第33話:選択の果て
黒煙が、ゆっくりと流れていく。
抉れた大地。
焼け焦げた空気。
残るのは、重い静寂。
その中心に——
炎の翼を纏った魔神が立っていた。
ラグナード。
その呼吸は荒く、体はすでに限界に近い。
それでも、膝はつかない。
目の前。
黄色と黒の魔神——プテラが、静かに構えていた。
バチッ……
雷が、空気を裂く。
「……変わったな」
低い声。
ラグナードは答えない。
ただ、一歩。
踏み出す。
その動きに、迷いはなかった。
次の瞬間——
雷が、消えた。
視界から消失するほどの速度。
直後、背後から走る殺気。
ラグナードは振り向かない。
そのまま、体をわずかに傾ける。
雷撃が、頬を掠める。
ドガァン!!
遅れて地面が爆ぜる。
(速ぇ……)
だが——
見えている。
「——そこだ」
振り向きざまに、拳を振り抜く。
しかし、手応えはない。
プテラはすでに上空。
「甘い」
落ちる雷。
直撃。
轟音。
土煙が舞い上がる。
「終わりだ」
プテラの声が落ちる。
だが——
煙の中で、炎が揺れる。
消えていない。
ラグナードは、立っていた。
体は焼け、血が流れている。
それでも——
目は、死んでいない。
(痛ぇ……)
(でも——)
一歩、踏み出す。
「関係ねぇ」
声は低く、はっきりと。
「俺が決めた」
炎が、強くなる。
プテラが動く。
今度は正面から。
雷と炎が、正面衝突する。
バチバチバチッ!!
空間が歪む。
力は、拮抗している。
いや——
わずかに、ラグナードが押される。
「所詮、魔界の雑魚か」
冷たい声。
ラグナードは歯を食いしばる。
(違う……)
炎が、揺らぐ。
(力じゃない)
一瞬。
ベルザグラドの言葉がよぎる。
”お前はどうしたい?”
ラグナードの目が、開く。
「……そうか」
力をぶつけるのをやめる。
その瞬間——
バランスが崩れる。
プテラの雷が、押し込む。
だがラグナードは、踏み込んだ。
真正面から。
「なに——」
懐に、入る。
距離ゼロ。
逃げ場はない。
「これでいい」
拳に、炎が集中する。
(守るとか——)
(全部、後でいい)
「今は——」
拳を、突き出す。
「選んだ道で、ぶち抜く」
ドガァァァァン!!!
爆炎。
衝撃が、空を裂く。
プテラの体が、大地へ叩きつけられる。
何度も、何度もバウンドしながら。
やがて——
止まる。
静寂。
焦げた匂い。
崩れた大地。
ラグナードは、ゆっくりと歩く。
倒れたプテラの前へ。
まだ、息はある。
わずかに動く。
ラグナードは、見下ろす。
拳を、握る。
止めを刺すか——
その一瞬。
迷いは——
なかった。
「……悪いな」
低く、呟く。
「ここで終わりだ」
炎が、落ちる。
すべてが、静かになった。
風が吹く。
焦げた大地をなぞるように。
ラグナードは、その場に立ったまま。
ゆっくりと、息を吐く。
(終わった……)
膝が、わずかに揺れる。
だが、倒れない。
視線を上げる。
そこには——
アズレリア。
言葉は、出ない。
ただ。
ラグナードは、小さく笑った。
「……生きてる」
その一言だけが、零れた。




