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The Best Youth 〜君と一緒に〜  作者: ダークキング


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奇跡の十二年

なんでもない高校生活が始まって一年。

このまま何事もなく、残りの二年間も過ぎていく――そう思っていた。あの日を迎えるまでは。


「お兄ちゃん、明日は私の入学式なんだから、ちゃんと準備してきてね」

「分かってるよ。じゃあ、行ってくる」

俺の名前は田辺光司たなべこうじ。桜高校に通う二年生だ。

家族は父さんと母さん、それに妹の可織かおり。可織も明日から同じ桜高校に入学する。

今日は始業式。学年が一つ上がり、俺も一応“先輩”という立場になる。

もっとも、部活をやっていない俺にとっては、後輩と関わる機会なんてほとんどないだろうけど。

「おはよう」

声をかけてきたのは坂本直美さかもとなおみ。幼稚園の頃からずっと一緒の、いわゆる幼馴染だ。

成績優秀で運動もできる、いわば完璧人間。

「おはよう。いよいよ二年生だな」

「普通に生活してれば進級するんだから、当たり前でしょ」

正論すぎて何も言い返せない。

「明日からは可織ちゃんが入学してくるんだから、ちゃんとしないとダメだよ」

「ああ。兄って大変だな」

「たいして何もしてないでしょ?」

さすが幼馴染。ツッコミが的確すぎる。

「いや、何もしてないってことはないぞ」

「じゃあ何してるの?」

「日々勉学に励み、家では運動に励んでいる」

我ながら苦しい言い訳だ。

「勉強してるわりにテストの点数は良くないし、運動してるわりにはすぐ息上がってるよね?」

……痛いところを突かれた。

「運動は嘘だけど、勉強はそれなりにしてるぞ」

「もうちょっと頑張れば、いい点取れると思うけど?」

確かに、テスト勉強は二、三日前からしかやっていない。

「ちゃんと勉強しておかないと、可織ちゃんにテストの点数負けるわよ」

妹の可織は、何かと兄の俺と張り合ってくる。もちろんテストも例外じゃない。

「やっぱ兄って大変だなぁ」

「真面目に授業受けてれば、こうちゃんもいい点とれると思うよ」

――その呼び方、そろそろやめてほしいんだけどなぁ。

本人いわく「今さら変えられない」らしい。

「まぁ、新学期だし、今日から頑張ってみるよ」

「ホームルームとか、先生の話もちゃんと聞かないとダメだからね」

抜け目なくダメ出しが飛んでくる。

「分かってるって。とりあえず、今日から頑張るよ」

何日続くかは分からないけど。

「新しいクラスになるけど、また一緒だったらいいね」

直美のその一言で思い出す。二年になるからクラス替えがある。小一からずっと同じクラス――つまり十年連続。そろそろ違うクラスになってもおかしくはない。

「ここまできたら、十二年連続までいきたいと思わない?」

「それ、もはや奇跡だろ」

十年でも十分奇跡なのに、それ以上を望むのか?

「十年でも奇跡だと思うけど?」

――それも、確かにそうだ。

「クラス替えの掲示は……あそこか」

「多分そうだね。今年も同じクラスだといいなぁ」

奇跡なんて、そう何度も続くものじゃない。――そう思っていた。

「私、三組だ!」

「えーっと、俺は……三組?」

どうやら奇跡は、続くときはとことん続くらしい。

「これで十一年連続か」

「十二年連続だよ?」

そうだった。

この学校は二年から三年に上がるとき、クラス替えがない。

つまり――

十二年連続、同じクラスが確定した。

「担任の先生も去年と同じだね」

担任まで一緒か……。

「また山下かぁ。あいつ苦手なんだよな」

山下和也やましたかずや。社会科担当で、とにかく話が長い。

「それは光ちゃんがちゃんと話を聞いてないからでしょ」

「いや、あの先生の話、長いし退屈なんだって」

クラスの大多数の意見を代表して言ってみる。

「だからって聞かないのはダメだよ」

正論すぎて、反論の余地もない。

「……これからは気をつけるよ」

そう言うしかなかった。

「ちゃんと聞いてないと、可織ちゃんに報告するからね?」

いたずらっぽく笑う直美。

それはまずい。本気でまずい。

「ちょ、それマジでシャレにならないからやめてくれ」

「ふふ、早く教室行こ」

――こうして俺の安息の地は、完全に消えたのだった。

「よう、光司」

下駄箱で、聞き慣れた声がした。

「お、信夫のぶおじゃねえか」

高橋信夫たかはしのぶお。小学校からの親友だ。

「おはよう、高橋君」

「あ、坂本さん。おはよう」

「悪い直美、先に教室行っててくれ」

「うん、分かった」

直美は軽く手を振って、教室へ向かっていった。

「で、お前何組になった?」

「俺、三組」

「あちゃ~、マジか。俺四組」

どうやら信夫とは別クラスらしい。

思い返せば、同じクラスになったのは数えるほどしかない。

これが普通なのだろう。

――それに比べて、直美との十二年連続はやっぱりおかしい。

「まぁ、隣のクラスならいつでも会えるだろ」

「だな。今までもずっと同じってわけじゃなかったし」

うちの学校は、八時三十五分までに教室に入らないといけない。時計はもう八時半を指していた。

「じゃ、またあとでな」

「おう、またな」

俺たちはそれぞれ、自分の教室へと向かった。


「今日は新学期初日だからこれで終わり。明日は入学式で新入生が入ってくる。お前たちも明日からは先輩だ。後輩の良い見本となるよう精進しろ。以上だ!」

新学期初日。

教室には、新しい顔と見慣れた顔が入り混じっている。クラス替え特有の光景だ。

今日は始業式と入学式の準備、それにホームルームだけ。大したことはしていないはずなのに――思った以上に疲れていた。

「ふぅ……やっと終わった」

思わず独り言が漏れる。

「今日はそんなに大したことしてないのに、もう疲れたの?」

当然のように拾ってくる直美。

「疲れたよ。久々だからかな」

「どうせ春休み、だらけた生活してたんでしょ?」

図星だ。

「まぁ……規則正しいとは言えなかったかもな」

「光ちゃん、長期休みはいつもそうだよね」

完全に見透かされている。

「気づいたらそうなってるんだよなぁ」

「休み終わる前には、ちゃんと朝起きるようにしないとダメだよ?」

「夏休みはそうしてみるよ」

――前日からで間に合うのかは、ちょっと怪しいけど。

「そういえば、今日は何も予定ないの?」

その一言で思い出した。

「あ……」

「どうしたの?」

「今日、可織の買い物に付き合う約束してたんだった」

「へぇ~。意外といいお兄ちゃんやってるんだね」

にやにやと、明らかにからかう気満々の顔。

「“意外と”は余計だろ。別に、今日だけじゃない」

実際、可織と出かけることはそこそこある。年頃のわりには、兄と一緒にいても嫌がらないタイプだ。

……まぁ、いつまで続くかは分からないけど。

「どうせ何かやらかしたんでしょ?」

こういうところは妙に鋭い。

「可織のお気に入りのカップ、割っちゃってさ。新しいの買うだけだよ」

事故とはいえ、俺が完全に悪い。弁償の意味も込めて一緒に買いに行くことになった。

「それは仕方ないね。がんばれ、お兄ちゃん」

わざとらしく“お兄ちゃん”を強調してくる。

……絶対楽しんでるだろ、これ。

「ありがとな。それじゃ、俺もう行くわ」

「うん。また明日」

直美に見送られ、俺は教室を出た。


「ただいま」

「あ、お兄ちゃんお帰り」

家に入ると、可織はすでに準備万端だった。

「……昼飯、食べてからでいいよな?」

「え? そりゃそうでしょ」

どうやら空腹のまま連れ出される心配はなさそうだ。

「可織、もう何か食べたのか?」

「まだだよ。私の分も作ってね」

準備万端だったから、てっきり済ませているのかと思ったが……。

「目玉焼きでいいか?」

「サラダ付きならいいよ」

相変わらず、食事には気を遣っている。

――兄としては、少し見習うべきかもしれない。


「さ、行こ。お兄ちゃん」

昼飯を済ませ、二人で家を出る。

「で、どこ行くんだ?」

「玉谷」

駅前のデパートだ。この辺では一番大きく、品揃えも人の多さも段違い。

「お兄ちゃんが割ったマグカップも、玉谷で買ったやつだし」

「それ、初耳なんだけど……」

「三年くらい前に買ったやつだよ」

そんなに前から使ってたのか。

「……悪かったな」

「別に」

短い返事。でも、少しだけ柔らかかった気がした。

玉谷に着くと、可織は一直線に食器売り場へ向かう。

昔から、目当てのもの以外はほとんど目に入らない。

そのせいか、無駄遣いはほとんどしない。

「これ可愛い」

「これもいいなぁ」

正直、俺には違いが分からない。

――もちろん、言わないけど。

「ねぇ、お兄ちゃん!」

呼ばれて振り向くと、両手にマグカップを持っていた。

「どっちがいいと思う?」

花柄とキャラクターもの。

……なかなか難しい二択だ。

「キャラクターは飽きるかもしれないし、花柄の方が無難じゃないか?」

思いついたことをそのまま言う。

「そっか。じゃあ、こっちにする」

あっさり決まった。

選ばれたのは花柄の方だった。

「はい、お願い」

渡されたマグカップを持って、俺はレジへ向かう。

会計を済ませて戻ると、可織は隣のゲームセンターを覗いていた。

たぶん、ぬいぐるみだろう。

……あいつの部屋、もう十分多いと思うんだけどな。

「可織、買ってきたぞ」

「ありがとう。今度は割らないでね」

お礼と同時に釘を刺される。

あのときは、ほんとに大騒ぎだったからな……。

「善処します」

不可抗力とはいえ、強くは出られない。

「じゃ、帰ろ」

さっきまで熱心に見ていたわりには、あっさりしている。

「ぬいぐるみ、いいのなかったのか?」

「今日は下見だけ」

「ゲーセンで下見ってあるのかよ……」

「次の楽しみがあった方がいいでしょ?」

あっさり言い切る。

――こういうところ、意外と大人びてるんだよな。

その後、俺たちは並んで家路についた。

新しいマグカップを大事そうに抱える可織を見て、

今度こそは絶対に割らないようにしようと、心の中で静かに誓った。

このときの俺は、これから始まる“特別な高校生活”なんて、まだ想像もしていなかった。

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