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縁界《ENKAI》|人を残した魔神は、壊れた縁を選ぶ  作者: 玲皇


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第20話:種を入れただけ

胸の奥が、ざわついた。


さっきとは違う。


嫌な予感じゃない。


確信だ。


来る。


死が。


ピリッ。


空気が裂ける。


ラグナードの足が、止まる。


呼吸が、浅い。


「……来る」


声が、震える。


アズレリアは振り返らない。


「分かるようになったのね」


それだけ言って、外へ歩き出す。


「……待ってくれ……」


反射で、ついていく。


止まれなかった。


一人になる方が、怖かった。


洞窟の外。


空気が、重い。


森の気配が、歪んでいる。


そして——いた。


低い体。


歪な四肢。


裂けた口。


ラグナードより、少し大きい。


だが、分かる。


今までのやつとは違う。

逃げてきた連中とも違う。


“格”が違う。


魔物が、こちらを見る。


目が合った瞬間——


全身が、凍る。


無理だ。


一瞬で理解した。


勝てない。


逃げないと。


「戦いなさい」


背中から、声。


思考が止まる。


「……は……?」


「あなたがやるの」


アズレリアは動かない。


助ける気配もない。


「……無理だ……!」


声が裏返る。


「こんなの……勝てるわけ……」


「じゃあ死ぬだけね」


即答だった。


足が、すくむ。


逃げたい。


でも——動けない。


魔物が踏み込む。


ドンッ。


地面が揺れる。


近い。


速い。


来る。


逃げなきゃいけない。


分かってる。


なのに——


体が、言うことを聞かない。


視線だけが、動く。


迫ってくる。


速い。


近い。


間に合わない。


(……死ぬ)


理解した瞬間——


影が、覆いかぶさる。


振り下ろされる爪。


避けられない。


動けない。


「遅い」


ズバッ。


遅れて——


空気が裂けた。


赤い線が走る。


次の瞬間。


魔物の体が、ずれた。


崩れる。


真っ二つに裂けていた。


「……は……?」


理解が、追いつかない。


アズレリアが立っていた。


いつの間にか。


「だから言ったでしょ」


血を払うように手を振る。


「遅いのよ」


ラグナードは動けなかった。


悔しさが、込み上げる。


何もできなかった。


また、逃げただけだ。


「……弱いままね」


その一言が、刺さる。


顔が歪む。


言い返せない。


「でも」


アズレリアが近づく。


「きっかけくらいは、あげる」


次の瞬間。


胸に、手が当てられる。


ドクン。


「……っ!?」


焼ける。


違う。


爆ぜる。


体の中で、何かが暴れる。


「があああああああああああ!!」


立てない。


崩れる。


熱い。


痛い。


壊れる。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


青とは違う。


荒い。


重い。


暴力みたいな炎。


「それが、“極炎”」


声が、遠い。


「魔神を殺せる力」


こんなの——


耐えられない。


体が、のたうつ。


地面を掴む。


爪が割れる。


それでも、止まらない。


「あああ……っ!!」


視界が歪む。


意識が、飛びかける。


それでも——


消えない。


炎は、体の中に居座った。


やがて。


動きが、鈍くなる。


呼吸が、荒い。


それでも、生きている。


「……まだ、壊れないのね」


アズレリアがしゃがむ。


覗き込む。


「……意識はある?」


ラグナードは、かろうじて頷く。


何も変わっていない。


弱いまま。


怖いまま。


それでも——


胸の奥に、何かがある。


「勘違いしないで」


アズレリアが立ち上がる。


「強くなったわけじゃない」


振り返る。


「種を入れただけ」


その言葉が、落ちる。


「後は、自分で育てなさい」


風が吹く。


ラグナードは、


地面に手をついたまま動けない。


それでも——


胸の奥で、


赤い炎が、脈打っていた。


ドクン。


ドクン。


これが、初めてだった。


逃げる理由じゃない。


進む理由が、


体の中にあるのは。


意識が、揺れる。


暗転。


終わりじゃない。


ここからだ。


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