チョコ、持ってきたの。もらってくれる?」

「私のも、受け取ってくれる?」

「あ、ああ。俺でいいなら」

二人は顔を見合わせ、小さく息を吸った。

「光司じゃないとダメなの」

「私も……光司君じゃないと意味がないの」

俺は全く理解が追いつかない。

「どういうことだ?」

一瞬の沈黙ちんもく

そして――

「私、光司君のことが好きなの」

「私も、光司のことが好き」

「……え?」

全く予想していなかった展開。

「これ、初めての本命チョコ」

「私も、人生で初めての本命」

「受け取って」

「お願い」

まっすぐな視線が突き刺さる。

言葉が出なかった。

「……急すぎて、すぐには答えが出せない」

ようやく絞り出した言葉だった。

「分かってる」

「そんな簡単に決められないことも」

「ちゃんと考えてから、返事してほしい」

「ああ……ありがとう。少し時間をくれ」

「うん」

「待ってる」

二人はそれだけ言うと、静かに屋上を後にした。

「まさか、二人から本命チョコ貰うとわな……」

二人のためにも、しっかり考えて答えを出そう。

屋上からの階段を下りたところで、

「光ちゃん」

「……直美」

振り返ると、直美が立っていた。

「チョコ、もらったんだね」

「ああ……」

俺の手には二つの紙袋。

「麻衣子と成美?」

「当たり」

「……何か言われた?」

心配そうに聞く直美。

「告白された」

「えっ……!」

目を見開く直美。

「俺もびっくりしたよ」

「それで……返事は?」

「少し考えさせてくれって言った」

「……そっか」

ほんの一瞬、表情が曇った気がした。

「とりあえず帰ろうぜ」

「うん……」

二人で並んで歩き出す。

いつもと同じ帰り道。

でも、どこか空気が違っていた。

――そして。

その日、直美からチョコをもらうことはなかった。

⸻「ただいま」

「お帰り」

家に入ると、すぐに可織が顔を出した。

俺の手にある紙袋に気づき、

「それ……チョコレート?」

「ああ。麻衣子と成美から」

「そ、そうなんだ。義理チョコ?」

一瞬、言葉に詰まる。

「……いや。本命」

「え?」

「二人ともに告白された」

「え……?」

可織の表情が固まる。

「まだ返事はしてないけどな」

「そ、そうなんだ……」

少しだけ視線を落とした可織。

「まぁ、ゆっくり考えるよ」

「……そういえば、直美さんからは?」

「ああ……今年は無いみたいだな」

「そうなんだ……はい」

可織が紙袋を差し出す。

「え?」

「チョコレート。いらないならあげないけど?」

少し照れているようにも見えた。

「いや、もらうよ。サンキュー」

「余りものだから小さいけどね」

「十分だよ」

そう言いながらも、心のどこかが引っかかっていた。

(直美がくれなかった……?)

これまで一度もなかったことだ。

 ――もしかして。

(好きなやつ、できたのか……?)

「お兄ちゃん!」

部屋でそんなことを考えていると、階下かいかから可織の声が飛ぶ。

「どうした?」

由里ゆりお姉ちゃんと由佳ゆかお姉ちゃんが来てる!」

「分かった、今行く」

下に降りると、2人が玄関げんかんにいた。

「ヤッホー!」

「どうしたの?」

「どうしたの、じゃないでしょ?」

「そうそう」

「ああ、チョコか」

「正解」

「はい、どうぞ」

「ありがと」

受け取りながら、ふと二人の視線に気づく。

「……光司、どうしたの?」

「え?」

「なんか元気ないよ」

「まぁ……ちょっとな」

二人は顔を見合わせ、小さく頷いた。

「可織ちゃん、ちょっとお邪魔していい?」

「え? う、うん……」

「光司、ちょっと来なさい」

「は?」

「いいから」

「いや、ここ俺の家――」

「気にしないの」

「大事な話だから」

そのまま半ば強引に自分の部屋へ連れていかれた。

「いい? これから言うこと、全部本気だからね」

「聞いてどうするかは光司次第」

「あ、ああ……」

二人とも真剣な表情。

「今日、学校で何があったか知ってる」

「え?」

なんで二人がそんなことを……。

「仕事の帰りに直美に会ったの」

「……」

嫌な予感がした。

「すごく落ち込んでたよ」

「光司が告白されたって聞いてね」

「……」

「光司がモテるのは分かる。優しいし、気もくし」

「でもね――」

一瞬、空気が張り詰める。

「なんで、それを直美に言ったの?」

「え?」

「なんで、わざわざ正直に言ったの?」

なんでと言われても……。

「聞かれたから、普通に答えただけだ」

「それがダメなの!」

強い口調に、思わず言葉を失う。

「……え?」

「好きな子に、そんなことそのまま言う?」

「……」

胸の奥がざわつく。

「これ以上は言わない」

「自分で考えなさい」

「でも――」

「でももへちまもない!」

ぴしゃりと言い切られる。

「後は自分で決めなさい」

「後悔しないようにね」

「どんな答えでも、私たちは味方だから」

「きっと可織ちゃんもね」

「あ、ああ……」

「それじゃあね」

「またね」

二人はそれだけ言い残して帰っていった。

静まり返った部屋。

さっきの言葉が頭の中で何度も繰り返される。

(なんで……ダメなんだ?)

聞かれたから、正直に答えただけだ。

それの、何が悪い。

――でも。

(……好きな子に、そんなこと言うか、か……)

その一言だけが、みょうに引っかかっていた。

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