束の間の休息
ユダは時たま、平気で下世話なことをいっちゃうんだよ。
「寂しくなっちゃったんだね」
「一人で行ったんだよ。一人で頂上まで上り詰めて、この広大な敷地の所有者の仲間入りをするはずだったんだ・・・」
そういったクーベルタンは、初めて瞳の奥にぎらぎらしたものを覗かせたんだけど、それもすぐに形を潜めた。
「だが、いけなかったんだ・・・」
「いけなかった?」
「ああ。これからお前たちが行くところは、一人ではどうしても通り抜けられないところなんだ」
「一人ではいけないところだと? ・・・何がある?」
ジェラールは、少しあせったようにクーベルタンに迫った。
「お前たちに一つ頼みがある」
彼はそれだけ、目をつぶりながら言った。
「何が望みだ?」
ジェラールは一瞬ユダと目を合わせてから、そう切り出した。
「おれに、今回の、お前たちの組の中の誰かの名前を付けてくれ、適当につけてもらっては困る。実際にわかっている名前を、だ」
ジェラールは、一瞬考えてから、
「要するに、俺たちの組の誰かに、成りすますってことだな?」
なんて聞いた。
だからぼくは、
「それなら、エゴールがいいよ!」
なんて、眠いのも忘れてはしゃいじゃった。
彼は、目の下にひどいクマができているくらいで、これといって面白い鼻をしているわけではなかったんだけど、ぼくが思いつく名前といったら、これくらいだった。
「ああ、それがいい、気に入ったよ」
なんてクーベルタンがいったもんだから、ぼくはちょっぴり吹き出しちゃった。
「だが、偽名を使っていたらどうするんだ?」
「その時はそのときさ。結局名前を借りるのも、用心のためだからな」
ジェラールの問に、クーベルタンはそう答え、
「エゴールか・・・」
なんてちょっぴりかみ締めたりなんかしていたようだった。
「それで? お前はこの先、何を見たんだ?」
そうジェラールが問いただすと、クーベルタンはなんだか億劫そうに、
「明日話すよ。今日は疲れたろう。もう寝るといい。明日はおれが底まで案内してやるよ」
といった傍から、干草の穴に深くもぐりこんでしまった。
だからジェラールは何にもいえず、ぼくの顔を見たりなんかして、仕方なく干草を頭から被ったみたいだった。




