第19話:それでも——弱い
ラグナードは、自分の手を見ていた。
まだ残っている。
さっきの感覚。
胸の奥——
あの“脈動”。
(……出せる……)
確信があった。
あの青い炎。
偶然じゃない。
「もう一回……」
小さく呟く。
指を立てる。
意識を、沈める。
ドクン。
ボッ——
灯る。
青い炎。
小さい。
だが——
確かに、そこにある。
揺れている。
今度は、暴走しない。
制御できている。
「おぉ……」
声が、漏れた。
抑えきれない。
(……できてる……)
「ちょっとはマシになったじゃない」
アズレリアが、腕を組んだまま言う。
「これなら、少しは使い道あるかもね」
ラグナードは、炎を見つめたまま口を開く。
「これ……強いよな?」
——少しだけ、間があった。
期待が、滲む。
「……弱いわよ」
即答だった。
「……え?」
思考が止まる。
「その炎で、何か倒せると思ってるの?」
言葉が、刺さる。
「だって……さっき、あんなに……」
洞窟を壊した。
あの威力。
「それ、“壊した”だけでしょ」
静かな声。
「魔界の生き物に当てたらどうなると思う?」
ラグナードは、言葉に詰まる。
「……倒せる……んじゃ……」
「逆よ」
一歩、近づく。
距離が、縮まる。
「強くなるの。相手が」
「……は?」
理解が追いつかない。
「魔神も魔物も、あの炎は“燃料”なの」
指先を、指される。
「それ、エネルギーそのもの。与えてるだけ」
血の気が引く。
「……じゃあ……俺……」
「そのまま撃てば、ただの支援役ね」
——崩れる。
さっきまでの高揚が、
音もなく、落ちた。
(……意味ないのかよ……)
拳を握る。
震える。
せっかく手に入れた力。
初めて、“何かになれた”と思ったのに。
「……落ち込むの早すぎ」
少しだけ、呆れた声。
「使い方の話でしょ」
「……使い方……?」
顔を上げる。
アズレリアは、炎を灯す。
赤い炎。
静かに、揺れる。
青とは違う。
重い。
濃い。
そして——
その炎が、わずかに揺れた瞬間。
空気が、変わった。
見えない何かが、広がる。
ラグナードの身体が、震える。
「……なに、それ……」
声が、勝手に出る。
炎が、体を巡る。
赤い光が、流れる。
脈打つように。
「使い方よ」
それだけだった。
ラグナードは、息を呑む。
(……中で、使う……?)
胸に、手を当てる。
あの感覚。
まだ、ある。
「……やってみろ」
言われるままに、目を閉じる。
意識を、内側へ。
沈める。
ドクン。
感じる。
流れている。
自分の中を——何かが走っている。
(……掴める……)
触れる。
(……動く……)
少しだけ——
動かす。
ドクンッ!!
「……っ!!」
身体が、跳ねた。
一気に走る。
力が、全身を駆け抜ける。
指先まで。
足先まで。
「……なんだ……これ……!」
違う。
さっきとは、違う。
外に出す力じゃない。
内側から——
“引き上げる力”。
ラグナードは、目を開ける。
世界が、変わっていた。
空気の流れ。
気配。
すべてが、はっきり見える。
(……見える……)
感じる。
すべてが。
「……すげぇ……」
笑った。
自然に。
抑えられなかった。
「勘違いしないで」
その笑みを、止める声。
視線が、鋭い。
「それでも——弱いわよ」
現実。
突きつけられる。
「使えるようになっただけ。強くなったわけじゃない」
ラグナードは、黙る。
だが——
もう、崩れない。
(……じゃあ、強くなればいい)
それだけだ。
シンプルに。
アズレリアは、その表情を見ていた。
そして、小さく息を吐く。
「……まぁ、悪くない顔ね」
ラグナードは、拳を握る。
胸の奥。
炎が、静かに燃えている。
逃げるだけだった自分は、もういない。
まだ弱い。
それでも——
進める。
その時だった。
ピリッ——
空気が、裂けた。
ラグナードの身体が、反応する。
「……来る」
はっきりと分かる。
さっきとは違う。
“危険”じゃない。
——“死”だ。
アズレリアも、顔を上げる。
「……早いわね」
空気が、変わる。
重くなる。
次の瞬間——
洞窟の外で、“何か”が動いた。




