同じ声、同じ言葉②
記録を並べる。
机の上に、証言調書が広がる。
西條は、一本の線を引くように視線を動かす。
「……順番まで同じだな」
小さく呟く。
東は隣で資料を揃えている。
「何の話だ」
「言葉の出方」
西條は一枚を指で叩く。
「“問題はありませんでした”のあとに、“声は普通でした”」
別の紙を指す。
「こっちも同じ」
さらに別。
「これも」
東は紙を取り、目を通す。
数秒。
何も言わない。
だが、戻す位置がわずかに遅い。
「……共通の表現だ」
短く言う。
「便利な言葉だからな」
西條は首を振る。
「便利、じゃ片付かないだろ」
椅子に深く座る。
「間まで同じなんだよ」
「間?」
「質問してから答えるまでの“間”」
西條は手で空中に時間を描く。
「全員、ほぼ同じ長さで考えて、同じ順番で言う」
東は無言で聞いている。
「普通、バラけるだろ」
西條は続ける。
「早いやつ、遅いやつ、言い直すやつ」
「だが今回は違う」
「違う」
即答だった。
西條は、紙を一枚めくる。
「これ、さ」
軽く叩く。
「録音と照らすと、さらに変なんだよ」
東の視線が動く。
「どういう意味だ」
「録音の中でも、“問題ない”って言ってる」
西條はICレコーダーを持ち上げる。
「同じ言葉」
再生する。
ノイズのあと、声。
『問題ない』
止める。
静寂。
「同じだろ」
西條が言う。
東は何も言わない。
「トーンも、間も、ほぼ同じ」
西條は続ける。
「証言と録音が“同じ型”になってる」
東はレコーダーを見つめる。
数秒。
「偶然だ」
短く言う。
「……そうか?」
西條は苦笑する。
「さすがに無理があるだろ」
東は答えない。
その沈黙が、少しだけ重くなる。
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再び現場に戻る。
部屋は変わらない。
整っている。
何も起きていないように見える。
西條は、テーブルの前で立ち止まる。
レコーダー。
ノートパソコン。
同じ配置。
昨日と同じ。
「……動いてないな」
「保全済みだ」
東が言う。
西條は頷く。
だが、視線はレコーダーに固定されたまま。
手を伸ばす。
触れる。
冷たい。
ただの機械。
それだけだ。
再生する。
『問題ない』
同じ声。
同じ言葉。
止める。
西條は、ゆっくりと息を吐く。
「なあ」
「何だ」
「これさ」
レコーダーを見たまま言う。
「録音、だよな」
「当然だ」
「だよな」
西條は頷く。
だが、続ける。
「でも、“会話”に聞こえないんだよ」
東の視線が向く。
「どういう意味だ」
「キャッチボールがない」
西條は言葉を探す。
「投げて、返ってきて、また投げる」
「普通はそうなる」
「でもこれ、一直線なんだよ」
レコーダーを軽く叩く。
「流れてるだけ」
東は黙る。
否定しない。
肯定もしない。
西條は、もう一度再生する。
『問題ない』
同じ。
変わらない。
揺れない。
止める。
静寂が落ちる。
「……おかしいだろ」
小さく言う。
東は、ゆっくりと答える。
「証拠を積み上げる」
それだけだった。
西條は苦笑する。
「だよな」
正しい。
それが正しい。
だが。
納得はしていない。
レコーダーを置く。
机の上に戻す。
その位置は、ほとんど動いていない。
最初から、そこにあったみたいに。
西條は、部屋を見渡す。
綺麗な部屋。
乱れのない空間。
何も起きていないような場所。
ただ一つ。
違うのは。
人が死んでいること。
それだけだ。
それなのに。
どこか、実感がない。
「……なあ」
西條が言う。
「何だ」
「これ」
少しだけ間を置く。
「最初から“出来てた”んじゃないか?」
東は動かない。
そのまま、聞いている。
「会話も、証言も」
西條は続ける。
「全部、最初から揃ってたみたいな」
沈黙。
重い。
長い。
東は、ゆっくりと視線を上げる。
そして。
「証明しろ」
それだけを言う。
西條は、小さく笑う。
「……だよな」
分かっている。
証明できなければ、意味がない。
ただの思いつきだ。
それでも。
その違和感だけは、消えなかった。
消えないまま。
そこに残り続ける。
同じ言葉と一緒に。
同じ声と一緒に。




