出会い
「おい、勝手に対象者を蹴落としちまっていいのかよ」
正面のやつがそういったのは、動かないやつが僕の体と殆ど重なっている、まさにその時だった。
「今更何を言ってるんだ。僕は苦しいんだ」
お尻が荷台に食い込んでいる気がしてならないんだよ。
僕は力いっぱい引くんだけど、期待通りにはいかないものなんだよね。
「こいつはもうとっくに死んでいるんだぞ? 対象者もクソもあるか」
ユダが半分叫んでそういった。
でも、動かないやつは動かないんだよ。
そいつのベルトと僕のベルトが絡まっていたんだな。
だから僕は、そいつを一回浮かせる必要があった。
「おい、正面の人、悪いが少しだけ足を持っていてくれないか?もうちょっとで落とせそうなんだ」
動かないやつは既に頭が荷台の仕切りから出ている状態だった。
胸まで出せば大分楽になるっていうのに、そのちょっとが動かないんだ。
正面のやつは鼻で笑った。
「嫌だね。どうして俺が坊やなんぞのお守りをしなくちゃならないんだ」
僕はそんな冷やかしみたいなのをされると、すぐに頭が来ちゃうほうなんだ。
でも怒らなかった。
実は怒るどころじゃなかったんだ。
「頼む。あんたが持ってくれれば全部うまくいくんだ」
ユダも結構差し迫った声を出したよ。
「おい、ちょっとくらいもってやらないか」
その声は暗闇のあいつの声だった。
僕は見たんだ。
動かないやつの頭が荷台の端に挟まっている所為で、月明かりが中まで入ってきていた。
そいつはやっぱりフードを被っていたんだけど、それでも判るくらいの傷跡が顔の半分にあって、それが片目を塞いでいたんだ。
僕は驚いたな。
でも声も出せなかったし、逆にそれでよかったんだと思う。
「選定場では、団体行動もあるそうだぞ? 今のうちに味方を作っておいたほうが利口だと思うがな」
暫く僕は苦しんでいた。
その間正面のやつはずっと俯いていて、月明かりにも隠れていたんだ。
僕は最後の力を振り絞る決意をつけていた。
そしてそれが固まったとき、こう叫んだんだ。
「頼む、力を貸してくれ!」
僕は夜空を見ていた。
とっても明るかったんだけど、どんどん暗くなっていったよ。
目がちかちかして気持ち悪いのさ。
でも、このまま圧迫されるのなんて最低じゃないか。
だから僕はやったね。
力の限りやった。
そんな時だよ。
頼んでみるもんだね。
あんなに協力しそうになかった正面のやつが、動かないやつの足を持ち上げだしたんだ。
それも必死な形相で。
足を持ちにきたから、そいつの顔が月明かりに照らされたんだ。
僕は笑いをこらえるのに必死だったね。
本当なんだ。
もう直ぐ目の前が真っ暗になりそうだってのに、僕はそいつの潰れたでっかい鼻の穴を見ちゃったんだよな。
それは笑えたよ。
笑うと力が入らないのに、笑わずにはいられなかった。
本当に豚みたいな鼻をしていたんだもの。
でも助かったよ。
それは間違いない。
だって、その助けがなかったら、動かないやつはいまだに僕の上にいて、僕を窒息させていただろうからね。
でも漸くそれを押し出すことに成功したんだ。
僕はすぐにすごい勢いで噎せた。
長い時間息ができていなかったんだ。
ユダもなんとなく僕の腰に手を当てて息切れしたりしていた。
正面の男も、同じようにしていたんだけど、僕はそいつに、ありがとうっていえなかったんだ。
なぜなら、僕の視界はそのままシャットアウトしてしまったんだからね。
気を失う前に、ユダは僕を心配しているようだったんだ。
でも僕はもう力を使い果たしていて、それに応えられなかった。
でもこれだけは憶えている。
ちょっとばかし早く立ち直った正面のやつが、こっちに向かって
「これで、貸しができたな」
なんて言いやがったのさ。
生意気にね。
豚っ鼻の癖してね。
でも僕はその言葉の所為で漸く、長く引っかかっていたことを思い出せたんだ。
そいつの「貸し」っていう言葉にね。




