第18話:はじめての力
胸の奥で、何かが脈打っている。
ドクン。
一度。
ドクン。
もう一度。
心臓じゃない。
“別の何か”が、動いている。
満ちていく。
生きている、というより——
“溢れている”。
「気づいた?」
アズレリアが、横から覗き込む。
「さっきの青い炎。全部、あなたの中に入ってるわよ」
「……あの炎が……?」
ラグナードは、自分の手を見る。
あの時。
確かに、焼かれたはずだった。
だが——
「……燃えてない……」
「そりゃそうでしょ」
あっさりとした声。
「普通はね。あの炎、触れたら終わるのよ」
ラグナードの指が、わずかに止まる。
「でもあなたは違った。取り込んだ」
静かな断定。
「……本来、混ざるものじゃないのにね」
小さく、付け足す。
ラグナードは、息を呑む。
理解はできない。
だが——
“普通じゃない”ことだけは、分かった。
(……俺は、死んでない)
それどころか——
体の奥が、騒いでいる。
「出してみなよ」
「……え?」
「青い炎。使えるはずだから」
ラグナードは、戸惑う。
どうやって。
その問いが、頭を巡る。
アズレリアは、小さく息を吐いた。
そして——
指を一本、立てる。
ボッ。
赤い炎が灯る。
静かに揺れる、小さな火。
青とは違う。
重い。
濃い。
「こんな感じ」
ラグナードは、見つめる。
(……これを……?)
ゆっくりと、指を立てる。
意識を沈める。
胸の奥へ。
あの“脈”へ。
ドクン。
——来る。
その瞬間。
ボォォォオオオッ!!
爆ぜた。
青い炎が、噴き上がる。
一瞬で、膨れ上がる。
「なっ——!?」
止まらない。
ゴォォォオオオオ!!
炎が広がる。
壁を焼き、天井を貫く。
岩が、溶ける。
崩れる。
熱ではない。
だが——圧倒的な“力”。
空気が、震える。
「……やめて」
低い声が落ちる。
「それ、私の隠れ家」
一拍。
「……壊れる」
ラグナードは、はっとする。
慌てて腕を振る。
散る。
弾ける。
炎が、消えていく。
バチ……バチ……
残響だけが、残る。
——静寂。
音が、消えた。
遅れて、煙が立ち上る。
ゆらゆらと揺れる。
「……やりすぎた……」
ラグナードは、固まる。
アズレリアは、無言で見ている。
(……怒ってる……)
「……あの……」
声が、小さい。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
「加減、覚えて」
それだけだった。
ラグナードは、ゆっくりと手を見る。
さっきまで、何もできなかった手。
逃げることしかできなかった自分。
それが今——
力が、ある。
確かに、ここに。
「……すごい……」
思わず、漏れる。
胸の奥が、熱い。
怖くない。
むしろ——
「……これ……俺の力か……」
初めてだった。
“戦えるかもしれない”と思えたのは。
だが、その奥で。
ドクン。
また、脈打つ。
さっきよりも、強く。
(……まだ……ある……)
消えていない。
むしろ——増えている。
わずかな違和感が残る。
アズレリアは、その様子を見ていた。
静かに。
観察するように。
「……それ、私の炎とは“質”が違う」
ぽつりと、落とす。
ラグナードは顔を上げる。
「……質……?」
「似てるけど、別物」
短い説明。
それ以上は言わない。
だが——
その一言で十分だった。
(……違う……力……)
胸の奥で脈打つ“それ”が、
わずかに強くなる。
アズレリアは、視線を外す。
そして、小さく呟く。
「……やっぱり、おかしいわね」
ラグナードは気づかない。
その意味に。
ただ——
胸の奥で脈打つ“それ”だけが、
静かに、強くなり続けていた。




