束の間の休息
ぼくらにあてがわれた部屋には、実際ベッドの類はひとっつもなかったんだ。
というより、金属なんかが全く見て取れなかった。
あるものといえば、壁の半分を埋める干草くらいのもんだった。
だからみんなはその中に豪快に飛び込んで、穴を掘ってみたり、自前の布団を編んでみたりした。
ぼくは器用じゃないから、当然穴を掘ってその中にもぐりこんだ口だよ。
草はよく干されていて、暖かいし蒸れないし、至って快適だったね。
「おれは本当にお前たちを待っていたんだよ」
なんてクーベルタンが話し出したのは、彼がぼくの直ぐ隣に穴を掘り出したときだった。
ぼくはとっても眠くって、返事もまともにできないくらいだった。
でも、彼は話し続けた。
「勿論、ここに客が来るなんてめったにないんだから、誰もが『まっていた』なんて言葉を口にしたんだろうよ。でもな、本当に目的を持って待っていた奴なんて、おれくらいのもんだよ。他の奴らときたらそんな言葉、何かの挨拶代わりくらいにしか思っていないんだ」
「じゃあ、あんたはおれ達がここに来ることを知っていたのか?」
ユダもぼくの直ぐ上に穴を掘っていたもんだから、話に首を突っ込んできたんだ。
「いや、お前たちがここに来ることを知っていたわけじゃない、ただ・・・」
「ただ?」
「信じていたんだ」
クーベルタンは鼻を一回すすってからそういった。
「信じていた?」
「ああ、信じていた。再びおれと同じような境遇の男達が、この山を登ってくることを、な」
「同じような境遇だと?」
そういってジェラールが器用に編んだ布団を引き摺ってきた。
辺りを見渡せば、もうラバは寝ているようで、ツェッペリンはそれを見守っているようだった。
「ああ、きっと来ると思っていたんだ。何しろ、お前たちの・・・何組前だかは知らないが、おれ達の組で、ここから先に進んだものはいないんだからな」
クーベルタンはあっさりそういうと、
「一人も選定場に辿り着けなかったんだから、また何人かを集めないわけがないだろう?」
なんてジェラールの顔を平気で見つめたんだ。
「あ・・・あんたは・・・?」
彼はでっかい傷跡の付いた目尻をひくひく言わせ、
「この血族選定の場に、おれ達より先に集められた・・・」
そこまで言うと、急に、
「他のやつらはどうした?」
なんて、我を失ったようにいったんだ。
「・・・とにもかくにも、おれは次にあの洞窟を登ってくる者を待ち続けていた。一人でも、二人でもよかったんだ」
クーベルタンは自分の言いたいことを自分のペースで言っているみたいだったんだけど、なんだか心底疲れて見えた。
「はじめはよかったんだ。ここの環境は案外悪くない。食いもんには困らないし、この小屋があったから寝床も心配ない、暖も取れる。空気なんか、飛び切りうまいしな。だがな、何時来るかわからない、本当に来るのかもわからないやつらを待つって言うのは、想像以上に苦しいものだったよ」
ぼくは彼の話をうとうとしながら聞いていた。
「あの日からだ、段々時間の感覚がなくなっていったんだ。ほら、あの、分厚い雲がこの世界を覆った日だよ。おれはそれまで、一日一日数えながらお前たちが来るのを待っていたんだ。だがその日からは、食事の数で数えることにしたんだ。だが一日中真っ暗なんだぞ? 時間の感覚なんか、あっという間に崩壊して、結果食事をする時間なんかも、ばらばらになってしまったよ。腹が減ったら食って、満腹になったら寝て、起きて、トンネルをずっと眺めて、湖に石を投げて家に帰る。その繰り返しだ」
「ちょっと待ってくれ。ここから先を進むには、むしろ一人のほうが都合がいいだろう。競う相手がいないんだから」




