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束の間の休息

人の厚意ってのは、簡単に無下にするもんじゃないよ。


断るにしても、それなりの理由がなくちゃね。


お腹がペコペコでどうしようもないぼくらに断る理由なんてあるはずなかったんだ。


でも、ジェラールたちはしぶしぶといった感じに青年の背中についてきた。


ぼくなんかは、彼が持っていた干からびた果物の入った編み籠を持とうといって、彼より先に小屋へ入ったもんだよ。


ジェラールたちも結局青年に感謝したんだと思う。


だって、わざわざ自分達で料理を作ったんだもの―――ツェッペリンの作った干し肉を焼いたやつにかかった緑色のソースは格別だったな。


みんなそれぞれ一品ずつ作ったんだけど、お風呂に薪をくべていた青年とぼく、それに、ラバは何も作らなかった。

 

「おれは、お前たちが来るのを待っていたんだ」


青年は釜戸の中の熱せられた薪を見たままそういった。


それで、


「おれはクーベルタンだ」


って、こっちにチラッとだけ微笑んだ。

 

「ぼくらを待ってるって、それ、ここに来るまでにあった人みんなに言われているよ」


ぼくはちょっと冗談っぽくいったんだけど、クーベルタンはそれで少し機嫌を悪くしたみたいで、

 

「・・・違う・・・」


って結構力強くもらすと、それきり口を閉ざしてしまったんだ。

 

そんなもんだから、ぼくは彼に嫌われてしまったんじゃないかって気が気じゃなかったな。


でも、彼は薪をいい具合にくべ終わると、やっぱり気楽な感じに、それでいて何処かひどく疲れた感じのわからない微笑で、ぼくを小屋の中へ誘った。

 

ものすごい勢いで食事をしているみんなを、彼はユダが作った荒っぽいスープをすすりながら見守っていた。


彼、あんまり料理を口にしなかったんだ。


だから


「お口に合いませんでしたか?」」


ってツェッペリンが神経質に訊いた。


彼は何もいわずに、スープの器を挙げて見せただけだった。

 

食事が終わるとお風呂に誘われた。


ぼくはみんな一緒に入ったほうが楽しいから全員を誘ったんだけど、ジェラールが真顔でそれを拒んだもんだから、ちょっぴりふてくされたんだ。


でも、お風呂は絶妙な湯加減で窓からあの鏡みたいな湖が見えたから、結構長く入っていられた―――実はぼく、大のお風呂嫌いだったんだけどね。

 

お風呂から上がってくると今までの疲れがどっと出て、熱に浮かされているみたいな感覚になった。


ぼくがしきりにあくびをしたもんだから、クーベルタンはすぐに寝室に通してくれた。


ぼくと彼は何かと二人きりになる場面が多かったんだけど、いつの間にか誰かがぼくらの間に割って入ってきたんだ。

 

「悪いが、あんたと一緒には眠れないんだ」


ぼくが眠るのを待ってくれていた彼に声を掛けたのは、ジェラールだった。

 

そんなことをいわれたんだから怒らせてしまっただろうと思ったんだけど、クーベルタンはなんだかちょっと可笑しかったみたいで、


「ああ」


って呟くと、ジェラールの肩に手を置き、


「おれは自分の寝室に戻るよ」


といって部屋を出て行こうとした。

 

「待って、ここに全員で寝ようよ、クーベルタンだけ一人で眠るなんて寂しいじゃないか」


ぼくはそういって彼を引きとめ、ジェラールに抗議した。


でも彼は頑なに首を振って、その癖、背後に回ったクーベルタンのほうを窺ったりした。


「いいんだよ」


ジェラールが何も言わないでいると、彼は少し寂しげにそういい、


「疲れているんだろ、もうお休み」


って、あんまり年が離れているとは思えない風貌なのに、ひどく大人びた言葉を投げかけてきた。


だからぼくはなおさら行ってほしくなくなってしまって、

 

「仲間はずれはよくないって、ジェラール、君、そう教わらなかったのかい? それに彼はぼく達の恩人じゃないか」


ぼくはジェラールの手を掴んでそう追い縋り、長い髪を優雅にといたりなんかしているラバに助けを求めたりなんかした。


彼は髪を梳いていた櫛を一旦止め、黙ってジェラールをみると、何もいわずにまた手を動かしただけだった。


でも、次にはジェラールのおっきな溜息なんかが聞こえて、顔を上げると彼のちょっと呆れたような諦め顔が見えたんだ。


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