第9話:理解できないまま、進む
湿った草を、握りしめる。
震えが、止まらない。
何もできなかった。
言葉は、届いた。
だが——
違う。
伝えたかったのは、それじゃない。
何度も、頭の中で繰り返す。
違う言葉。
違う選択。
そのたびに——
結果だけが、残る。
「……くそっ……」
拳を振り下ろす。
地面を叩く。
何度も。
何度も。
小石が跳ねる。
草が千切れる。
それでも——
何も変わらない。
弱い。
どうしようもなく。
胸の奥に、何かが残っている。
消えない。
(……なんで……)
息が、荒い。
(……なんで……俺は……)
あの距離で。
あの存在で。
殺されなかった。
目を閉じる。
思い出す。
「死にたくない——」
あの声。
自分の声。
確かに——届いた。
「……魔神王……様……」
小さく、こぼれた言葉。
あの魔神の。
(……魔神王……?)
知らない。
見たこともない。
だが——
引っかかる。
離れない。
(……あいつらは……)
森の奥へ逃げていた。
あの場所から。
視線が、上がる。
遠く。
歪んだ影。
魔神の城。
ぼんやりと、見える。
(……あそこ……)
何かが、ある。
理由は、分からない。
だが——
確かに、残っている。
言葉が。
違和感が。
「……行けば……」
声が、かすれる。
「……分かるのか……」
答えはない。
それでも。
足が、動く。
止まらない。
恐怖は、消えていない。
むしろ——増えている。
それでも。
「……行く……」
小さく、呟く。
その一歩が、
何に繋がるのかも知らずに。




