第14話:最後の審判
「……そうか。俺はここで——」
言葉が、途切れた。
赤い空。
乾いた大地。
灰色のガスが、ゆらゆらと漂っている。
その奥で——
黒い“もや”が、揺れていた。
風はない。
それでも、形だけが変わる。
(……気配が、ない)
魔物の殺気もない。
魔神の圧もない。
何も——ない。
なのに。
“そこにいる”。
「……なんなんだよ……」
目が、離せない。
逸らした瞬間、何かが終わる気がした。
体は、もう限界だった。
右腕は潰れている。
感覚は、ない。
左手も裂けている。
血が、じわりと滲む。
呼吸が浅い。
視界が揺れる。
「……はは……」
乾いた笑いが、漏れた。
今の自分は——
餌ですらない。
思い出す。
喰われた。
追われた。
刺された。
全部、同じだ。
この世界では——
近づく=死。
それが、当たり前だった。
(……結局)
息が、かすれる。
(……誰も、いない)
胸の奥が、冷えていく。
(……誰とも……繋がれなかったな)
膝が、崩れる。
地面に手をつく。
力が、入らない。
視界が、滲む。
(……いやだ……)
喉が、震える。
(……終わりたくない……)
それでも——
体は、もう動かない。
黒い“もや”が、揺れる。
距離はあるはずだった。
なのに——
消えた。
「……え?」
目の前に、いた。
——距離が、ない。
骨の“顔”。
空洞の奥に、何もない。
見られているのかも、分からない。
だが——
“測られている”。
(……なんだ……これ……)
思考が、遅れる。
理解が、追いつかない。
ただひとつだけ——
確信があった。
(……終わる)
黒い影が、手を上げる。
動きは、見えない。
結果だけが、そこにある。
いつの間にか——
鎌があった。
その刃に、青い炎が灯る。
揺れない。
燃えない。
ただ、“そこにある”。
静かに——回る。
綺麗だった。
ありえないほど。
終わりの形としては。
(……ああ)
分かった。
「……終わりだ」
避けられない。
動けない。
選ぶ余地もない。
ただ——受け取るだけ。
その瞬間。
炎が、来た。
音もなく。
痛みもなく。
ただ、包まれる。
視界が、青に染まる。
ラグナードは、目を閉じた。
——静かだった。
熱くない。
苦しくない。
何も、奪われない。
(……終わるのか……)
意識が、沈む。
すべてが、遠くなる。
その中で——
ひとつだけ、残る。
(……もっと……)
微かな声。
(……話してみたかった)
誰かと。
それだけが、消えない。
「……?」
違和感。
(……熱くない……?)
炎の中だ。
なのに——
何も、燃えない。
何も、壊れない。
いや——
違う。
(……何かが……)
胸の奥に、流れ込んでくる。
冷たい。
だが、消えない。
拒めない。
(……これは……)
炎じゃない。
もっと、深い何か。
青い光が、沈む。
体の中へ。
溶けるように。
染み込むように。
(……入ってくる……)
ドクン。
鼓動が、変わる。
ドクン。
ドクン。
世界の音が、歪む。
遠くのものが、近くなる。
見えなかったものが、見える。
ラグナードは、目を開けた。
黒い影が、そこにいる。
だが——
さっきとは違う。
(……見える……)
輪郭じゃない。
形でもない。
“存在”が、分かる。
言葉にできない感覚。
それでも確かに——
“繋がった”。
ラグナードは、息を呑む。
自分の中に、
何かが残っている。
消えないものが。
それが——
何なのかも分からないまま。




