誰もが欲しがるもの
「違うよ。生き延びて、手に入れたものはたくさんあるんだ」
だからぼくも自分勝手に話してみたくなった。
勿論、二人が聞いていないことを知りながら。
「その石のこと、色々と調べてみたいんだ」
「これが本当にボスがほしがっていたものなら・・・」
「それなりの価値がある。ただ、今はそれを証明できない。見ての通りそれは今、ただの石ころだ」
「結局ぼくは、死にたくはないんだってことがわかったよ・・・」
「なあジャン。おれ達に足りなかったものは、なんだったんだろう」
おじさんは月を見ながら、少しは落ち着きを取りもどしていたりした。石ころを見張らずにもいられた。
「咽喉も渇いたし、お腹も減った・・・」
「お前には運が、俺には勇気が足りなかった。そしておれ達に足りなかったのは、金と、それに抗うだけの心だ」
「おれは石のことを調べてみる。お前にもこのすばらしさを伝えたい。そしていつか、その価値を見せ付けて、桁違いの大金を手に入れるんだ」
「真っ暗だったから、明かりを見つけようともした・・・」
「金が手に入れば、すべてが手に入る」
「ああ・・・暮らしが保障される。金があれば・・・」
「なんだか、ぼくが欲しているものは、曖昧なものばっかりなんだな」
「お前の弟の病気も治るし、おれの家族は救われる」
なんだか二人は、肩を並べて、そろってお月様なんかを眺めていたんだ。
「それで、おじさんたちがほしがっているものは、全部、既にミスタ・レイクが手に入れているものなんだよね」
なんてぼくが言ったときだった。
ジープが大きく傾いて、ジャンが手にしていた石ころが宙へ投げ出された。
多分ジープに乗っていた全員が全員、あっと声を上げたんだ。
ジープは砂にはまって横転してしまったんだな。
ぼくは麻袋に助けられて余り衝撃も受けずに砂の上に着地することができた。
「石は? 石はどこだ!」
正気に戻った次には、ジャンの必死な声が聞こえたんだ。
ぼくは頭を抱えて、ボンヤリ空を眺めていた。
そろそろやっぱり雲がどこからともなく空を覆い始めていた。
「アルバ! おまえ!」
ジャンの叫び声に顔を向けると、そこにはジープの窓から抜け出していた運転手の人が、いつの間にか石に手を伸ばしているところだった。
でも石は彼の手には入らなかった。
アルバと呼ばれた彼は、勢い余ってその砂の坂を転げ落ちてしまったのだった。
石ころは、半分砂に埋もれて、鈍い光を放っている。
ぼくはなんだか流されているような独特な感覚にさいなまれながら、砂の海を、石ころめがけて競泳している二人を見守っていた。
泳ぎは、ジャンのほうが一枚上手のようだった。
彼は一足先に石ころに手を伸ばした。
が、やはりそれを手にできなかった。
彼は腰まで砂に浸かって、身動きを取れなくしてしまっていた。
いくら手を掻いても、どうしてもそれに届くことはなかった。
「おじさん! 運転手さんがいなくいなっちゃったよ」
ぼくは坂の底にある窪みを見ながら、そう叫んだ。
そして、麻袋をうまく使って、ジープの傾いた荷台に乗り移ることに成功した。
それがいけなかったのか、ジープはすぐにひどく沈み込んだ。
「流砂だ!」
そういったのは、おじさんだった。
ぼくはジープにくくりつけたロープをおじさんに向かって投げてやった。
それを掴むことに成功した彼は、何を思ったのか、流砂の窪みにむかって泳ぎだした。
「カリプソ!」
そう叫んだジャンは、肩口まで砂につかりながら、大して動じている様子もなく、ただおじさんの顔眺めていた。
それで、ちょっと微笑みながら
「とことん運のないやつだぜ・・・」
なんていったんだ。
「お前に言われたくないね」
おじさんは笑って埋もれていくジャンの顔を眺めたりなんかしていた。
そして彼は、石ころに手を届かせた。
「おじさん! 早くこっちに来るんだ!」
そういったとたん、ジープが激しく傾いたもんだから、ぼくはそこを降りざるを得なかった。
彼は必死にロープを引いた。
でも、ジープが徐々に砂をすべるだけで、彼の体は一向に持ち上がらなかった。
「ジャン・・・。お前との腐れ縁は、どこまでも続くらしいぜ」
彼はそう呟くと、もうもがくのを止め、手にしていた石ころをまじまじと見つめた。
ぼくは着実に広がる流砂の円に入らないように後ずさりするので精一杯だった。
「おい、小僧。お前、もっと勉強したほうがいいぞ」
彼はそういってぼくに笑いかけた。
「さよならサルバドール。サンディの地がお前を呼んでいる」
彼は知らないはずのぼくの名前を呼び、呼んだと同時に、力いっぱい持っていた石ころを投げてきた。
石ころは丁度ジープの手前に落っこちた。
「おじさん! 待って、僕も行くよ。僕もおじさんと一緒に行くんだ。決めたんだよ。おじさん!」
ぼくはそういってジープのほうへ踏み出そうとした。
「おじさん・・・」
でもやめたんだ。
なぜって、最後まで残っていたおじさんの手が、ぼくに手を振っていたんだから。
それで、ぼくは目の前にある石ころもあきらめ、どんどんこっちへ向かってくる流砂に追われながら、後ろを振り返り振り返り、再び歩き出した。




