一歩
母さんがいなくなって、ローザがいなくなって、ランがいなくなった。
代わりに
―――正確にはローザの代わりに―――
取り残された僕のところに、肩肘を張った弁護士がやってきたんだ
―――あまり覚えていないけど、確かランが出て行って直ぐの時だった。
弁護士は僕に対しても敬語を使ったりなんかしたんだ。
たいしたもんだよ。
だれかれ構わず敬語を使っていたに違いないのさ。
そんな口調で丁寧に説明しているようで、小さい僕には何がなんだかわからない言葉ばっかりを並べ立てて、
挙句に、
家はもう僕のものじゃない、
なんていうんだ。
僕は、
家はうちのもんだ、
なんていったものだね。
でも弁護士は笑み一つ浮かべずにそこまでに至った経緯を話した。
それは弁護士にとって見ればちいちゃなぼくへの慈悲のようなものだったんだろうけど、こっちにとってみれば迷惑以外の何者でもなかったね。
弁護士は話すんだ、あの嫌味な口調でね。
僕が聞き返したときにだけわかりやすく説明する。
でもそんな時は、絶対説明が要らないところまで細かく説明したりするんだな。
参ったね。
でも弁護士にしてみたら親切心みたいなところがあったみたいだよ。
だから僕は我慢したのさ。
そして、話の要点が漸く見えてきたときには、お腹がすごい勢いでなっていた。
あまり気にはしていなかったけどね。
弁護士は、ローザに雇われた人だった。
ローザは僕のうちの財産を貰い受ける権利があるって言ったらしいんだ。
確かに、ローザは家の女中を長年していたし、ママの信頼も格別だった。
でも、僕は言ってやったね。
ローザはもう家の大部分の財産をとっていったって。
僕はそんなことには無頓着だったんだけど、ランが出て行くときに言った言葉をそっくりそのまま弁護士に言ってやったんだ。
でもね。
弁護士は僕の言葉には全く動じなかった。
逆に、ちょっと笑いを堪えたりなんかしているんだ。
ぼくは腹が立って、ちょっと斜に構えたりしたね。
でもやっぱり僕は小さいから迫力なんてない。
それに、
弁護士って言うのはそんなことには慣れっこなのさ。
だから怯んだ僕の表情を逃さなかった。
そして、聞かなくてもよかった本当の事を説明し始めたのさ。




