第32話:守るという呪い
『魔神王ベルザグラド ──守るという言葉の意味』
禍々しい黒い光がベルザグラドを包み込む。
その表情は、魔神の狂気の頂点。
血の涙が流れ、内側から溢れる怒りに震え、
剥き出しの歯は鋭く尖っていく。
弱き魔神など、そこにはもういなかった。
古来より魔界に君臨する“古の王”のように、
その姿は変貌していく。
黒く硬い皮膚。
天を突く二本の角。
指先から伸びる刃のような爪。
──魔神王ベルザグラド。
「……できた」
震える声。
「できたぞーーーーー!」
歓喜が弾ける。
長い年月をかけて作り上げた“自然の大城”。
それは、人間との約束──“守る”という形。
ベルザグラドは地面に文字を書く。
しろかんせい
やがて消える文字。
それでも、確かにそこに“繋がり”は残る。
(セラフィーナ……人間を守る道を作ったぞ……)
笑っている。
だが、その目はどこか遠い。
「さて……人間来てるか見にいくか……」
それは日課だった。
魔界に意思を持つものなど存在しない。
それなのに──
この城には、誰も近づかなくなっていた。
“死の城”。
本能が拒絶する場所。
日々は単純だった。
空を見る。
外へ出る。
食う。
戻す。
閉じる。
それだけ。
だから、心は削れていく。
(はぁ……)
孤独が、静かに侵食していた。
「お、おとおぉさぁぁぁん!!!」
ベルザグラドは飛び出す。
扉は、開いていた。
「……ちっ」
ドガァァン!!
扉を叩き壊す。
そこにいたのは──
子供。
そして、赤い魔物。
地面に転がる腕。
考えるより先に、炎が放たれる。
すべてを焼き尽くす一撃。
魔物は消えた。
ベルザグラドは子供を抱く。
「まて……しぬな……」
だが。
命は、消えた。
それでも走る。
扉へ。
「ついたぞ……帰れるぞ……」
返事はない。
ポタ……ポタ……
赤と透明の雫。
「俺は……なにをしてきた……」
「何がしたかったんだ……」
崩れる。
「守るって……約束したのに……」
ヒビが入る。
「俺……守るって言ったんだ……」
黒炎が右腕から広がる。
「なんで……こっちに来るんだよ……」
(来なければ……)
黒が全身を覆う。
(守る……?)
(まもるって……なんだ……?)
体が変わる。
人の形が崩れる。
——その時。
視線が合う。
「おまえは……」
世界が止まる。
雷が静止する。
足を掴む無数の手。
”お前はどうしたい?”
ベルザグラドの声。
「……わかんねぇよ」
”それでも選ぶのか”
沈黙。
ラグナードは目を閉じない。
(守るものなんて……まだ分からない)
(でも——)
息が締まる。
手が首に迫る。
(違う……)
(俺は……)
「心は捨てない」
声が落ちる。
それでも、確かに響く。
「繋がったこと、全部持ってく」
手が止まる。
「お前は縛られた」
「でも俺は違う」
「自分で選ぶ」
「間違ってもいい」
「それでも選ぶ」
「一人になるくらいなら——」
「痛い方を選ぶ」
静寂。
”……きれいごとだ”
”……痛いだけだ”
「それでもいい」
「一人になる方が、もっと痛い」
「だから——」
「お前の先、俺が見せる」
沈黙。
”……ガキすぎて嫌いだ”
一拍。
”……それでも、嫌いじゃねぇ”
手が崩れていく。
自由になる体。
雷が、動き出す。
(負けない)
一歩、踏み出す。
「——俺が決めた」
鼓動が燃える。
(燃えろ……極炎)
ドガァァァン!!
大地が裂ける。
煙の中。
黄色と黒の魔神が見上げる。
アズレリアが息を呑む。
そこにいたのは──
炎の翼を纏った魔神。




