同じ声、同じ言葉①
四人目は、編集担当だった。
年齢は三十代前半。
落ち着いた服装で、受け答えも丁寧だ。
「昨日の夜、被害者と連絡はありましたか」
東が聞く。
「はい、ありました」
即答だった。
「時間は」
「二十二時過ぎくらいです」
これまでと大きなズレはない。
「内容は」
「進行の確認です」
同じ言葉。
「問題は」
「ありませんでした」
やはり同じ。
西條はメモを取るふりをしながら、相手の表情を見る。
迷いがない。
考える間もない。
準備されたような返答。
「声はどうでしたか」
西條が聞く。
「普通でした」
言い切る。
「特に変わったところは?」
「ありません」
短い。
無駄がない。
揃っている。
「ありがとうございます」
東が言う。
それで終わる。
部屋を出る。
廊下に出た瞬間、空気が少しだけ軽くなる。
「四人目」
西條が言う。
「全部同じだな」
「証言は一致している」
東は淡々としている。
「いや、それは分かるけどさ」
西條は頭をかく。
「ここまで揃うと、逆に変じゃないか?」
東は立ち止まらない。
そのまま次の部屋へ向かう。
「変ではない」
短く言う。
「共通の事実があれば、証言は似る」
「“似る”と“同じ”は違うだろ」
西條は後ろから言う。
東は答えない。
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五人目は、制作進行の女性だった。
少し疲れた様子が見える。
「昨日、連絡はありましたか」
「はい」
声は小さいが、はっきりしている。
「時間は」
「二十二時半くらいです」
やはり範囲内。
「内容は」
「進行の確認です」
同じ。
西條は視線を落とす。
ペン先が紙の上で止まる。
「問題は」
「ありませんでした」
続く。
止まらない。
「声はどうでした?」
西條が顔を上げる。
女性は一瞬だけ目を伏せる。
考えているように見える。
だが。
「普通でした」
結局、同じ場所に戻る。
「いつも通りです」
付け足す。
同じ意味。
同じ温度。
「ありがとうございます」
東が言う。
女性は軽く頭を下げる。
それで終わる。
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廊下に出る。
西條は歩きながら、ぼそりと呟く。
「コピーみたいだな」
「何がだ」
東は前を見たまま言う。
「証言」
西條は続ける。
「同じ文章を、違う人が読んでるみたいだ」
東は止まらない。
「記憶が一致しているだけだ」
「そうかもな」
西條は頷く。
だが、違和感は消えない。
むしろ強くなる。
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六人目。
同じ会社の別部署。
やはり同じ話になる。
「連絡はありました」
「進行の確認です」
「問題はありません」
「声は普通でした」
流れるように出てくる。
迷いがない。
揺れがない。
言い直しもない。
整いすぎている。
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部屋を出る。
ドアが閉まる音が響く。
西條は立ち止まる。
廊下の真ん中。
動かない。
「……なあ」
「何だ」
東が振り返る。
「これさ」
西條はゆっくりと言う。
「誰かが“教えた”って可能性は?」
東は少しだけ考える。
「口裏合わせか」
「それにしては揃いすぎてる」
西條は首を振る。
「普通、もっとズレる」
「人は同じ言葉を使う」
「ここまでか?」
東は答えない。
沈黙が落ちる。
西條は続ける。
「“普通”」
「“問題ない”」
「“いつも通り”」
一つずつ、言葉を並べる。
「これ、全員同じタイミングで言ってる」
東の表情は変わらない。
だが、視線だけがわずかに動く。
「記録を確認する」
それだけ言う。
否定もしない。
肯定もしない。
西條は小さく笑う。
「まあ、そうだよな」
歩き出す。
だが、足取りは重い。
どこかに引っかかっている。
言葉にできない違和感。
形になりかけている何か。
まだ掴めない。
それでも。
確実に、そこにある。
西條は、ふと呟く。
「……これ」
言葉が続かない。
東は振り返らない。
そのまま前へ進む。
西條は、ゆっくりと続ける。
「人の記憶じゃない気がする」
小さな声だった。
誰にも聞こえない。
だが、その言葉だけが。
確かに残った。




