第27話:ひとりになりたくない
思考が、止まらない。
(魔神の王……天界……魔界を滅ぼす理由……アズレリア……)
名前だけが、頭の中で回り続けていた。
ラグナードは、動けなかった。
考えれば考えるほど、胸が重くなる。
自分がどうあるべきなのか、分からない。
足が鉛のように沈んでいた。
「ラグナード」
アズレリアの声が落ちる。
冷たくも、優しくもない声。
ただ“現実”だけを置いていく声だった。
「あなたは……魔界に生まれてどう感じた?」
問いは短い。
だが、逃げ場はなかった。
ラグナードは言葉に詰まる。
(どう……感じた……?)
恐怖。孤独。絶望。
それ以外、何もなかった。
「もし」
アズレリアは続ける。
「魔神王のように“自我を持つ魔神”が外に出たらどうなると思う?」
ラグナードは顔を上げた。
その視線は真っすぐだった。
「人間も、天界も——全部“餌”になる」
呼吸が止まる。
その一言だけで、世界の形が変わった気がした。
「だから止めるの」
「全部、滅ぼしてでも」
重い。
あまりにも、重すぎる言葉だった。
「……俺は」
喉が動かない。
言葉が出ない。
「俺は……ひとりになりたくない」
それだけが零れた。
沈黙が落ちる。
アズレリアはわずかに目を伏せた。
「それでも——あなたがいなければ、滅ぼすしかない」
逃げ場はなかった。
理屈でもなく、感情でもなく。
世界の構造として、そこにある事実だった。
「……俺は」
ラグナードはもう一度口を開く。
今度はゆっくりと。
「アズレリアと、一緒にいけないのか?」
一瞬、空気が止まる。
風の音すら消えた。
「……会いに行くわ」
短い返答。
それだけで十分だった。
ラグナードは息を吐く。
理由は分からない。
でも胸の奥の重さが、少しだけ軽くなる。
「……行こう」
扉へ向かう。
ギギギッ……と重い音が響いた。
中は異様だった。
骨。角。焼け焦げた羽。
そして、“本”。
ラグナードの動きが止まる。
(これは……言葉か……?)
「それは、文字よ」
アズレリアが静かに言う。
ラグナードは理解できないまま見つめる。
魔界の中に、“記録”があるという違和感。
(魔神王も……意思があった……?)
その瞬間、背筋が冷えた。
「俺も……同じになるのか……」
「違う」
即答だった。
「私がいる」
その言葉の意味は、まだ分からない。
ただ、“一人ではない”という感覚だけが残る。
その時だった。
空気が変わる。
ゾワッ、と空間が歪む。
「ミツケタ」
声は空間そのものから響いた。
ラグナードは振り返る。
そこにいたのは——黄色と黒の“雷”。
(……来る)
本能が叫ぶ。
これは獣じゃない。
“災害”だ。
「くるわよ」
アズレリアの声が落ちる。
ラグナードは息を吸う。
逃げられない。
ここで止まれば終わる。
「分かってる」
その瞬間——
空気が裂けた。
ドゴォォン!!
雷が、世界を焼いた。




