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喋る遺体  作者: 瀧口G也
8/8

同じ声、同じ言葉①

四人目は、編集担当だった。


 年齢は三十代前半。


 落ち着いた服装で、受け答えも丁寧だ。


「昨日の夜、被害者と連絡はありましたか」


 東が聞く。


「はい、ありました」


 即答だった。


「時間は」


「二十二時過ぎくらいです」


 これまでと大きなズレはない。


「内容は」


「進行の確認です」


 同じ言葉。


「問題は」


「ありませんでした」


 やはり同じ。


 西條はメモを取るふりをしながら、相手の表情を見る。


 迷いがない。


 考える間もない。


 準備されたような返答。


「声はどうでしたか」


 西條が聞く。


「普通でした」


 言い切る。


「特に変わったところは?」


「ありません」


 短い。


 無駄がない。


 揃っている。


「ありがとうございます」


 東が言う。


 それで終わる。


 部屋を出る。


 廊下に出た瞬間、空気が少しだけ軽くなる。


「四人目」


 西條が言う。


「全部同じだな」


「証言は一致している」


 東は淡々としている。


「いや、それは分かるけどさ」


 西條は頭をかく。


「ここまで揃うと、逆に変じゃないか?」


 東は立ち止まらない。


 そのまま次の部屋へ向かう。


「変ではない」


 短く言う。


「共通の事実があれば、証言は似る」


「“似る”と“同じ”は違うだろ」


 西條は後ろから言う。


 東は答えない。


---


 五人目は、制作進行の女性だった。


 少し疲れた様子が見える。


「昨日、連絡はありましたか」


「はい」


 声は小さいが、はっきりしている。


「時間は」


「二十二時半くらいです」


 やはり範囲内。


「内容は」


「進行の確認です」


 同じ。


 西條は視線を落とす。


 ペン先が紙の上で止まる。


「問題は」


「ありませんでした」


 続く。


 止まらない。


「声はどうでした?」


 西條が顔を上げる。


 女性は一瞬だけ目を伏せる。


 考えているように見える。


 だが。


「普通でした」


 結局、同じ場所に戻る。


「いつも通りです」


 付け足す。


 同じ意味。


 同じ温度。


「ありがとうございます」


 東が言う。


 女性は軽く頭を下げる。


 それで終わる。


---


 廊下に出る。


 西條は歩きながら、ぼそりと呟く。


「コピーみたいだな」


「何がだ」


 東は前を見たまま言う。


「証言」


 西條は続ける。


「同じ文章を、違う人が読んでるみたいだ」


 東は止まらない。


「記憶が一致しているだけだ」


「そうかもな」


 西條は頷く。


 だが、違和感は消えない。


 むしろ強くなる。


---


 六人目。


 同じ会社の別部署。


 やはり同じ話になる。


「連絡はありました」


「進行の確認です」


「問題はありません」


「声は普通でした」


 流れるように出てくる。


 迷いがない。


 揺れがない。


 言い直しもない。


 整いすぎている。


---


 部屋を出る。


 ドアが閉まる音が響く。


 西條は立ち止まる。


 廊下の真ん中。


 動かない。


「……なあ」


「何だ」


 東が振り返る。


「これさ」


 西條はゆっくりと言う。


「誰かが“教えた”って可能性は?」


 東は少しだけ考える。


「口裏合わせか」


「それにしては揃いすぎてる」


 西條は首を振る。


「普通、もっとズレる」


「人は同じ言葉を使う」


「ここまでか?」


 東は答えない。


 沈黙が落ちる。


 西條は続ける。


「“普通”」


「“問題ない”」


「“いつも通り”」


 一つずつ、言葉を並べる。


「これ、全員同じタイミングで言ってる」


 東の表情は変わらない。


 だが、視線だけがわずかに動く。


「記録を確認する」


 それだけ言う。


 否定もしない。


 肯定もしない。


 西條は小さく笑う。


「まあ、そうだよな」


 歩き出す。


 だが、足取りは重い。


 どこかに引っかかっている。


 言葉にできない違和感。


 形になりかけている何か。


 まだ掴めない。


 それでも。


 確実に、そこにある。


 西條は、ふと呟く。


「……これ」


 言葉が続かない。


 東は振り返らない。


 そのまま前へ進む。


 西條は、ゆっくりと続ける。


「人の記憶じゃない気がする」


 小さな声だった。


 誰にも聞こえない。


 だが、その言葉だけが。


 確かに残った。

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