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喋る遺体  作者: 瀧口G也
9/12

同じ声、同じ言葉②

記録を並べる。


 机の上に、証言調書が広がる。


 西條は、一本の線を引くように視線を動かす。


「……順番まで同じだな」


 小さく呟く。


 東は隣で資料を揃えている。


「何の話だ」


「言葉の出方」


 西條は一枚を指で叩く。


「“問題はありませんでした”のあとに、“声は普通でした”」


 別の紙を指す。


「こっちも同じ」


 さらに別。


「これも」


 東は紙を取り、目を通す。


 数秒。


 何も言わない。


 だが、戻す位置がわずかに遅い。


「……共通の表現だ」


 短く言う。


「便利な言葉だからな」


 西條は首を振る。


「便利、じゃ片付かないだろ」


 椅子に深く座る。


「間まで同じなんだよ」


「間?」


「質問してから答えるまでの“間”」


 西條は手で空中に時間を描く。


「全員、ほぼ同じ長さで考えて、同じ順番で言う」


 東は無言で聞いている。


「普通、バラけるだろ」


 西條は続ける。


「早いやつ、遅いやつ、言い直すやつ」


「だが今回は違う」


「違う」


 即答だった。


 西條は、紙を一枚めくる。


「これ、さ」


 軽く叩く。


「録音と照らすと、さらに変なんだよ」


 東の視線が動く。


「どういう意味だ」


「録音の中でも、“問題ない”って言ってる」


 西條はICレコーダーを持ち上げる。


「同じ言葉」


 再生する。


 ノイズのあと、声。


『問題ない』


 止める。


 静寂。


「同じだろ」


 西條が言う。


 東は何も言わない。


「トーンも、間も、ほぼ同じ」


 西條は続ける。


「証言と録音が“同じ型”になってる」


 東はレコーダーを見つめる。


 数秒。


「偶然だ」


 短く言う。


「……そうか?」


 西條は苦笑する。


「さすがに無理があるだろ」


 東は答えない。


 その沈黙が、少しだけ重くなる。


---


 再び現場に戻る。


 部屋は変わらない。


 整っている。


 何も起きていないように見える。


 西條は、テーブルの前で立ち止まる。


 レコーダー。


 ノートパソコン。


 同じ配置。


 昨日と同じ。


「……動いてないな」


「保全済みだ」


 東が言う。


 西條は頷く。


 だが、視線はレコーダーに固定されたまま。


 手を伸ばす。


 触れる。


 冷たい。


 ただの機械。


 それだけだ。


 再生する。


『問題ない』


 同じ声。


 同じ言葉。


 止める。


 西條は、ゆっくりと息を吐く。


「なあ」


「何だ」


「これさ」


 レコーダーを見たまま言う。


「録音、だよな」


「当然だ」


「だよな」


 西條は頷く。


 だが、続ける。


「でも、“会話”に聞こえないんだよ」


 東の視線が向く。


「どういう意味だ」


「キャッチボールがない」


 西條は言葉を探す。


「投げて、返ってきて、また投げる」


「普通はそうなる」


「でもこれ、一直線なんだよ」


 レコーダーを軽く叩く。


「流れてるだけ」


 東は黙る。


 否定しない。


 肯定もしない。


 西條は、もう一度再生する。


『問題ない』


 同じ。


 変わらない。


 揺れない。


 止める。


 静寂が落ちる。


「……おかしいだろ」


 小さく言う。


 東は、ゆっくりと答える。


「証拠を積み上げる」


 それだけだった。


 西條は苦笑する。


「だよな」


 正しい。


 それが正しい。


 だが。


 納得はしていない。


 レコーダーを置く。


 机の上に戻す。


 その位置は、ほとんど動いていない。


 最初から、そこにあったみたいに。


 西條は、部屋を見渡す。


 綺麗な部屋。


 乱れのない空間。


 何も起きていないような場所。


 ただ一つ。


 違うのは。


 人が死んでいること。


 それだけだ。


 それなのに。


 どこか、実感がない。


「……なあ」


 西條が言う。


「何だ」


「これ」


 少しだけ間を置く。


「最初から“出来てた”んじゃないか?」


 東は動かない。


 そのまま、聞いている。


「会話も、証言も」


 西條は続ける。


「全部、最初から揃ってたみたいな」


 沈黙。


 重い。


 長い。


 東は、ゆっくりと視線を上げる。


 そして。


「証明しろ」


 それだけを言う。


 西條は、小さく笑う。


「……だよな」


 分かっている。


 証明できなければ、意味がない。


 ただの思いつきだ。


 それでも。


 その違和感だけは、消えなかった。


 消えないまま。


 そこに残り続ける。


 同じ言葉と一緒に。


 同じ声と一緒に。

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