同じ声、同じ言葉
次の証言者は、被害者と同じ制作会社に勤める男だった。
年齢は四十代。
落ち着いた口調で、受け答えもはっきりしている。
「最後に話したのは、昨日の夜です」
東がメモを取りながら頷く。
「時間は」
「二十二時前後だと思います」
西條が視線を上げる。
昨日の録音と、ほぼ一致している。
「内容は」
「進行の確認です。いつも通りの」
迷いがない。
「トラブルは」
「ありません」
即答だった。
西條は少しだけ間を置く。
「声は、どうでした?」
男は一瞬だけ考える。
だが、すぐに答える。
「普通でした」
言い切る。
「特に変わったところは?」
「ありません」
同じテンポ。
同じ言葉。
西條は、軽く頷く。
「ありがとうございます」
部屋を出る。
廊下は静かだった。
「……一人目と同じだな」
西條が言う。
「証言は一致している」
東は淡々としている。
「いや、そういう意味じゃなくて」
西條は言葉を探す。
「“揃いすぎてる”っていうか」
東は答えない。
そのまま次の部屋へ向かう。
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次の証言者は、音響スタッフだった。
若い。
少し緊張している様子が見える。
「昨日、電話はありましたか」
東が聞く。
「はい、ありました」
即答。
「時間は」
「えっと……二十二時半くらいです」
わずかに遅い。
だが、範囲内だ。
「内容は」
「進行の確認です」
同じ答え。
「問題は」
「ありませんでした」
迷いがない。
西條は少しだけ視線を細める。
「声に違和感は?」
「……ありません」
一瞬の間。
だが、すぐに整う。
「いつも通りでした」
同じ言葉。
同じ意味。
違いはない。
西條は頷く。
「分かりました」
外に出る。
ドアが閉まる音が、小さく響く。
「二人目」
西條が言う。
「完全一致だな」
「時間に多少のズレはある」
東が言う。
「誤差の範囲だ」
「だな」
西條は壁に背をつける。
視線を天井へ向ける。
「でもさ」
「何だ」
「“普通”“問題ない”“いつも通り”」
指を折りながら言う。
「全部同じ言葉なんだよな」
東は少しだけ考える。
「共通認識があれば、証言は収束する」
「理屈はな」
西條は苦笑する。
「でも、こんなに揃うか?」
東は答えない。
その沈黙が、肯定にも否定にもならない。
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三人目は、脚本担当の女性だった。
落ち着いた雰囲気。
表情も柔らかい。
「昨日、話されましたか」
「はい」
自然な返答。
「時間は」
「夜です。遅めの時間だったと思います」
「内容は」
「修正の相談です」
少しだけ考える間。
だが、すぐに続く。
「問題はありませんでした」
やはり同じ。
西條は目を逸らさない。
「声はどうでした?」
女性は一瞬だけ言葉を選ぶ。
だが。
「……普通です」
結局、そこに戻る。
「特に変わりません」
同じ意味。
同じ温度。
同じ結論。
「ありがとうございました」
東が言う。
女性は軽く頭を下げる。
それで終わる。
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廊下に出る。
西條は歩きながら言う。
「三人」
「そうだな」
「全員同じこと言ってる」
東はメモを閉じる。
「証言は一致している」
「だからさ」
西條は立ち止まる。
「一致しすぎなんだよ」
静かな声。
強くはない。
だが、消えない。
「普通」
「問題ない」
「いつも通り」
ゆっくりと言う。
「これ、三人とも同じ順番で言ってる」
東の動きが、わずかに止まる。
ほんの一瞬。
だが、それだけだった。
「偶然だ」
短く言う。
「……だよな」
西條は頷く。
納得したわけではない。
ただ、言葉にすると、弱くなる。
それだけだ。
歩き出す。
廊下の奥。
まだ部屋がある。
同じ話が続くだろう。
そう思いながら。
西條は、ふと呟く。
「……これさ」
「何だ」
「誰かが“揃えてる”みたいじゃないか?」
東は答えない。
ただ、前を見て歩く。
その沈黙が、妙に長く感じた。
西條は、それ以上何も言わなかった。
言えば、壊れる気がした。
この“整いすぎた状態”が。
まだ、証拠はない。
ただの違和感。
それだけだ。
それでも。
消えない。
残り続ける。
同じ言葉のまま。




