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The Best Youth 〜君と一緒に〜  作者: ダークキング


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2/22

日常が動き出した日

「おはよう、お兄ちゃん」

翌朝。リビングに行くと、可織がやけにご機嫌だった。

――そういえば、今日は入学式か。

「可織も、いよいよ高校生だな」

「そうだよ。今日からついに高校生!」

声のトーンが一段高い。

「なんか、嬉しそうだな」

「だって、桜高校さくらこうこうの制服可愛いもん。ずっと着たいって思ってたの」

なるほど。決め手はそこか。

兄妹で同じ高校に通うっていうのも、なんだか少し気恥ずかしい。

「入学式は十時からだから、九時に着けば大丈夫だな」

「うん。一緒に行けるのは明日からだね」

「……一緒に?」

完全に想定外だった。

「ダメなの? 私も直美さんと一緒に行きたい」

なるほど、そっちが本命か。

「別にいいけど……兄妹で登校って、この歳だとちょっと恥ずかしくないか?」

「二人きりじゃないんだから、別にいいでしょ?」

あっさりしたものだ。

まぁ、ずっと続くわけでもないだろうし――

「分かった。今日、直美に言っとくよ」

「ありがとう。……っていうか、お兄ちゃんそろそろ行かないとまずいんじゃない?」

時計を見ると、すでに八時を少し回っていた。

「やば。じゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

「遅刻すんなよ」

「分かってる」

「光ちゃん、おはよう」

「お、直美。おはよう」

通学路を歩いていると、すぐに直美と合流した。家が近いのもあって、ほぼ毎朝このパターンだ。

「なんか考え事してた?」

相変わらず鋭い。

「いや、大したことじゃないよ。可織が今日入学式だなって思ってただけ」

「そっか。可織ちゃんも、もう高校生かぁ」

「早いよな」

自分でも驚くくらい、すんなり言葉が出た。

「私たちと一歳しか変わらないんだから、“早い”ってほどでもないと思うけど?」

すかさずツッコミが入る。

「いや、なんていうかさ。ついこの前中学生になった気がするのに、もう高校生って考えると……な」

「ふふ。それだけ可織ちゃんのこと、ちゃんと見てるってことじゃない?」

「別に、そんなんじゃねぇよ」

思わず否定する。

でもまぁ、可織が可愛い妹なのは事実だ。

「兄妹で同じ学校って、ちょっと不思議な感じするよな」

「そう? 仲良しって感じでいいと思うけど」

「そういうもんかね」

軽く肩をすくめる。

そんな話をしながら、俺たちはいつものように学校へ向かった。

今日から、少しだけ賑やかになる気がした。


「今日の入学式で新入生が入ってきた。お前たちもこれからは先輩だ。部活をしていない者には実感がないかもしれないが、後輩は日頃のお前たちの姿を見ている。関わりがなくても、“先輩としての風格”を持つように。……明日は委員を決めるから、各自考えておけ。以上だ」

風格って、どうやって出すんだよ。

心の中でツッコミを入れつつ、今日も無事に終わったことに安堵あんどする。

「光ちゃん、今日はおばさん来てるの?」

「母さん? たぶん来てないな。可織も“別に来なくていい”って言ってたし」

うちは共働きだ。昔から授業参観や行事に両親が来ることは少なかった。

でも、それを寂しいと思ったことはあまりない。

「そっか。じゃあ今日は、可織ちゃんと一緒に帰るの?」

来たな。

「なんで高校生にもなって、妹と一緒に帰らなきゃいけないんだよ」

「えー、別にいいじゃん。照れてるの?」

「照れてねえよ」

――いや、ほんとに。

高校生で兄妹下校とか、周りからどう見られるか考えろって話だ。

シスコン認定は、全力で回避したい。

「光司!」

そのとき、教室の外から声が飛んできた。

救世主、登場。

「お、どうした信夫」

俺はすぐに教室を出る。

「新入生、見に行こうぜ」

……撤回。内容が最悪だ。

「お前、それ誰がいるか分かって言ってるのか?」

「え……あ、そうか」

完全に忘れてやがったな。

「まぁ、“一年二組には近づかない”って条件付きならな」

言うまでもなく、可織対策だ。

「あー、二組か。そうだったな」

「ああ。二組は完全スルーな」

「了解。じゃないと光司、後で死ぬもんな」

「分かってるならいい」

もし可織にバレたら――あとが怖い。

「そういや、光司は委員何にするんだ?」

信夫のクラスでも委員決めは明日のようだ。まぁ、どのクラスも明日決めることになると思うが。

「まだ決めてねえよ。一年の時は保健委員だったから、今年も保健委員でもいいけどさ」

「確か坂本さんと同じ保健委員だったよな」

「ああ。それがどうかしたのか?」

「今年も同じようになるのかもなって思ってさ」

信夫の言うことはちょくちょく当たる。でもこれは当たっても外れてもどっちでもいい内容だ。

「同じになったらなったときさ」

「付き合ってるようで付き合ってねえから、お前たち二人は不思議だわ」

珍しくってこともないが、信夫はたまに意味深なことを聞いてくる。直美とは幼馴染ってだけでそれ以上でもそれ以下でもない。

「幼馴染なんだから、仲良いのは普通じゃねえのか?」

「それは俺にも分からねえ。これが普通なのか、普通じゃないのかなんて」

「そっか」

まぁ、はたから見れば付き合っているように見えるのかもしれない。しかし、別に俺も直美もその関係を持とうとしていないんだから、今のままでいいと思ってる。

「よし、じゃあ一年の教室に行くか」

「ああ」

そう言って一階に降りた、その瞬間。

「光ちゃん!」

聞き慣れた声に呼び止められた。

「な、なんだ直美?」

「そんなに急いでどこ行くの?」

――やばい。

どうやら信夫との会話は聞かれていなかったらしい。

逆に言えば、ここでの言い訳を間違えれば一発アウトだ。

「あー……えっと」

「今日はちょっと、俺の用事に付き合ってもらうんだよ」

信夫が自然にフォローを入れる。

ナイス、と言いたいところだったが

「用事って?」

相手が直美なのを忘れている。

「ちょっとした相談と、ゲーセン」

「ふーん……」

その“ふーん”は危険なやつだ。

「光ちゃん、今日は可織ちゃんの入学祝い、してあげなくていいの?」

――詰んだか?いや、まだだ!

「帰ってからでもいいだろ?」

「せっかく午前中で終わるんだし、みんなでお祝いしようと思ってたんだけどなぁ」

完全に外堀を埋められた。

信夫の方を見ると、「無理だなこれ」という顔をしていた。

「光司、今日はそっち優先しようぜ」

「……だな」

こうなったらもう抗えない。

「じゃあ決まり。みんなでファミレス行こ」

「待ち合わせは?」

「校門」

こうして俺たちは、可織たちと合流するため校門へ向かった。

まぁ、変なことしてるのがバレるよりはマシか。

校門で待っていると――

「直美さーん!」

可織が手を振りながら駆け寄ってきた。

「可織ちゃん、入学おめでとう」

「ありがとうございます!」

その隣には、見慣れない女子。

「可織、その子は?」

「この子、七海ななみ。中学からの友達だよ。……って、前に家来たことあるけど覚えてない?」

「……ごめん、あんまり記憶にない」

「お兄ちゃん、去年はバイトでほとんど家いなかったもんね」

もう辞めたけど。

「は、はじめまして。山本七海やまもとななみです。よろしくお願いします」

丁寧すぎるお辞儀。

めちゃくちゃいい子だな。

自己紹介を終えたところで

「……何の集まり?」

新たな声が割り込んできた。

全員がそちらを見る。

沙樹さき!」

彼女は芦田沙樹あしださき。小学校からの付き合いで、陸上部のエース的存在だ。

「高橋君以外、久しぶりだね」

「沙樹、何組?」

「四組」

「あー……なるほど」

信夫と同じクラスか。

「今日は部活ないの?」

「新入生の対応だけ。あとは自主練。たまには休息も必要だから自主練は休みにしたの」

なるほど、それでここにいるのか。

「初めまして、山本七海です」

「芦田沙樹です。よろしくね」

再び、丁寧なお辞儀。

やっぱり礼儀正しいな、この子。

「これからファミレス行くけど、沙樹も来る?」

「いいね、時間あるし行こうかな」

即答だった。

こうして俺たちは、六人というちょっとした大所帯おおじょたいでファミレスへ向かった。

入学祝いという名目ではあるけど、

きっと今日は、それ以上に賑やかな一日になる。

「みんなでこうやって外食するの、久しぶりだね」

直美がふと呟いた。

言われてみれば、最後にいつ行ったのか思い出せない。

「四人そろう日なんて、年に数回あるかどうかだったよね」

「……一年ぶりくらいか?」

適当に言ってみる。

「うん、夏休みが最後だから、だいたいそれくらいだね」

即答だった。相変わらず記憶力がおかしい。

「合宿終わりで、次の日がオフだったときだよね」

沙樹まで覚えている。

俺以外覚えてるやつかこれ?と思ったが、信夫は。

「もうそんな前なんだな」

覚えてなかった。さすが我が友。

「そういえば、可織ちゃんと七海ちゃんって、いつから友達なの?」

直美が話題を変える。

言われてみれば、俺もちゃんとは知らない。

「仲良くなったのは中三からです。修学旅行で同じ班になって」

「転校してきたのは中二のときなんですけど、そのときはあまり話してなくて」

なるほど、そういう経緯か。

「転校生なんだ」

「はい。父が転勤族で……」

そこから七海ちゃんの話が続く。

そして。

「今は、一人暮らししてます」

「え?」

全員の声が揃った。

「高校生で一人暮らし!?」

「家事は元々好きなので、大丈夫です」

七海は照れたように笑った。

さらっと言うが、普通にすごい。

可織とは大違いだな。

(これは口に出したら確実に殺されるやつ)

「そういや、明日委員決めだよな」

信夫が話題を変える。

「みんな決めてる?」

「私はまだかな」

「私も」

直美と沙樹は未定らしい。

「先輩たちは何の委員だったんですか?」

可織が食いつく。

「俺と直美は保健委員」

「私は体育委員」

「俺は文化委員」

「どれが楽ですか?」

完全にスイッチ入ってるな。

「文化委員は普段楽だけど、文化祭で死ぬ」

「体育委員は体育祭以外は楽」

「保健委員は基本平和」

「じゃあ、体育か保健かな」

即判断。

「私は体育やるから、七海は保健にする?」

「いいの?」

「私、運動嫌いじゃないし」

「じゃあ私は保健にするね」

ここまでは一年組の話。

で、ふと思った。

「なぁ、俺らも今決めとくか?」

すると信夫がすぐに乗る。

「光司と坂本さんは、今年も保健でいいんじゃないか?」

「ああ、それでいい」

「私も問題ないよ」

即決だった。

「じゃあ、私と高橋君は体育で」

「流れ的にそうなるよな」

こちらも決まり。

「経験者いるし安心でしょ?」

沙樹が笑う。

たしかに、それはでかい。

「これなら可織たちにも教えられるし、ちょうどいいな」

「お願いします!」

可織が嬉しそうに頷いた。

気づけば夕方。

たわいない会話だけで、時間はあっという間に過ぎていた。

――こういう時間も、悪くない。

そう思いながら、俺たちはそれぞれの帰路についた。

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