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縁界《ENKAI》|人を残した魔神は、壊れた縁を選ぶ  作者: 玲皇


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第26話:繋ぐ存在

「見えたな……」


森の切れ間、その先に魔神城があった。


黒く歪な巨城は、空を削るようにそこに在る。


ラグナードの足が止まる。


「どうした」


前を見たまま、アズレリアが言った。


「……前に来た時」


ラグナードは視線を落とす。


「赤い魔神に襲われた」


記憶が一気に蘇る。


血の匂いと、圧倒的な圧力、そして絶望。


「気配も感じられなかった……腕、食われた」


短い沈黙が落ちる。


「そう」


アズレリアの返事は変わらない。


感情は、ほとんど見えない。


「空から入る」


彼女は空を見上げた。


「上空に気配はない」


「……おかしいな」


ラグナードが呟く。


「前は……空にもいた」


黄色と黒、雷を纏う魔神。


「今はいない」


それだけが返ってきた。


「行く」


アズレリアはそう言い、ラグナードの手を取る。


次の瞬間、身体が浮いた。


風が叩きつけ、視界が流れる。


速い。


あまりにも速い。


気がつけば、地面に着いていた。


「っ……いてて……」


ラグナードが転がる。


その瞬間だった。


ゾワリと空気が歪む。


「……っ!」


アズレリアの表情が変わる。


すぐにラグナードの腕を引き、物陰へと押し込んだ。


ビリビリと空気が裂ける音。


「……今、何かいたか?」


低い声。


ラグナードの心臓が跳ねる。


(……いる)


アズレリアが静かに覗く。


そこにいたのは、黄色と黒の羽を持つ魔神だった。


雷を纏い、空気そのものを歪ませている。


「キシャァァァァ……!」


奇声。


だがしばらくすると、気配は引いていく。


城の中へと戻っていった。


「……行ける」


アズレリアが呟く。


ラグナードは動けなかった。


(無理だ)


本能が拒絶している。


(あんなの、勝てるわけがない)


アズレリアは一瞬だけ思考する。


今のラグナードでは危険だ。


このままでは、持たない。


彼女は振り返った。


「私は中を確認する」


淡々とした声。


「あなたはどうする?」


そして続ける。


「足手まといなら、ここに残る」


試す言葉だった。


ラグナードは俯く。


なぜ来たのか。


なぜここにいるのか。


答えはひとつしかない。


「……行く」


顔を上げる。


震えていてもいい。


それでも逃げない。


アズレリアは何も言わず、前に進んだ。


魔神城の外周を進む。


「入口は六つ」


小さく説明する。


「さっきのルートは避ける」


ラグナードは頷いた。


その途中で、アズレリアが口を開く。


「ラグナード」


「……なんだ」


一瞬の間。


「ひとつだけ聞く」


空気が変わる。


「私は、天界に戻るためにここへ来た」


ラグナードは黙る。


それは分かっていることだった。


「本来なら」


アズレリアは言葉を続ける。


「すべて終わらせるはずだった。魔界ごと」


その声は冷たいほど静かだった。


「でも、それでは足りない」


ラグナードの目が揺れる。


「どういう意味だ」


「終わらせるだけでは、何も残らない」


彼女は一歩近づく。


「残すものが必要」


ラグナードは息を呑む。


「魔神王は死んだ」


短い間。


「……私が殺した」


空気が重く沈む。


「人間を食べたの」


「約束を破ったわ」


淡々とした言葉。


だが、それは過去を切り裂く告白だった。


「だから命令が出た」


視線がまっすぐラグナードに向く。


「魔界を滅ぼせと」


ラグナードは言葉を失う。


「このままでは、いずれそうなる」


「魔神王はいない。統制もない」


「強い者が奪うだけの世界になる」


「そして天界は介入する」


結果は同じ。


滅び。


アズレリアは続ける。


「でも、違う道がひとつだけある」


ラグナードが顔を上げる。


「言葉が通じる魔神がいる」


「約束を交わせる存在がいる」


視線が交わる。


「だから提案する」


はっきりと言った。


「あなたが魔神王になりなさい」


「……は?」


思考が止まる。


「王になることが目的じゃない」


彼女は続ける。


「繋ぐ存在になること」


ラグナードは混乱する。


「無理だ……俺は弱い」


「無理ではない」


即答だった。


「あなたはあの炎を受け入れた」


「拒絶しなかった」


「それは力じゃない。意思よ」


ラグナードは言葉を失う。


拳が震える。


「……なんでそこまで」


アズレリアは一瞬だけ視線を落とした。


「必要だからよ」


それだけだった。


ラグナードは俯く。


思考がまとまらない。


王。


責任。


魔界。


自分。


全部が重い。


「……無理だ」


それが限界だった。


「今の俺には無理だ」


アズレリアは何も言わない。


ただ見ている。


選ばせるように。


沈黙が落ちる。


やがてラグナードは顔を上げた。


「……でも」


小さな声。


「逃げる気はない」


それだけは確かだった。


アズレリアの視線がわずかに変わる。


「考えさせてくれ」


それが答えだった。


「えぇ」


アズレリアは静かに頷く。


「選びなさい」


そして前を向く。


「その先を」

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