第21話:初めて、“殺した”
地面が、熱い。
違う。
——自分が、焼けている。
「……っ……あ……!!」
声にならない。
胸の奥。
埋め込まれた“何か”が——暴れている。
ドクン。
ドクン。
ドクンッ!!
「があああああああああああああ!!」
背中が反る。
指が地面を抉る。
止まらない。
逃げ場がない。
体の内側で——炎が“生きている”。
「……耐えなさい」
上から、声。
アズレリアは動かない。
ただ、見ている。
助けない。一切。
ガサッ……
音。
一つじゃない。
二つ。三つ。
増えていく。
(……来てる……)
分かる。
逃げ場はない。
このままじゃ——終わる。
視界の端。影が揺れる。
低い体。歪な四肢。裂けた口。
さっき、自分を殺しかけた魔物と——同じ“種類”。
だが、数が違う。
囲まれている。
「……ぅ……」
体が、動かない。
痛みで。恐怖で。両方で。
「……動きなさい」
冷たい声。
「ここで終わる?」
無理だ。
動けない。立てない。戦えない。
逃げることすら、できない。
その瞬間。
胸の奥で——“何か”が弾けた。
ドクンッ!!
「……っ!?」
一瞬だけ、痛みが消える。
代わりに——
熱。力。衝動。
(……出せる……)
分かる。理由はない。
でも、分かる。
(……外したら……終わる)
息が詰まる。
(……当たっても……どうなる……?)
よぎる。
さっきの言葉。
“エネルギーになる”
もし——同じなら。
強くするだけで終わる。
目の前。魔物が踏み込む。
もう、考える時間はない。
(……それでも……)
喉が震える。
(……やるしかない……)
ラグナードは、無理やり身体を起こした。
膝が震える。立てない。
それでも——前に、手を出す。
来る。
魔物が、目の前まで。
左手。集中。
胸の奥。“暴れているもの”に触れる。
ドクン。
「——っ!!」
赤い炎が、走る。
一直線。
焼くでも、裂くでもない。
“触れた”。
その瞬間、魔物の動きが止まった。
ギ……
喉が鳴る。だが、叫ばない。叫べない。
体が——崩れる。
内側から、壊れていくように。
音もなく。意味もなく。
ただ——終わった。
ドサッ。
遅れて、倒れる。
「……は……?」
ラグナードは動けなかった。
息をするのも、忘れる。
(……今の……)
視線を落とす。
自分の手が、震えている。
目の前。さっきまで“生きていたもの”。
それが——動かない。
「……俺が……?」
「そうよ」
後ろから、声。
「それ、あなたの力」
理解が追いつかない。
でも——事実だけが残る。
(……殺した……)
ドクン。
胸が鳴る。
怖い。少しだけ。
でも——それ以上に。
「……勝った……」
言葉が、こぼれる。
初めて、逃げなかった。
初めて——
「……勝った……」
実感が、遅れて押し寄せる。
膝から力が抜ける。
その場に崩れる。
呼吸が荒い。止まらない。
「……まだよ」
アズレリアの声。
顔を上げる。
まだ、いる。魔物が。
だが——さっきとは違う。
胸の奥。炎が、静かに揺れている。
(……いける……)
根拠はない。
でも、分かる。
もう——逃げるだけじゃない。
ラグナードは、ゆっくりと立ち上がった。
その目には、ほんの少しだけ——
“戦う意思”が宿っていた。




