第7話:声を出した瞬間
近づく。
足が、勝手に動いている。
話しかけられるかもしれない。
だが——その前に、殺されるかもしれない。
その間で、心が揺れていた。
音を殺す。
一歩。
また一歩。
呼吸を抑える。
分からないまま——進む。
深淵の泉を越え、さらに奥へ。
光は薄れ、世界が沈んでいく。
いや——沈んでいるのは、自分の方かもしれない。
そのとき——
震えが走る。
いた。
三体。
あの魔神たちだ。
迷いはない。
ただ、進んでいる。
青い鬣の魔神が、わずかに振り返る。
左右を見る。
だが——ラグナードは知っている。
この森に、脅威はない。
だからこそ、その動きは不自然だった。
(……逃げてる……?)
視線の先。
森の終わり。
その先にあるのは——山。
何もいない場所。
誰も近づかない場所。
(……なんで……あそこに……)
理解できない。
だが——分かることが一つだけある。
あそこに入れば、戻れない。
(……声をかけるなら……)
喉が乾く。
(……ここしかない……)
山のふもと。
一歩、踏み出す。
すぐに、後悔が追いつく。
(……襲われたら……)
逃げられるか。
答えは、分かっている。
無理だ。
それでも——足は止まらない。
繋がりか、死か。
どちらが終わりなのかも分からないまま——進む。
そのとき。
一体が、止まった。
直角に曲がった角。
あの魔神だ。
空気が変わる。
「……なんだ」
低い声。
視線は前。
ラグナードではない。
だが——体が止まる。
(……気づいた……?)
分からない。
ただ——“何か”を捉えている。
次の瞬間。
「お前、なんでついてくる」
時間が、止まった。
視線は合っていない。
それでも——確かに言われた。
理解より先に、膝が崩れる。
(……見つかった……)
終わりだ。
声が出ない。
話すために来たはずなのに、何も出てこない。
ただ——死を待つ形になっていた。
魔神が動く。
木をなぎ倒す音が響く。
だが、もう遅い。
足音。
一歩。
また一歩。
近づいてくる。
止まらない。
目の前。
巨大な影。
(……終わる……)
そのとき——
消えきらないものが、わずかに残った。
(……どうせ……)
喉が震える。
(……死ぬなら……)
顔は上げない。
それでも——
声だけが、地面に叩きつけられる。
「死にたくない——!!」




