39話「帰還」
短い話ですが、これで第2章完となります。
第3章は予定では視点を変えてアイク、カレンを中心にする予定です。
リブラに戻ったのは、三日後のことだった。
ヤマトは、一人だった。
正門をくぐった瞬間、見慣れた校舎の輪郭が、やけに遠く感じられた。三日前まで、確かにここにいたはずなのに、まるで別の人間として帰ってきたような、そんな感覚があった。
「――ヤマト様!」
真っ先に駆け寄ってきたのは、ミヅキだった。肩の傷は、既に手当てを終えていたが、その顔には、隠しきれない心配の色が浮かんでいた。
「ご無事、で……」
言葉が、途中で止まった。ヤマトの背後に、誰もいないことに気づいたからだった。
「兄貴は」
レオンハルトが、静かに問うた。
ヤマトは、少しの間、答えなかった。何から話せばいいのか、この三日間、ずっと考え続けていたはずなのに、いざとなると、言葉が出てこなかった。
「妹は、見つかった」
ようやく、それだけを、絞り出すように言った。
「意識はない。生きてる。……だが、アイクは、連れて行った。俺たちのところじゃなく、自分のやり方で、守ると言って」
ミヅキが、息を呑んだ。
「では――」
「ああ」
ヤマトは、短く頷いた。
「俺達の道は、今、分かれてる。……戻るかも、分からない」
それ以上、詳しくは語らなかった。グラヴィスのこと、記憶を読んだこと、自分の剣がアイクの肩を掠めたこと――全部を話す気力は、まだなかった。
レオンハルトは、それ以上、何も聞かなかった。
ただ、静かに、ヤマトの肩に手を置いた。
「無理に、聞かない。……だが、何か力になれることがあれば、いつでも言え」
「感謝する」
ヤマトは、短く答えた。
その週のうちに、もう一つの決着がついた。
ドランの失踪と、その後の身柄拘束――龍還への内通、および学園内部での証拠隠滅工作の疑いで、正式に司法局へ引き渡されることが、生徒会を通じて公表された。
教頭の椅子は、既に空席になっていた。
「――随分と、あっさりした幕引きね」
生徒会室で、エルフリーデが、書類を整理しながら呟いた。
「あれだけの騒動を起こしておいて、最後は、こんなものか」
「妥当だと思います」
ヤマトは、静かに答えた。
「力で押さえつけようとした人間は、最後は、自分より大きな力に潰される。……それだけのことです」
「言うようになったわね」
エルフリーデは、ふっと、小さく笑った。
「それで、ゼラントス。改めて聞くわ。……生徒会に、正式に入る気は」
「はい」
ヤマトは、迷わず頷いた。
「入らせてください。……それと、もう一つ」
「何かしら」
「将来的に、ジャッジランカーを、正式に目指します」
その言葉に、エルフリーデは、僅かに目を見開いた。
「――理由を、聞いても?」
「システムの中に、力を持つ人間が必要だと、思ったからです」
ヤマトの瞳に、静かな決意が宿っていた。
「正しさだけじゃ、何も守れない。……正しさに、力を持たせる人間が、いる」
エルフリーデは、しばらくヤマトを見つめていたが、やがて、静かに頷いた。
「――良い目をしてる。少なくとも、今は」
「今は?」
「その目が、どこまで保つか。……それを、見せてもらうわ」
窓の外、夕暮れの帝都に、封律塔の影が、今日もまた、長く伸びていた。
ヤマトの戦いは、まだ、始まったばかりだった。
そして、その頃――北の空の下、アイクとカレンは、まだ、誰も知らない場所を歩き続けていた。
(第2章 完)
チマチマ上げていくか、期間を開けて一気にアップするかは現在悩み中です。




