2人の刑事
「終わりでいいのか」
東が言った。
書類を閉じる音が、やけに乾いて響く。
西條は壁にもたれたまま、軽く肩を回す。
「一応な」
短く答える。
「自供も取れたし、凶器も出た。証拠は揃ってる」
「“一応”がつく」
東の視線は鋭い。
西條は小さく笑う。
「納得はしてないってことだよ」
即答だった。
東はそれ以上聞かない。
西條が納得しないのは、いつものことだ。
「送検は明日だな」
「朝イチ」
西條は首を回す。
「三日ぶっ通しはさすがにきつい」
「非効率だ」
「はいはい」
軽口を叩くが、声に力はない。
疲れているのは同じだった。
署内を出る。
外の空気は、少しだけ冷えていた。
夜に変わる途中の時間。
人通りもまばらだ。
「帰れるか」
東が言う。
「帰りたいけどな」
西條はポケットからスマホを取り出す。
画面を見る。
眉がわずかに動く。
「……無理だな」
「何だ」
「次、来た」
画面を見せる。
簡素な通知。
場所と状況だけ。
東は一読する。
「殺人か」
「っぽいな」
「担当は」
「俺たち」
東は腕時計を見る。
時間を確認するだけで、感情は動かない。
「行くぞ」
「マジかよ」
西條は笑う。
「余韻くらいくれよ」
「事件に余韻はない」
「はいはい」
駐車場へ向かう。
足取りは重い。
だが、止まらない。
車に乗り込む。
エンジンがかかる。
低い振動が、車内に広がる。
「被害者は」
東が言う。
「映像ディレクター」
西條が答える。
「年齢は三十代後半」
「動機の幅は広い」
「なんでもありだな」
車が動き出す。
夜の街を抜けていく。
信号待ち。
赤い光が差し込む。
「なあ」
西條が言う。
「何だ」
「さっきのやつ」
前を見たまま続ける。
「ほんとに終わりだと思うか?」
東は答えない。
ハンドルを握る。
「証拠が揃っている以上、終わりだ」
「……だよな」
西條はシートに体を預ける。
「でもさ」
「何だ」
「“ちゃんと終わってる事件”って、どれくらいあるんだろうな」
東は前を見たまま言う。
「すべてだ」
「即答かよ」
「そうでなければ成立しない」
西條は小さく笑う。
「ブレねえな」
信号が変わる。
車が再び動き出す。
しばらく沈黙が続く。
エンジン音だけが残る。
「……映像ディレクターか」
西條がぼそりと言う。
「何だ」
「いや」
少しだけ考える。
「声、扱う仕事だよな」
「映像だ」
「まあな」
西條は窓の外を見る。
街の光が流れていく。
「なんか、最近“声”ばっかだなって思って」
「関係ない」
東は即答する。
「だよな」
西條はそれ以上言わない。
ただ、どこかに引っかかっていた。
理由は分からない。
言葉にもならない。
それでも、残る。
車は現場へ向かう。
まだ何も分かっていない。
ただの次の事件。
そう思っていた。
この時点では。
まだ。




